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ブリュッセルに巨大美術館「カナル・センター・ポンピドゥー」が誕生! 旧シトロエン工場がアートの新拠点に

  • 2026.10.21
「カナル・センター・ポンピドゥー」の内部を貫く「インテリア・ストリート」の完成イメージ。街路のように誰もが行き交うことのできる公共空間となる。 © ATELIER KANAL

さかのぼること1934年、この建物はシトロエンの最新鋭のショールームとして竣工した。ガラス張りの巨大な空間にはぴかぴかの新車が並び、自動車は近代化と豊かな未来の象徴だった。約1世紀を経て今年11月28日、そのエンジンが再び動き出す。ただし今度は、人を運ぶのは車ではなくアートである。

ベルギーのブリュッセルに誕生する「カナル・センター・ポンピドゥー(KANAL-Centre Pompidou)」は、旧シトロエン工場を全面改修した延床約4万平方メートルの文化施設だ。改修設計は欧州3都市の建築事務所で構成されるアトリエ・カナルが担当。既存の産業建築を生かしながら、新たな展示空間を内部に組み込んだ。現代美術館を核に、建築、パフォーマンス、コミュニティ活動が交差し、パン屋や図書館、プレイグラウンドまで備えたその姿は、まるで小さな街のよう。

昨年8月に撮影された建設中のカナル・センター・ポンピドゥー。ロケーションは、ブリュッセル中心部の運河沿い。旧シトロエン工場を再生した、ヨーロッパ最大級の文化施設となる。 © ATELIER KANAL

特筆すべきはこのプロジェクトが美術館を建てることに主眼を置くのではなく、 「都市をつくり直す」ことを目的としていること。EU本部を擁し多様な文化が交わるブリュッセルでは、国際的な現代アートセンターやアーティスト・ラン・スペース、ギャラリーが独自のシーンを育み、ヨーロッパ有数の創造的な都市として評価されてきた。一方で、その活動を横断する大規模な近現代美術館は存在せず、KANALはその空白に応える新たな文化の拠点として位置づけられている。そのような矛盾を背景にKANALは2017年、ブリュッセル首都圏政府とパリのポンピドゥー・センターの協力によって始動。ポンピドゥー・センターの分館では終わらない、ブリュッセルだからこそ生まれる新たな公共美術館を目指している。

芸術監督のカシャ・レジシュは、KANALを「答えを提示する場所ではなく、問い続ける場所」と表現する。展示やパフォーマンス、参加型プログラムを通じて、美術館も人々とともに変化していく存在という考え方だ。その理念を雄弁に語るようにして、開館と同時に美術部門の9 展と建築部門の大規模展、計10 展がいっせいに幕を開ける。

ピエト・モンドリアン《コンポジション 赤・青・白Ⅱ》(1937) カンヴァスに油彩 75×60.5㎝ PHOTO: © DÉPARTEMENT DES PIÈGES – METABOLIC MUSEUM-UNIVERSITY
作者不詳《蛇の舞[II](リュミエール・カタログ No.765-I)》(1897-1899)。着色白黒映像。上2点ともポンピドゥー・センター蔵、「A truly immense journey」展より。 PHOTO: © DÉPARTEMENT DES PIÈGES – METABOLIC MUSEUM-UNIVERSITY

中心となる「A truly immense journey」は、350点を超える作品で近代美術史を大胆に読み替える大規模な展示だ。ピカソやマティス、モンドリアン、ジャコメッティといった巨匠の作品を、サミー・バロジ、オトボン・ンカンガ、フリーダ・オルパボらの現代作家とともに紹介し、植民地主義や移住、人の移動という視点から20 世紀美術を読み直していく。美術史はまだ完成していない、現在から更新され続けるものだというメッセージが込められている。

「An infinite woman」展より、フリーダ・オルパボ《無題》(2018)。オルパボは1986年、ノルウェー生まれ。植民地時代のアーカイブや新聞、インターネット上の画像を切り貼りし、黒人女性の身体や植民地主義の問題を扱った作品で知られる。 PHOTO: © DÉPARTEMENT DES PIÈGES – METABOLIC MUSEUM-UNIVERSITY
「罠」や「おとり」をテーマに、ブリュッセルの10の美術館・博物館から集めた資料と現代美術を並置し、物同士の意外な関係を読み解く「Département des Pièges」展のキュレーターを務めるクレマンティーヌ・デリスによる、同展のリサーチ・ダイアグラム。 PHOTO: © DÉPARTEMENT DES PIÈGES – METABOLIC MUSEUM-UNIVERSITY

建物そのものの記憶に向き合うのが「An infinite woman」展だ。シトロエンが1920年代にアフリカ横断遠征を宣伝するため利用したマンベトゥ族の女性のイメージを出発点に、植民地主義が生んだ視覚文化を、キャリー・メイ・ウィームズやフェイス・リングゴールドらの作品から再考する。かつて“帝国の夢”を売る場所だった空間が、その歴史を批判的に見つめ直す場へ反転するという面白さもあわせ持つ。

さらに建築部門カナル・アーキテクチャーのこけら落としとなる展示「Right to the City」は、都市計画や市民運動、環境、脱植民地主義を横断しながら「都市は誰のものか」という問いを考える内容だ。建築を完成した形ではなく、人々の参加によって変化し続けるプロセスとして捉える姿勢は美術館全体の理念とも重なる。

KANALのCEOイヴ・ゴールドスタインは、「文化なくして、人類に未来はない」と語る。世界各地で文化予算が削られ、美術館の役割そのものが問われる時代にその言葉は驚くほど率直だ。旧自動車工場を街に開かれた美術館へと転換したKANALは、その信念を建築として具体化したものともいえる。

ショールームだった頃、この建物が展示していたのは最新の自動車であり、20世紀が信じた未来だった。その場所が今度は芸術をとおして次なる未来を思い描く場へと生まれ変わる。

From Harper's BAZAAR art no.6

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