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大河ドラマで実は“台本になかった”2文字「知らなかった」「めっちゃ自然」ヒロインを印象づけた“シーンの裏側

  • 2026.3.8
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『豊臣兄弟!』1月4日放送 (C)NHK

大河ドラマ『豊臣兄弟!』で女優・白石聖が演じる“直”は、視聴者が気づきにくい一瞬にこそ魅力を秘めたヒロインだ。キャスティング決定から撮影初日までは、わずか1カ月。クランクインの緊張で“虚無すら感じた”という白石が、初登場シーンを印象付けるために、とあるアドリブをしたことが明かされた。SNS上でも「知らなかった」「めっちゃ自然」と話題を呼んだ該当シーンにおいて、主人公・小一郎(仲野太賀)との間に流れる、いわば友達以上恋人未満の温度を立ち上げてみせたのだ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

一瞬で形作られたヒロイン像

派手な名台詞で印象付けるタイプではないヒロイン・直。むしろ、そっと置いておくような視線や一拍遅れて届く呼吸など、“取りこぼしそうな一瞬”で視聴者の心をほどいてくる術に長けている。

男勝りで明るく奔放。しかし、それは照れ隠しで弱さも秘めている。幼馴染の小一郎を想う気持ちは、熱いのに静かで一途だ。だからこそ直は、ただの幼なじみでは終わらない。希望の象徴とも思える輪郭が、初登場の時点ですでに、露わになっている。

なぜ彼女は、短い登場期間でも印象の深いキャラクターになったのか。その答えの一つとして、白石が“完璧な正解”を目指す代わりに、その瞬間、その場の空気そのものを信じて、直という人物像を形作ったからだろう。

キャスティング決定から撮影初日まで1カ月。準備期間としては短い。初めての大河ドラマ出演で、毎日が試行錯誤だった。役作りに苦労したという言葉は、むしろ控えめに聞こえるほどである。

それでも、現場で白石が見せたのは、騒がしさではなく“静かな集中”だったという。直の父・坂井喜左衛門を演じる大倉孝二が“てっきり静かな人だと思っていた”と語ったのは、彼女が感情を散らさず、集中を切らさず、まっすぐ撮影に向き合っていたからかもしれない。

おもしろいのは、その印象がプライベートでは反転するところだ。小さい頃からお笑いトリオ・東京03が好きで、念願叶ってラジオコントを一緒にやったこともあるほど。プライベートでは、手作りのバブーシュカを被って出かけることもあるという。

役作りとは、重く抱え込むだけじゃなく、手を動かしながら生活の過程で形を整えることでもある。白石の芯の強さは、きっとそういう“手触り”からも立ち上がっているのではないだろうか。

もっとも緊張したクランクイン

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『豊臣兄弟!』1月4日放送 (C)NHK

白石がもっとも緊張したのは、彼女自身のクランクイン当日に撮影した、直の初登場シーンだったという。直は史実にはないオリジナルキャラで、どこにも“答え”がないぶん、第一印象がすべてになる。だからこそ仲野太賀をはじめ、製作陣も“直が素敵に、印象的に映るように”と案を出し合っていた。

後から見返すと「もっとできることがあったんじゃないか」と思う一方、「その時にしか出せない空気感もある」と当時の撮影を振り返る白石。そして明かされるのは、初登場シーンにまつわる、とあるアドリブの存在である。

直の初登場を象徴する、決定的な“ひと声”。それが、軽快に発せられる「おい!」という一言だ。寝そべっている小一郎、その彼の視点から空を背に直が覗き込んでくる。実はこの「おい!」は台本になく、アドリブだったようだ。もともとのセリフがない状態で、どう画面に入るか悩んだ末、何か声がけがあったほうが入りやすいと判断したという。

幼なじみだからこそ許される距離の近さで、でも恋人ではないからこそ“ちょっと雑”にしてしまう照れ隠し。友達以上恋人未満……その難しい温度を、細かい説明ではなく、一音で成立させる。直は“元気な幼なじみ枠”を超え、物語の正統派ヒロインとして立ち上がった。

直の退場が意味するもの

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『豊臣兄弟!』1月4日放送 (C)NHK

第8回で直は、争いの渦中で幼い少女をかばって命を落とす。衝撃しかないシーンだが、この退場は、直が“消える”のではなく、最後まで“残る”ための仕掛けにも見える。

視聴者の記憶に残るのは、死そのものよりも、そこに至るまでに積み上げられた一瞬の連続だ。キャスティングから1カ月で現場に飛び込み、緊張を抱え、アドリブで場の温度とヒロイン像を形成し、集中を切らさず向き合った。それらが、退場後の小一郎の心を支える“見えない柱”になるはずだ。

いなくなってからの方が雄弁に響くキャラクターもいる。女優・白石聖は、その“気配”を確実に、視聴者の心に残していく。まるで、「おい!」と呼びかけるように。


NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』毎週日曜よる8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_