1. トップ
  2. “振り向きだけ”でも心を掴まれるほどの圧倒的演技力… 自然体な演技が評価された女優の“今後演じてみたい役”

“振り向きだけ”でも心を掴まれるほどの圧倒的演技力… 自然体な演技が評価された女優の“今後演じてみたい役”

  • 2025.6.26
undefined
(C)SANKEI

杉咲花が6月2日に開かれた『第62回ギャラクシー賞贈賞式』にて、テレビ部門の個人賞を受賞した。

杉咲は、カンテレ・フジテレビ系『アンメット ある脳外科医の日記』、TBS系日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』の2作の演技が高く評価されての受賞。「神は細部に宿るということを信じてやってきた日々は間違ってなかった」と笑みを見せた。

『アンメット』15分近くに及ぶ、ミヤビと三瓶とのワンカット長回し

式で杉咲に花束を手渡していたカンテレの米田孝プロデューサーも話題に挙げていたシーンだが、『アンメット』第9話のラストシーンはもはやファンの間で語り草となっている。

杉咲花が演じる川内ミヤビは、1年半前の事故により過去2年間の記憶を失い、毎朝目覚めるたびに前日の記憶がリセットされる重度の記憶障害を抱えている。それでも看護助手として働き、患者に寄り添いながら、脳外科医としての自分を取り戻そうとする。

15分近くに及ぶワンカット長回しのミヤビ(杉咲花)と三瓶友治(若葉竜也)のナチュラルな会話は、どこまでが芝居なのかが分からなくなるほど。その裏には脚本を手がける篠﨑絵里子の入念な三瓶のキャラクター造形とバッググラウンドもあるようだが、それをミヤビとして純真に受け止めながら、不安や葛藤を滲ませる杉咲の演技が光っている。杉咲と若葉のセリフの掛け合いを例に、スタッフ・キャスト陣の作品への熱がこうして放送から1年が経ってもなお語られる作品へと昇華させたと言える。

また、筆者がもう一つ印象的なのは、最終回のラストシーン。毎朝、目を覚ます度に全ての記憶を覚え直していたミヤビが、目の前にいる三瓶を見て――というシチュエーション。これまで幾度となく記憶のない朝を繰り返し、それでも毎回異なるリアクションを見せてくれていた杉咲が、それらとはまた違った新鮮な驚きと喜びを表情に浮かべる。なかなか容易に想像できる身の上ではないが、決してフィクションとも言い難い。杉咲が式の中で役作りに意識していたと話していた「自分たちの生活とドラマの中が地続きであってほしい」というマインドが『アンメット』の作品全体の空気感を形成している。

『海に眠るダイヤモンド』芝居がかっていない朝子と鉄平のやり取り

自然体の演技と言えば、思い出されるのが『海に眠るダイヤモンド』での朝子(杉咲花)としての芝居にも触れたい。朝子は、銀座食堂の看板娘で、炭鉱で働く鉄平(神木隆之介)を幼い頃から思い続ける女性。頭をかく仕草や振り向き際、照れ笑いなど、何気ない演技から朝子としての心情を分かりやすく伝えてきた。それは脚本の野木亜紀子がSNSで「五話の最後の振り向き朝子、めっちゃ可愛かった」とポストするほどだった。

こちらもファンの間では語り草となっているシーンだが、『海に眠るダイヤモンド』第6話の何かを言いたそうな朝子に、鉄平が自分と向き合い、意を決して「朝子が好きだ」と告げる場面はSNSでも絶賛の嵐となった。カメラに背を向けたり、涙を拭ったり、顔を両手で覆ったりと、芝居がかっていないやり取りは、まるで2人の幸せな瞬間を我々視聴者が覗いているような感覚にもなってくる。

杉咲と神木は『海に眠るダイヤモンド』で7度目の共演だったが、杉咲と若葉も『アンメット』で4度目の共演と、どちらも記憶と経験を積み重ねてきたからこそ、ここまで称賛される作品を作り上げられたというのもあるだろう。

式では今後演じてみたい役を聞かれ「幼稚園か小学校の先生をやってみたい」と話していた杉咲。最近では広瀬すず、清原果耶とのトリプル主演映画『片思い世界』が記憶に新しいが、10月には主演映画『ミーツ・ザ・ワールド』が公開となる。演じるのは、擬人化焼肉マンガ「ミート・イズ・マイン」に全力で愛を注ぎながらも、自分のことは好きになれない主人公。杉咲が複雑な設定ではない、ストレートな役を演じるのはまだまだ先になりそうだ。


ライター:渡辺彰浩
1988年生まれ。福島県出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展、『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。