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号泣必至の感動作!パット・ブーンニティパット監督が語る“おばあちゃんと僕の約束”とは?

  • 2025.6.18

『おばあちゃんと僕の約束』©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
 
大学を中退した青年エムは、母と暮らしながら、細々とゲーム実況を続ける日々。いかに楽をして暮らすかを模索するなか、一人暮らしの祖母がステージ4のがんに侵されていることが判明。エムは祖母の介護をして遺産を相続しようという不謹慎な動機から同居を始めますが、早起きすらできず、働き者の祖母に怒られてばかり。さらには裕福な長男一家や借金苦の末息子も近寄ってきて……。
 
バンコクに暮らす中国系タイ人の家族の物語を描いた『おばあちゃんと僕の約束』は、2024年に本国タイで公開されると、“泣ける映画”として若者を中心に多くの観客の心をつかみ、タイ映画史上最高の世界興行収入120 億円超を記録しました。
 
監督・脚本は、本作が長編映画初監督作品となるパット・ブーンニティパット。主人公の孫エムを演じるのは、タイの人気俳優でシンガーのビルキンことプッティポン・アッサラッタナクン。おばあちゃん役は、78歳にして初めて長編映画に出演したウサー・セームカムが演じています。
 
高齢化社会の問題や家族の絆を温かな視点で、ときにユーモアや毒をちりばめながら描き、国も世代も超えた感動作を作り上げたブーンニティパット監督の才能には驚くばかり。今回、日本での劇場公開を前に5月に来日した監督にインタビューを行い、撮影秘話や自身の祖母とのエピソードなどをうかがいました。

パット・ブーンニティパット監督にインタビュー(2025年5月下旬、東京都内)

タイでは家族の映画はヒットしないといわれていました

――本作は、脚本家の発案をもとに、ブーンニティパット監督が参加して共に脚本を書き上げたと聞いています。もともとお知り合いだったのですか?

パット・ブーンニティパット監督(以下、ブーンニティパット):脚本家が書いた短いプロットをプロデューサーが気に入り、監督をやらないかと声をかけていただきました、プロットを読んで、ぜひやりたい、と思いました。また、タイでは家族の映画は少なく、しかも大手映画製作会社(GDH 559)のもとで作られることはめったにないので、よい機会だと思いました。脚本家は僕より少し年上で、同じ大学の出身ですが、今まで一緒に作品を作ったことはありませんでした。

――長編デビュー作が大ヒットを記録しました。予想していましたか?

ブーンニティパット:私の最初の監督作であると同時に最後の監督作になるかもしれないと思っていました。タイでは家族を描いた映画は興行収入を上げられないと聞いていたからです。監督を引き受けたときは、大変だけれどせめて赤字を出さないように精一杯やろう、と思いました。それでどういうスタイルにするか考えたとき、僕自身が好きな古い映画を観た後のような、フラストレーションを感じさせない作品を撮ろうと決めました。この映画で有名になろうとか興行収入を上げようとかは一切考えずによい映画を撮ることに徹したので、観客に対してとても誠実な作品になったと思います。 

「まさか私の人生を映画にする気?」と言う祖母とある約束をしました

『おばあちゃんと僕の約束』©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――脚本を書くにあたり、監督はご自身のおばあさまと数か月暮らしたそうですね。

ブーンニティパット:祖母と暮らしながら、あれこれ質問して話を聞きました。たとえば、「おばあちゃんに3人の子どもがいたとして、一番目が長男で、二番目が面倒見の良い長女で、三番目がダメな息子だったら、誰が一番好き?」とか。「孫がこういう言動をしたら、おばあちゃんならどんなふうに怒る?」とか。

――本作の物語の設定そのものですね。おばあさまは映画のことを知らなかったのですか?

ブーンニティパット:はい、最初はまったく。ある日、外食に行った帰りに車の中でいろいろ聞いていたら、祖母がくるっと振り向いて、「あんた、まさか私の人生を映画にする気?」と聞いてきたんですよ。当時祖母は90歳になる少し前で、映画の製作過程に詳しいわけでもないのに、気付かれてしまいました。

自然に演じ切ったビルキンを誇りに思います

――その後、どうされたのですか?

ブーンニティパット:この映画は儲からないといわれていましたし、1,000万~2,000万バーツの興行収入を上げることができればいいほうだろうと考えていました。だから、「もし、おばあちゃんの人生を参考にしたこの映画が1億バーツ以上の興行収入を上げたらお金をあげるね」と約束したんです。祖母は宝くじを買うのが好きなのですが、ほとんど当たったことがないので、映画が大ヒットしたら宝くじの一等をあげると言ったんです。映画が思いがけず大ヒットしたので、ある程度のお金をあげたら、祖母はとても幸せそうでした。

――おばあさまは今もお元気ですか? 映画をご覧になって、どのような感想をもたれたのでしょうか?

ブーンニティパット:祖母は今92歳で、元気です。タイで行われた本作の完成披露試写会にも来てくれました。上映が終わった瞬間の祖母の反応を撮ろうとカメラを向けて駆け寄ったら、劇場中の観客が泣いているなか、「ふつう」と言われました(笑)。

(監督はスマホを取り出し、試写会終了後のおばあさまの様子を映した動画を見せてくれました)

――おばあさま、満面の笑顔ですね。監督の活躍を喜んでいらっしゃる様子が伝わってきます。

ブーンニティパット:この翌朝、祖母が僕のところに来て、こう言ったんです。「映画はふつうだった。私の人生の方がもっと大変だったんだから」と。ああ、祖母はいつも予想外の答えをくれるから、僕は彼女と話すのが楽しいんだな、と実感しました。

自然に演じ切ったビルキンを誇りに思います

『おばあちゃんと僕の約束』©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――エムを演じたビルキンさんは、日本でも人気がありますが、オーディションで選ばれたのですか? いかにも今時の若者である青年が祖母との交流を通じて成長し、終盤はとてもよい表情をしているのが印象深いです。

ブーンニティパット:僕にとって今回の映画は長編初監督作だったので、彼と一緒に仕事をすることで自信を持ちたかったし、親しくなりたいと思いました。また、彼も僕と組むことは、気が楽だったと思います。ただ、彼は演技をするのが2年ぶりだからオーディションを受けたいということでした。オーディションの初日、彼に感情的に涙を流すシーンを演じてもらったのですが、プレッシャーが大きかったのかうまくいきませんでした。それで半年ほどワークショップを行ったところ、彼は気負うことなく自然に演じきってくれました。ほとんどのシーンが1テイクか2テイクでOKでした。そんな彼を誇りに思います。

主演のビルキンとパット・ブーンニティパット監督(メイキング写真)
©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――おばあちゃん(メンジュ)役のウサー・セームカムさんは、本作が長編映画デビュー作です。ご高齢ということもあり、長時間の撮影は大変だったのではないかと思いますが、撮影はどのように進めましたか?

ブーンニティパット:以前ドラマを撮っていたとき、予算が少ない一方でたくさんのシーンを撮らなければならず、俳優に無理をさせてしまったことがありました。撮影が大変になるのは、ショット数が多すぎるからなんです。今回の映画では、おばあちゃん(役のウサーさん)に負担をかけないために、最低限のショット数を心がけました。平均的な映画の1/5程度に抑えて、一日に撮るショット数を少なくしたことで、俳優もスタッフもリラックスした雰囲気を保つことができました。その分、撮影前の準備には通常の3倍くらいの時間をかけました。

墓参りのシーンを撮影中の様子(メイキング写真)
©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

孫の母親の役名は、僕の母の名前と同じなんです

パット・ブーンニティパット監督。ブレスレットは、本作のスタッフが作ってくれたものだという。

――おばあちゃんの家の庭にザクロがありましたよね。実は私自身も子どもの頃は祖父母も一緒に暮らしていて、庭にザクロがあり、あの赤い実を食べていたので、とても懐かしい気持ちになりました。

ブーンニティパット:中華系タイ人にとってザクロは霊験あらたかな木で、神棚の掃除をするときに葉っぱで払うなど、厄払い的な意味があります。それに育てやすいので、タイでは庭木として広く植えられているんです。

『おばあちゃんと僕の約束』©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

――他にも共感したシーンがたくさんありました。本作は、孫、親、祖父母、と幅広い世代の生き方や家族観を温かな視点で描いていて、多くの人が自分のこととして考えられるのではないかと思いました。『大人のおしゃれ手帖』の読者は50代の女性が多いので、ちょうどエムの母親の世代にあたり、彼女のように親の介護の問題に直面している人も少なくありません。

ブーンニティパット:
この映画に登場するエムの母親・シウは50代ですが、実は私の母親も同じ名前なんです。私は母から人生のほとんどのことを学びました。母はとても優しくて素晴らしい人で、人生の手本にしてきました。自分を後回しにしても他人を思いやる母の姿を、シウというキャラクターで表現したいと思ったのです。

母シウを演じたサリンラット・トーマス。©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

取材の終わりに、「ありがとうございます」「おつかれさまです」と日本語で挨拶をしてくれた監督。彼の穏やかで温かな雰囲気は、本作の魅力そのものでした。
 
タイ語通訳:高杉美和

パット・ブーンニティパット

PROFILE

1990年生まれ。タイの映画監督、脚本家。大学卒業後、ドラマシリーズの製作などを経て、映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(17年)のドラマ版リメイク「Bad Genius(英題)」(20年)の監督に抜擢される。これがきっかけとなり、『バッド・ジーニアス~』の製作陣と共に『おばあちゃんと僕の約束』(24年)で再びタッグを組み、長編映画デビューを果たす。

『おばあちゃんと僕の約束』

大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エムは、従妹のムイが祖父から豪邸を相続したと聞き、自分も楽をして暮らしたいと画策。彼にはお粥を売って生計を立てている一人暮らしの祖母メンジュがおり、ある日、ステージ4のがんに侵されていることが判明する。エムは祖母と同居して介護をすることで相続を得ようとするが、祖母と一緒に過ごすうちにエムの気持ちが次第に変化していく……。

監督・脚本:パット・ブーンニティパット
脚本:トッサポン・ティップティンナコーン
出演:プッティポン・アッサラッタナクン(ビルキン)、ウサー・セームカム、サンヤー・クナーコン、サリンラット・トーマス、ポンサトーン・ジョンウィラート、トンタワン・タンティウェーチャクン
配給:アンプラグド
©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

2025年6月13日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開中

構成・文

ライター
中山恵子

中山恵子

ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。

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