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「LINEブロックされてる?」デートしていた相手と突然音信不通に…。年上男のズルい本音

  • 2025.4.30

恋に仕事に、友人との付き合い。

キラキラした生活を追い求めて東京で奮闘する女は、ときに疲れ切ってしまうこともある。

すべてから離れてリセットしたいとき。そんな1人の空白時間を、あなたはどう過ごす?

▶前回:結婚式準備でケンカ。ブシュロンの指輪にホテルでの挙式、予算オーバーな30歳女の提案に彼は…

東京カレンダー
不毛な恋/松坂光里(28歳)「早稲田・町中華」


「おい、松坂。お前一体何したんだよ!」

外出先から帰ってきた途端、松坂光里は同じ部署の先輩からいきなり怒声とも取れる激しい口調で言われた。

光里は早稲田大学卒業後、大手広告代理店に就職して6年目の28歳だ。

がむしゃらに働き周りからの評価を得られ、今回初めて大きなプロジェクトのリーダーを任された。

仕事は順調にいっていたのだが…。

「なんですか?急に…」
「お前、何も聞いてないのか!?」
「え、何を…」

すると、先輩の後ろから険しい顔をした部長が戻ってきた。

光里の方を見るなり、「松坂、ちょっと」と会議室へ促される。

何のことかと、光里は頭を高速回転させながら、部長の後を追った。

「今回のプロジェクト、松坂には降りてもらう」
「え、どうしてですか!?」
「先方からの要望だ」
「私、何か失礼なことをしてしまったのでしょうか…?」

全く身に覚えがなく、突然のことにパニックになる。すると部長は、ポケットから一枚の名刺を出した。

その名前を見て、光里はドキッとした。

そこには、大手芸能事務所名と、“マネージメント部 部長 笠原ゆうか”と書かれている。

今回光里が手がけるプロジェクトの新CMに起用予定だった、若手俳優の事務所だ。

「この名前に、見覚えはない?」
「もしかしてこの方の旦那さま、映像プロデューサーの…」
「ああ、笠原啓太の奥様だ」

光里は頭の中が真っ白になる。そして、3ヶ月前に封印したはずの笠原との思い出が、一気に脳裏に蘇った。

14歳上の笠原と出会ったのは3年前。仕事で行った撮影現場に彼はいた。

プロデューサーと聞くと怖いイメージがあったが、笠原は物腰が柔らかく丁寧で、部下からも信頼されているのが見てとれた。

新人に毛が生えた程度の光里にも、目を合わせてきちんと挨拶をしてくれ、とても好印象だった。

それから数回仕事で会う程度だったが、約7ヶ月前に、たまたま入ったバーで一緒になったのだ。

笠原と一緒にいた彼の友人からは、「こいつ離婚して落ち込んでいるんだ」と聞かされていたので、てっきり独身だと思っていた。

そこから徐々に仲良くなり、連絡先を交換し、幾度かデートをする関係になった。

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だがデートを始め2ヶ月が過ぎたある日、2人の関係を知らない仕事関係者から聞かされた。

「笠原さんってほんと素敵。仕事もできて奥様も美人でやり手で。理想の夫婦だわ」

光里は驚きつつ、悟られないように聞いた。

「あれ?笠原さんって離婚されたんじゃ…?」
「ううん。この間広尾のご自宅付近で、仲よさそうに歩いているのを見たよ」

何が何だかわからず、光里は半信半疑で笠原にLINEをした。

Hikari『笠原さんって、もしかして奥さんとまだ離婚してないんですか?』

数時間経っても既読にならない。不安でその日は仕事に集中できなかった。

返事が来ないまま2週間が過ぎ、どうやら彼からブロックされていることに気がついた。

それが3ヶ月前の出来事。

唯一の救いは、体の関係がなかったこと。

だから「忘れて何もなかったことにしよう」と思っていたが、笠原妻にとっては違ったようだ。

どこで見られていたのか、彼女に光里と笠原がデートをしていたのがバレたらしい。

そもそも、笠原妻があの大手事務所のマネージメント部長などとは思ってもみなかった。

「プライベートに口出すつもりはないが、仕事が絡めば別だ。自分の行動に責任を持ちなさい」

「でも、笠原さんとはそんな関係では…」

そう言いかけて、口をつぐんだ。体の関係こそなかったが、勘違いされてもおかしくない。

事実デートをしていた時は、確かに恋愛感情があったのだから。

「とりあえず今回は降りてくれ。今後二度とないように」

そういうと、部長はため息をついて会議室を出て行った。

後から先輩に聞いた話では、笠原の妻はとても怒っていて、今回の件を白紙に戻すとまで言っていたが、部長が説得してなんとか収めてくれたという。

― そんな…。早く誤解を解かなきゃ…。

先ほどの名刺に連絡を入れるが、松坂光里だと名乗るとすぐに切られ、ブロックされてしまった。

事務所まで会いに行ったが、取り合ってもくれない。

「何でこんなことに…!」

今回のプロジェクトは光里にとって大きなチャンスで、誰よりも全力で取り組んでいた。

徹夜もしばしば、プライベートもすべて削ってきたのだ。

それなのに、こんな理不尽な理由でおろされたことに、納得がいかなかった。

その上、光里の不運はこれだけではなかった。

「あの子よ、例の奥さんいる人と…」

社内に噂が流れ、そんな声がこれみよがしに聞こえてくる。

生き甲斐であった仕事が急になくなり、職場は居心地が悪く、常に陰口を言われている妄想に襲われる。

だんだんと光里は闇の中に取り残されたような気持ちになった。

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『まもなく、西早稲田です。足元とホームドアにご注意ください』

土曜日の早朝。

母から急に「ネット予約をした『すずめや』のどら焼き、受け取りに行ってくれない?急用が入って」と電話があった。

仕方なく池袋に出向いた帰り、渋谷に向かう副都心線の車内で久しぶりに懐かしい駅名が聞こえた。

― そういえば、卒業以来だな…。

気がつくと、光里は電車を降りていた。

「うわー、懐かしい…」

大学時代に住んでいた時と変わらず、自然と表情がほころぶ。

あてもなく大学の周りを歩いてみる。土曜日だが、学生たちがちらほら見られ、昔の自分と重なった。

しばらく歩いていると、少し立ちくらみがした。

時刻は13時過ぎ。朝から何も食べていなかった光里は、ある店にやってきた。

こぢんまりとした小さな町の中華屋で、学生時代に付き合っていた彼氏とよく通った店。

― あの時のままだ…。

店主もメニューも雰囲気もそのまま。中へ入ると、昔よく食べた天津飯を頼んだ。

笠原の件があってから、ずっと食欲がなかった。

笠原のことは、光里が久しぶりに好きになれると思えた相手。

それなのにあんな裏切られ方をして、悔しさと悲しみで胸が締め付けられる。

「はい、お待たせ」

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店主の奥さんが、出来立ての天津飯を持ってきた。

少しすくって口に運ぶ。

「美味しい…。あの時のままの味…」

優しい味わいの温かい餡がふわふわの卵と溶け合い、光里の心と体にじんわりと染み渡っていく。

味の記憶が、学生時代の彼氏の記憶を呼び戻した。

同じ大学の1歳上の先輩。

バスケサークルだった彼とは、友人を通していつの間にか仲良くなり付き合った。

この店を教えてくれたのがその先輩。

友達といる時は男子高校生のように無邪気で、でもたまに見せる男気や、優しい包容力に惹かれた。

光里にとって初めて心から好きになった相手で、春の陽だまりのように温かく美しい恋愛だった。

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けれど、光里が先に社会人になり、すれ違いが多くなる。その上、先輩が海外の博士課程に行くと日本を離れた。

それでも好きで関係を続けたが、先輩の帰国は未定だったし、自分も仕事が忙しくなり、将来が見えずに結局別れた。

それからずっと光里は、仕事に集中してきた。

恋愛はいつか壊れるかもしれない。けれどきっと努力は裏切らないと信じて。

それなのに…。

光里は急に先輩が恋しくなった。

大好きだった人に、大事にしてもらった記憶が次々と蘇る。

別れてからは、どこか頑なだった。

別れてまで選んだ今の仕事で成功しなければいつか後悔する。そんな気持ちもあった。

「先輩、今どうしているんだろう…?」

ずっと見まいとしていた先輩のSNSを探してみる。友人のフォローを辿っていくと、意外と簡単に探し当てた。

― 先輩だ!あの頃のまま…ううん、もっとかっこよくなってる…!

写真をあまり載せるタイプではなく、先輩の顔写真が載っているのは、最近友人たちと集まった時の一枚だけ。

帰国しているのか、結婚しているのか、それすらもわからない。

光里は思わずDMボタンを推して、メッセージを書く。

「お久しぶりです、光里です。元気…」

そこまで書いて光里は指を止める。少し考え、すべて削除した。

― 連絡するのは、今じゃない。

残っていた天津飯を丁寧に平らげると、支払いを済ませて店を出た。

先輩と戻りたいとか、そんなことを考えたわけじゃない。

ただ無性に懐かしくなった。

でも、弱っている今連絡をして、昔の大切な思い出を壊したくない。

「よし、もう一度頑張ろう。一から出直そう」

繋がろうと思えば、簡単に繋がれてしまう時代。だからこそ、タイミングは重要だ。

― もし連絡をするときは、もっと自分を誇れるようになってからにしよう。

懐かしい味に心が満たされた光里は、宝物の思い出を胸に、しっかりとした足取りで家へと向かった。


▶前回:結婚式準備でケンカ。ブシュロンの指輪にホテルでの挙式、予算オーバーな30歳女の提案に彼は…

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