1. トップ
  2. 恋愛
  3. 別居している夫から突然手紙が…。結婚5年、些細なことが積み重なり冷え切った夫婦の未来は

別居している夫から突然手紙が…。結婚5年、些細なことが積み重なり冷え切った夫婦の未来は

  • 2025.4.23

ふとすれ違った人の香りが元彼と同じ香水で、かつての記憶が蘇る…。

貴方は、そんな経験をしたことがあるだろうか?

特定の匂いがある記憶を呼び起こすこと、それをプルースト効果という。

きっと、時には甘く、時にはほろ苦い思い出…。

これは、忘れられない香りの記憶にまつわる、大人の男女のストーリー。

▶前回:「何これ…」彼の車の収納を開けたら、領収書の山が。それで発覚した、男の嘘とは

東京カレンダー
恵奈(35歳)結婚5年目の亀裂 Santa Maria Novella「カプリフォーリオ」


「香水はね、大切な日だけにつけるの。そうすれば、いつでもその日にあなたを連れていってくれるから」

昔、母から言われた言葉。

幼かった恵奈にはその意味がわからなかったが、香水をつけた後の母の幸せそうな顔が印象的だった。

35歳の恵奈は、4年前に大手総合商社を辞め、今は従業員200名ほどのスタートアップのCOOをしている。30歳を迎え、なんとなく将来が予測できる人生に疑問を感じていた頃、元いた会社の先輩に誘われたのがきっかけ。

初めは50名にも満たなかったが、この4年で成長した。

3つ年上の夫の旭(あさひ)とは、前の会社で知り合った。

結婚したのは5年前。結婚生活はお世辞にも順調とは言えなかった。

結婚して1年後、恵奈は今の会社に転職してさらに激務になり、徐々に旭とすれ違い始めた。

きっかけは些細なこと。家事の分担だとか、生活上の価値観の違いとか。ただ、ケンカ後に話し合って仲直りをする時間もなく、流していた相手への不満がどんどん蓄積し、関係が壊れていった。

気がつくと家庭内別居状態。

お互いに無関心というよりは、どうコミュニケーションをとっていいのかわからなくなっていた。

その空間だけ酸素が薄いような、緊張で張り詰めた家。

だんだんと家にいる時間が減っていった。

そして4ヶ月前。家でもお互いに目を合わせることなく、旭が遅い晩御飯を食べている横で、パソコンに向かいながら恵奈が言った。

「ねえ、私たち、別居しない?」

「…そうだな」

その時の旭の少しほっとした顔が、自分から言い出したのになぜだか恵奈の胸を締め付けた。

そうして恵奈の方が家を出た。

元々会社から近い乃木坂に住んでいたが、転職して蒲田に勤務先が変わり、家から遠くなっていたので、会社近くにマンションを借りて暮らしている。

「あれ?あのドレス、前の家だっけ…」

土曜日の昼過ぎ。明日行われる友人の結婚式に着ていこうと思っていた、Rebecca Vallanceのお気に入りのドレスがないことに気がついた。

新しく買い直そうかと考えたが、他にも前の家から取りたいものもあったので、旭にLINEを入れる。

Ena:『今日、そっちの家に私物を取りに行ってもいいですか?』

5分ほどして返事が来た。

Asahi:『出張で明日までいないので好きにどうぞ。鍵はそのままなので』

1ヶ月ぶりの連絡だというのにそっけない。

冷え切った夫婦なんてこんなもの、と恵奈は自分に言い聞かせ、旭の家へ向かった。

東京カレンダー


「あったー」

恵奈が使っていたクローゼットはそのまま。

女の影でもあるのではないかと少し勘ぐったが、そんな様子はない。ただ、家の中は若干散らかっている。

荷物を整理していると、小さな箱が出てきた。

「懐かしい…」

中には、初めて旭とデートした時の写真と、結婚式の写真、その時につけていたSanta Maria Novella「カプリフォーリオ」のオーデコロンが入っていた。

初めに買ったのはイタリア出張の帰りの空港。爽やかなレモンやジャスミンの香りから、徐々に現れる女性らしいエレガントな香りに惹かれ購入した。その後結婚式の前にも買い替え、これは去年友人に、イタリア土産としてもらったもの。

恵奈は思わず手に取り、シュッと一吹きする。

香りを嗅いだ瞬間、当時の気持ちが鮮明に蘇ってきた。

恵奈が覚えている限り、この香水をつけたのは3回。

1回目は大事なプレゼンの日で、旭に初めて声をかけてもらった日でもある。

旭は新卒で入った会社の先輩で、背が高くて見た目がタイプ、その上仕事もできて密かに憧れていた。

でも長年付き合っている彼女がいると聞き、叶わぬ恋だと諦めていた。

だが、自分が初めてリードするプロジェクトのプレゼンがあり、旭の方から声をかけてアドバイスをくれたのをきっかけに、徐々に仲良くなった。

当時すでに彼女とは別れていたことを知り、一気に距離が縮まったのだ。

2回目は初デートの日。恵奈は、大人になっても心が躍るような恋ができたことが嬉しかった。

東京カレンダー


3回目が結婚式の日。大好きな人との結婚に、この日を生涯忘れたくないと香水をつけた。

恵奈にとって、人生で一番幸福に包まれた日。

それらの感情が一気に押し寄せ、気がつくと、涙が頬をつたっていた。

「旭のことが大好きだったのに。どうしてこんなことになっちゃったんだろう…」

しばらくぼーっと1人、恵奈はこれまでのことを思い巡らせた。

空が薄暗くなった頃、荷物をまとめ玄関へと向かう。その際、何気なくキッチンを見た。

リビングには物が散乱しているのに、キッチンだけキレイなまま、調味料も減っておらず、使っている様子がない。

冷蔵庫を開けてみると、水と炭酸水、あとはビールが2本だけ。

「飲み物ばかりじゃない…」

恵奈は急に胸が痛んだ。

リビングに行き、旭の脱ぎ散らかした服やゴミを片付ける。そして昔使っていたノートを取り出すと一枚ちぎり、旭に宛てた。

「旭、出張お疲れさま。元気にしてますか?ご飯、ちゃんと食べてる?外食ばかりじゃなくて、たまには体にいいものを食べてください。恵奈」

そして最後に、シュッと香水をそのメモに吹きかけ、出ていった。

恵奈自身、どうしてあんな行動をとったかわからない。少しだけ、自分の存在を感じて欲しかったのかもしれない。

あれほど息苦しかったこの家だったが、旭の匂いを感じて、どこか居心地の良さを感じた。



あれから3週間が過ぎた。

旭とはそれっきり、連絡も取っていない。

自分の残したメモなんて、彼にはなんの意味もなかったのだろうと思うと、心が少しヒリつく。

そんな時、ポストを開けると封筒が入っていた。裏には旭の名前。

東京カレンダー


― 旭から…?急にどうして…?

これまで一度も、旭から手紙をもらったことなどない。彼はまめな方ではなく、LINEも付き合っていた頃から短文だった。

急に届いた封筒を見て、「離婚届が入っているのでは?」と恵奈は一気に緊張感に包まれる。

恐る恐る開けると、中には手書きで埋められた手紙が入っていた。



恵奈へ。恵奈がメモを残してくれたことに驚きました。

恵奈はもう、自分のことなど気にかけていないと思っていたから。

正直嬉しかった。だから僕も手紙を書こうと思いました。

いざ書き始めると、何を書いていいのかわからず、何度も書き直しました。

僕はずっと、2人がこうなってしまったことを後悔していた。本当はずっと仲直りしたかったけど、ろくに話し合いも持てず、君が何を思っているのかわからなかった。

でも今思えば、ただもっと気持ちを伝えれば良かった。恵奈と仲直りしたいと言えば良かった。

面と向かってだと言いづらいけど、手紙だと本音を書ける気がする。

また書きます。恵奈も元気で。

最後に。

恵奈の手紙から懐かしい君の匂いがした。

僕が恵奈と社内ですれ違った時、香りに先に惹かれた。

そのあと一生懸命プレゼンする姿を見て、香りのままの素敵な人だと思った。

今さらだけど、そんなことを思い出したよ。

旭でごはんを食べることにした2人。

東京カレンダー


旭の表情からは、初デートの時のように初々しい愛情を感じ取れる。

「あのさ、引っ越し祝い、何がいい?引っ越し祝いっていうのも変かもしれないけど、何かお祝いしたくて」

「本当?じゃあ…香水」

「香水?」

「うん、新しい香りが欲しいの。今日のこの日の気持ちを忘れたくなくて。旭とやっぱりずっと一緒にいたいって思った気持ちを」

恵奈の言葉に、旭が照れくさそうにはにかむ。

そして「じゃあ、このあと探しに行こうか」と優しく微笑んだ。


▶前回:「何これ…」彼の車の収納を開けたら、領収書の山が。それで発覚した、男の嘘とは

▶1話目はこちら:好きだった彼から、自分と同じ香水の匂いが…。そこに隠された切なすぎる真実

元記事で読む
の記事をもっとみる