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カンヌでトランプ大統領を猛批判したロバート・デ・ニーロからエマ・ワトソンまで。歴史に残る5人のスターたちのポリティカル・スピーチ

  • 2025.5.20

「いじめっ子に勝たせてはいけない」──ロバート・デ・ニーロがトランプ批判を続ける理由

Opening Ceremony - The 78th Annual Cannes Film Festival

2024年5月、共和党大統領候補のいわゆる”口止め料”裁判が行われていたニューヨークの法廷の外で、ドナルド・トランプ現大統領を「アメリカの民主主義を破壊しようとしている道化師」と呼ぶなど、かねてから大統領を痛烈に批判してきたデ・ニーロ。そんな彼は、先のカンヌ国際映画祭での名誉パルムドール受賞スピーチで改めて大統領を批判したが、彼のように長年トランプ大統領を批判してきた有名人は数多い。しかし、最近では表立って批判するデメリットを考慮して口を閉ざす人が増える中、”報復”を受けるリスクを負いながらも声をあげ続けるデ・ニーロは、その理由をイギリス「The Guardian」紙にこう語っている。

「報復を受ける可能性については、もちろんいつも念頭に置いています。だが、あの人は“いじめっ子”と同じです。いじめっ子が月曜日に昼食代をねだってくれば、火曜日にはもっと要求してくる。だからこそ立ち上がらなきゃいけない。いじめっ子に勝たせてはいけないのです」

さらに、直近でアメリカ制作ではない映画に100%の関税をかける可能性も示唆したトランプ大統領に対し、彼が繰り出したカウンターパンチが、先のカンヌでの渾身のスピーチだ。

デ・ニーロ、カンヌでのスピーチ全訳(2025)

「私の国では、これまで当たり前だった民主主義のために皆が必死に闘っています。それは、ここにいる私たち全員にも大きく影響するものです。なぜなら、今夜は芸術の名のもとに皆が一つに団結する試練の場だからです。芸術とは、真実を探し求め、多様性を受け入れるものです。だからこそ、ときに芸術は脅威となり得るのであり、私たち(芸術家)もまた、独裁者やファシストにとっての脅威となり得るのです。

最近、“アメリカの俗物的な大統領”が、我が国屈指の文化施設(ジョン・F・ケネディ・センター)の理事長に就任し、芸術や人文科学、教育への資金と支援を削減しました。創造性に値段をつけることなどできないはずなのに、どうやら関税をかけることはできるというのです。もちろん、これは到底許されるものではありませんし、こうした(芸術全般に対する)攻撃は、すべて容認されるべきではありません。そして、これはアメリカだけの問題ではなく、世界の問題でもあるのです。私たちは映画を観るように、ただ(この事態を)傍観しているわけにはいきません。私たちは行動を起こさなければならない。今すぐ行動を起こさなければならないのです。暴力ではなく、大きな情熱と決意のもと、自由を大切に思うすべての人が団結し、抗議活動を行うときが来たのです。選挙の時期が来たら、必ず投票するときが来たのです。どうか皆さん、投票に行ってください。カンヌの輝かしい祭典で、芸術を称えることで、私たちの力と決意を示しましょう。「Libérte、Égalité、Fraternité」と、最後はフランス国旗“トリコロール”の色に込められた「自由、平等、友愛」という言葉でスピーチを締め括った。

ヴァネッサ・レッドグレイヴによる、“オスカー史上最も政治色の強い”スピーチ(1977)

現在88歳のレッドグレイヴは、政治へのコミットやデモへの参加など、アクティヴィストとして知られた。写真は1978年のオスカースピーチの様子。
VANESSA REDGRAVE現在88歳のレッドグレイヴは、政治へのコミットやデモへの参加など、アクティヴィストとして知られた。写真は1978年のオスカースピーチの様子。

オスカー(アカデミー賞)史上最も政治色の強いスピーチのひとつとして語り継がれるのは、ジェーン・フォンダメリル・ストリープの共演映画『ジュリア』で、反ナチス工作員ジュリアを演じ、1978年度第50回アカデミー助演女優賞を受賞したイギリス人俳優ヴァネッサ・レッドグレイヴのそれだ。

現在も延々とつづくパレスチナ問題と、1950年代にアメリカを席巻したジョゼフ・マッカーシーとリチャード・ニクソンによる反共産主義運動(通称“赤狩り”、のちにニクソンは離脱)に触れ、「一部のシオニスト(パレスチナにユダヤ人国家イスラエルを建設しようと唱えるユダヤ民族主義者)の“ごろつきども”の脅迫という行動は、世界中のユダヤ人の地位と、ファシズムの圧政との闘いという偉大で英雄的な軌跡への侮辱です。私は、人生と仕事において己が信じる真実を追求した人々に対し、ニクソンとマッカーシーが世界中で行った魔女狩りに毅然とした態度で立ち向かい、一撃を喰らわせた人々に敬意と感謝を表し、アンチセミティズム(ユダヤ人は劣等民族という根拠のない理由による人種差別)、そしてファシズムと戦い続けます」とスピーチ。

これがイスラエルの正当性を支持するアメリカ国内の親イスラエル派を刺激し、そのうちの一人で脚本家パディ・チャイエフスキーは「ただ『ありがとう』といえばいいのに」と激怒。さらにユダヤ人極右組織「ユダヤ防衛同盟」は、レッドグレイヴがパレスチナ解放機構を支持しているとして、彼女の人形を燃やすなどの抗議行動を起こした。

マーロン・ブランドの代理で壇上に現れたのは(1973 )

Sacheen Littlefeather Speaking at Academy Awards

「今日私は、マーロン・ブランドの代理としてこの場にいます。残念ながら、彼はこの賞を受け取ることができません。理由は、映画界におけるネイティブ・アメリカンの扱いと虐殺にあります」

1973年3月27日のオスカーの授賞式で、俳優マーロン・ブランドは映画『ゴッドファーザー』のドン・コルレオーネ役で見事主演男優賞を獲得した。通例受賞者はステージ上でスピーチをするのだが、この夜、彼に代わってこう言葉を述べたのは、自身も“アパッチ族”で、ネイティブ・アメリカンの地位向上に尽力する若き活動家として知られたサチーン・リトルフェザーだった。

受賞作品となった『ゴッドファーザー』で、ドン・コルレオーネを演じるマーロン・ブランド。公開当時に過激な性描写で物議を醸した映画『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)では、強姦シーンで共演俳優のマリア・シュナイダーとの間の同意を巡り、2013年のベルナルド・ベルトルッチ監督のインタビューをきっかけに論争が起こった。
Marlon Brando holding cat in scene from 'The Godfather' 1972. 受賞作品となった『ゴッドファーザー』で、ドン・コルレオーネを演じるマーロン・ブランド。公開当時に過激な性描写で物議を醸した映画『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)では、強姦シーンで共演俳優のマリア・シュナイダーとの間の同意を巡り、2013年のベルナルド・ベルトルッチ監督のインタビューをきっかけに論争が起こった。

フリンジのついた鹿皮のドレスとモカシンに身を包み、壇上で短いスピーチを展開。ブランドが映画界における差別が理由で受賞を辞退したことや、1973年に共和党色の強いサウスダコタ州ウンデッド・ニーで発生したアメリカ騎兵隊による民族浄化“ウンデッド・ニーの虐殺”に抗議すると告げると、会場は大きなブーイングと歓声に包まれた。中でも激しく憤慨したのは、生粋の共和党支持者で“アメリカ映画界最高のヒーロー”としてアンチインディアン役を数多く演じた故ジョン・ウェインで、彼女をステージから引きずり下ろそうとして警備員に制止されたことは、今なおオスカー史上に残る出来事として語り継がれている。そして、このウェインの行動により、2022年にリトルフェザーは芸術科学アカデミーから正式な謝罪を受ることとなった。

当時のブッシュ大統領を猛攻撃したマイケル・ムーア監督(2003)

The 75th Annual Academy Awards - Press Room

続く2003年には、キャップを被り、カメラをかついで突撃取材するスタイルで知られたマイケル・ムーア監督が映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で長編ドキュメンタリー賞を受賞。そのスピーチで「皆作り話の時代に生きている。大統領選も作り話だ。戦争も作り話。皆カメラを持ってこのナンセンスな戦争を終わらせよう。ミスター・ブッシュ、皆がこの戦争に反対している、恥を知れ!」と、当時の大統領ジョージ・W・ブッシュが“虚偽の理由”でイラク戦争に参戦したと激しく非難し、会場に賞賛とブーイングの嵐が巻き起こした。

そして、奇しくもこのとき、マイケル・ムーア監督の受賞プレゼンターを務めていたのは、2025年5月13日にカンヌ国際映画祭で政治色の強いスピーチを披露し、世界を騒然とさせた俳優ロバート・デ・ニーロだった。

エマ·ワトソン、「演技賞をジェンダーで区別する必要はない」(2017)

2017 MTV Movie And TV Awards - Show

かねてから自らを「フェミニスト」と公言し、国連グッドウィルアンバサダーとして「HeForShe」キャンペーンなどの顔をつとめた活動家としても知られるエマ·ワトソン。そんな彼女も、2017年に映画『美女と野獣』のベル役で「MTVムービー&TVアワード」史上初めて創設された「ジェンダーレス演技賞」を獲得。その受賞スピーチでこんな力強いメッセージを発信し、世界のLGBTQコミュニティに勇気をもたらした。

「史上初めてノミネート者をジェンダーで分けない演技賞は、個々が人生を通じて経験する感情や思考などをどう受け取るかを物語っています。MTVがジェンダーにとらわれない演技賞を創設するという動きは、人それぞれに異なる意味を持つと思いますが、私にとって演技とは、他人の立場に立って考える能力のことを意味します。だからこそ、それを2つのカテゴリーに分ける必要はないと思うのです。

共感力と想像力を発揮する力自体に、限界があってはなりません。私が今日この賞をいただけたことや言葉は、私にとって大きな意味があります。この賞は、俳優としての私の演技に対していただいたものだと思っています。そして、ベルというキャラクターを通じて、彼女が象徴するものがこの賞に値したのだと思います。(この作品に貫かれた)代々読み継がれる素晴らしいストーリーに貫かれたダイバーシティインクルージョン、喜び、そして愛をともにたたえることができたことをとても誇りに思います」と締め括った。

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