1. トップ
  2. 恋愛
  3. 『BPM ビート・パー・ミニット』監督が亡き盟友の遺志を継ぐ――南仏を舞台にした、あまりにも静かで残酷な青春映画

『BPM ビート・パー・ミニット』監督が亡き盟友の遺志を継ぐ――南仏を舞台にした、あまりにも静かで残酷な青春映画

  • 2026.3.13

この映画は、大きな声で「青春」を語らない。『君の見る世界をなぞる』が描くのは、誰にも共有されないまま内側で膨らんでいく感情だ。「痛々しいまでに瑞々しい青春物語」という言葉が示す通り、エンゾの心は未熟で、不安定で、だからこそ切実である。家族は安定し、生活も順調に見える。しかし本人だけが感じ取っている世界とのズレが、日常のあらゆる場面で彼を孤立させていく。その感覚は、ひと夏という限られた時間の中で、ゆっくりと、しかし確実に深まっていく。

南仏の風景は、映画全体を柔らかな光で包み込む。その一方で、建築現場という舞台が、階級や国籍の違いを生々しく映し出す。エンゾが心を寄せるウクライナ出身の青年ヴラドは、戦争という現実によって引き裂かれる存在だ。若者が未来を夢見ることすら許されない状況が、個人的な恋と交差することで、物語は一気に現代性を帯びていく。ここで描かれるのは、特別な誰かの物語ではなく、世界の片隅で確かに起きている現実だ。

主演のエロイ・ポフは、本作が俳優デビューとは思えないほど、繊細な心の揺れを体現する。視線の揺らぎや、言葉を飲み込む間が、エンゾの内面を雄弁に語る。両親役を務める実力派俳優たちは、感情を爆発させることなく、家庭に潜む緊張感を描き出す。また、実際の労働者を起用したアマチュア俳優の存在が、階級差や偏見を単なる設定ではなく、現実として突きつける。

本作は、ローラン・カンテが遺したプロジェクトを、ロバン・カンピヨが引き継いで完成させた作品であり、その事実自体が映画に特別な重みを与えている。第78回カンヌ国際映画祭監督週間のオープニングを飾り、クィア・パルム賞にもノミネートされた話題作が、8月、日本で公開される。さらに、第33回フランス映画祭での上映と監督来日イベントも予定されており、公開前から国内での関心は高まり続けている。静かなのに、胸に刺さる。その感触を、ぜひ劇場で確かめてほしい。

『君の見る世界をなぞる』

監督:ロバン・カンピヨ(『BPM ビート・パー・ミニット』)
出演:エロイ・ポフ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、エロディ・ブシェーズ、マクシム・スリヴィンスキー ほか
2025 年|フランス、ベルギー、イタリア|フランス語、ウクライナ語|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|102 分
PG12|原題:ENZO|字幕翻訳:リネハン智子|配給:樂舎
©Les Films de Pierre / Lucky Red / Page 114 / Les Films du Fleuve / France 3 Cinéma / AMI, Alexandre Mattiussi

8 月 21 日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開

元記事で読む
の記事をもっとみる