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黒いスープのようになっていた…衝撃の幕開けではじまる【NHK新ドラマ】国民的女優が誰しも"向き合うべき"テーマに挑戦

  • 2025.6.19

NHKの7月期放送予定ドラマ『ひとりでしにたい』は、カレー沢薫の同名マンガを原作とした作品で、綾瀬はるか主演、大森美香脚本による。独身女性の主人公が叔母の孤独死をきっかけに終活に励む姿をコミカルに描く。原作は35歳の美術館学芸員・山口鳴海が一人で豊かに死ぬ方法を模索する物語で、重いテーマながら笑いを交えて描かれている。綾瀬はるかは“常にハッピーなオーラが出ている人”として起用され、独身生活を心から楽しむ主人公を演じる。プロデューサーは「死を考える時の怖さが軽減する作品にしたい」と語り、誰もが避けられない死というテーマに新しいアプローチで挑む作品として注目されている。

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(C)SANKEI

人間いつかは皆、死ぬことになる。死から逃れられる人はいないが、それについて真正面から考えるのは怖い。

そんな“死”というテーマに、笑いで切り込む作品が7月、NHKに登場する。同局土曜日の夜10時の枠で放送予定のテレビドラマ『ひとりでしにたい』は、一人の独身女性が叔母の孤独死をきっかけに、人生を見つめ直して終活に励む姿をコミカルに描く作品だ。

脚本は、大河ドラマ『青天を衝つけ』や朝の連続テレビ小説『あさが来た』などの作品で知られる大森美香。主演は綾瀬はるかが務める。本作は誰にとっても重要だが、誰もが考えたくないことを描く内容になりそうだ。そんな本作がどんな作品になるか期待を込めてプレビューしようと思う。

魅力あふれる原作マンガ

本作は、カレー沢薫の同名マンガを原作にしている。原作の主人公・山口鳴海は35歳、美術館の学芸員をしており、バリバリのキャリアウーマンの叔母に憧れている。しかし、その叔母が人知れず孤独死したことをきっかけに、人生を見つめ直そうと“終活”に励むことにする。

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(C)SANKEI

思い込みの激しい主人公の性格と、そんな主人公が好きなのに、口が悪くてつい煽ってしまう年下の同僚・那須田優弥(佐野勇斗)など、個性豊かなキャラクターが多数登場する。結婚せずに一人で生きていく現実と理想のギャップを描き、一人で豊かに死ぬためにはどうすればいいか、もがき続ける主人公の苦闘が面白おかしく描かれており、なおかつ人生についての鋭い見解を投げかけ、ハッとさせられる作品だ。

叔母が自室で孤独死して、黒いスープのようになっていたという衝撃の幕開けから始まるこの物語。しかし、読者を絶望させることなく笑わせてくれるのが最大の特徴だ。例えば、叔母の遺品は段ボール一箱だけ。死んで残ったものが段ボール一箱だけという寂しい状況の中、そこから出てきたのは女性用のマスターベーション器具だったりするのが、なんとも人間の可笑しさを感じさせる。

また、本作は推し活についての物語でもあり、主人公が追いかけているアイドルの話など、推し活をしている人の、生き生きとした表情を活写している。死について考えさせる作品ながら、前向きに人生を楽しむ主人公を描いていて、現代人にとって共感できる部分が多く、重いテーマなのに軽やかに読めるのが魅力の作品だ。

死を考える時の怖さが軽減する作品に

ドラマも、そんな原作マンガの良さを最大限に生かした内容になりそうだ。本作の主演を務めるのは国民的俳優と言っても過言ではない、綾瀬はるか。本作の高城朝子プロデューサーは、綾瀬はるかを起用した理由を「常にハッピーなオーラが出ている人」だからだと語る。

「これまでのドラマで描かれる独身女性は、自虐的に描かれることが多かったように思います。でも本作の鳴海は、ひとりでいることを心から楽しんで、自らひとりでいることを選んでいる人物。誰から見ても「あの人、楽しそうだな」と思ってもらえる人に演じてほしいと思ったんです」と起用理由について説明している(参照)。

そんな綾瀬自身、原作マンガを読んで共感できるポイントがたくさんあったという。「私もこんな気持ちになった時があったな」と思う瞬間が多々あったそうだ。

綾瀬は、主人公と同じ35歳くらいの時に身近な人の死をきっかけに死について考えるようになったという。その前は「人生は無限大」と感じていたというが、人は簡単に死ぬことがあると悟ったのだという。だからこそ、本作の主人公・鳴海の言動は自分の中の死に対するモヤモヤを具現化してくれたという。

また、高城プロデューサーは本作について、「死を考える時の怖さが軽減する作品にしたい」と語る。それは原作マンガの持つ最大の魅力と言える。

死は誰にでも訪れるからこそ、ちゃんと考えてほしい。そのためにも死と向き合う心を軽くしたい。そんな想いで作られた作品なのだろう。死と向き合わずにすむ人は、この世に一人もいない。“死”はこの世界で最も普遍的なテーマの一つと言える。そんな死について、これまでなかったアプローチで挑む本作が、世の中の人々の心を軽くしてくれるか、注目だ。


ライター:杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi