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NHK朝ドラで“早くから存在感”を発揮「成長しててビビる」物語に“奥行きを与える”異質な存在を演じる【新・夜ドラ】

  • 2025.6.27

NHK夜ドラ『あおぞらビール』は、若者たちのゆるくも熱いアウトドア青春譚を描いた作品だ。元気いっぱいの男子大学生三人が繰り広げる珍道中のなか、ふと視線を奪われる存在がいる。それが、豊嶋花演じる三条弥生。主人公・森川行男(窪塚愛流)と同じ文学部の女子学生だ。メガネ越しの視線と控えめな表情のなかに、彼女は“語らない力”を見事に宿してみせる。

子役から磨かれた「自然さ」の美学

豊嶋花は、NHK朝ドラ『梅ちゃん先生』『ごちそうさん』などで早くから存在感を発揮し、ドラマ『トットちゃん!』では黒柳徹子の幼少期を好演。さらに『大豆田とわ子と三人の元夫』では松たか子演じる主人公の娘役を務め、その繊細な演技でギャラクシー賞を受賞している。

彼女の演技に共通するのは「自然さ」だ。台詞に頼らず、目線や間で感情を伝える力。子役として早くから多くの現場を経験してきた彼女だからこそ、変につくり込まない、自然とその場に存在する演技の難しさと価値を体得している。

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夜ドラ『あおぞらビール』第1週(C)NHK

『あおぞらビール』で豊嶋が演じる三条は、陽気な男子三人と比べると少しだけ異質な存在だ。彼らが冒険と達成感に酔いしれるなか、彼女はいつも一歩引いた位置から彼らを観察する。物語に直接介入するわけではないが、その「静かな観察者」という立ち位置こそが、物語に奥行きを与えている。

たとえば、行男がキャンプのお土産に渡したピーナッツ型のキーホルダーを、三条がカバンにつけているシーン。言葉では何も語られないが、その小さな所作が、彼女の心の揺らぎや好意を雄弁に物語っている。視聴者はその余白に、共感と想像を働かせずにはいられない。

“共感”という鍵で演技に深みを与える力

豊嶋花は、インタビューなどで自身の演技について「共感性」を大切にしていると語っている。役柄の心情にどこまで寄り添えるか。自分のなかにある感情をどれだけ丁寧に引き出せるか。彼女の演技からは、そうした思索と努力の痕跡がにじみ出ている。子役から着実に力をつけ、実績を重ねている彼女に対し、SNS上でも「順調に成長しててビビる」「演技も上手いし綺麗」と声が挙がっている。

出典:“等身大”を楽しむ芸歴17年の18歳、豊嶋花の演技力をつかさどる「共感性」とは

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夜ドラ『あおぞらビール』第2週(C)NHK

三条というキャラクターは、内に秘めた情熱をなかなか外に出せないタイプだ。真面目そうで大人しくて、どこか頑なで、だけど時折見せる視線の揺らぎに、人間味が宿る。こうした「感情を抑えている演技」は一歩間違えば不自然に伝わりにくくなってしまうが、豊嶋はそのバランスを見事にコントロールしている。

『あおぞらビール』で豊嶋花が演じる三条は、役の比重こそ決して大きくはないものの、だからこそ演技力が問われる。そしてそのなかで、確かな印象を残すことができる俳優こそが、次のステージに進む。

今後、彼女にはヒロインだけでなく、脇役として物語の奥行きを支えるような、柔軟かつ力強い役どころが期待される。決して派手ではないが、静かに物語を支え、観る人の心に残る演技。それが、豊嶋花という俳優の本質なのかもしれない。

豊嶋花は、子役時代から積み重ねた経験と、共感を武器にした繊細な表現力で、いま、あらためて注目される存在である。『あおぞらビール』という、ゆるやかで熱のある青春群像劇のなかで、彼女は確かに観る側のキャラクターに魂を吹き込んだ。その視線の奥にある物語を、これからも見逃さずにいたい。


NHK 夜ドラ『あおぞらビール』毎週月~木 よる10時45分~11時00分
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_