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9月22日に開館したジョージ・ルーカスの美術館。その壮大な構想を妻メロディ・ホブソンが語る

  • 2026.10.14
ジョージ・ルーカス(左)と、メロディ・ホブソン。 PHOTO: DEANNA AND ED TEMPLETON

「自分が“ミュータント”だと気づいたのは、何歳のとき?」。──ロサンゼルスにある自宅のオフィスで、話を始めようと腰を下ろしたとき、メロディ・ホブソンが私に尋ねた。ホブソンは、シカゴを拠点とする世界的な資産運用会社アリエル・インベストメンツの共同CEOであり、アメリカでもっとも影響力のあるビジネスパーソンの一人だ。

私は言葉を失った。ミュータント? それは、いい意味なのだろうか……と、そこでふと思い出す。ホブソンの夫はジョージ・ルーカスである。壮大な銀河を舞台にした『スター・ウォーズ』を生み出した監督にして映画作家。映画史上屈指の想像力の持ち主だ。ならば、悪い意味ではないはずだろう、と。

「私は今この瞬間に、自分がミュータントだと気づきました」。そう答えると、ホブソンは言った。「私は5歳のときに、周りの人たちとは同じじゃないって気づいた。私はミュータントだったんです」

ホブソンがビジネス界の頂点へと上り詰めた道のりは、どう見ても並外れている。シカゴのサウスサイドで、6人きょうだいの末っ子として育った。経済的には厳しい暮らしだったが、「学校だけは、自分ですべてをコントロールできる場所だった」と言うように、ホブソンは学校の勉強に徹底的に打ち込んだ。やがてプリンストン大学へ進学し、家族で初めて大学を卒業。その後、学生時代にサマーインターンとして働いたアリエル・インベストメンツに入社し、昇進を重ねて共同CEOとなった。同時に、JPモルガン・チェースやスターバックスなどの取締役も担ってきた。

9月22日に開館した「ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート」の外観。設計は、<a href="https://www.i-mad.com/" target="_blank" rel="nofollow" data-vars-ga-outbound-link="https://www.i-mad.com/" data-vars-ga-ux-element="Hyperlink" data-vars-ga-call-to-action="MADアーキテクツ" data-node-id="45.1">MADアーキテクツ</a>率いるマ・ヤンソンが手がけた。 Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton Crow

現在、彼女の影響力は企業の会議室の中にとどまらず、ホブソンは数々の文化機関や非営利団体に関わり、ロサンゼルス・カウンティ美術館では10年近く理事を務めている。2024年には、長年取り組んできた金融リテラシー教育をさらに広げるかたちで、子ども向けの本『Priceless Facts About Money』も出版した。

「子どもの頃から、周りの人たちとは噛み合わないと感じることがたくさんありました。でも、それを受け入れるしかなかった。さまざまな場所でただ一人の黒人だったり、ジェンダーや人種の面で自分だけが異なる存在だったりしても、それを居心地が悪いとは感じなかったんです。違うことには慣れていましたから」

私がホブソンを初めて知ったのは、2014年のTEDトーク「Color blind or color brave?」を見たときだった。そのなかで彼女は、人種を「見ない」ことを意味する“カラーブラインド”という広く受け入れられた考え方は、むしろ逆効果だと論じている。それでは、人々は自分たちが反対しているはずの不平等を見過ごすことができてしまうからだ。彼女が代わりに提唱するのは、“カラーブレイブ”になること。つまり、人種の問題を積極的に認識し、偏見に正面から向き合う姿勢だ。

ホブソンはその講演で、当時アメリカ下院議員だったハロルド・フォード・ジュニアとともに大手メディア企業を訪れた際、二人そろって受付係からサービススタッフ用の待機場所へ案内されたというエピソードを語っている。このTEDトークは、これまでに数百万回視聴されている。そこから見えてくるのは、ホブソンが持つスーパーパワーだ。強さを示しながらも、完璧なバランスで相手に届く言葉を選ぶ力である。

「人を怖がらせたいわけではありません。でも同時に、私は怖がってもいない」と話すホブソンだが、こうした世界との向き合い方が彼女のなかで明確になったのは、20 代の頃だった。シカゴの起業家で、雑誌『Ebony』と『Jet』を創刊したジョン・H・ジョンソンの葬儀に参列したときのこと。

「あるラジオのDJが、『ジョン・H・ジョンソンは、黒人であることを決して申し訳なく思わなかった』と言ったんです。それを聞いて、私も“アンアポロジェティック”でありたい、つまり自分自身であることを謝らずにいたい、と思いました。そうしたことがすべて一つになって、異なる場所を自由に行き来できる自分になれたのだと思います」

Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton Crow
Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton Crow

構想から10年以上、10億ドルを投じた美術館

その強い意志が、今日ここで話を聞いているプロジェクトを実現へと導いた。今年9月、ロサンゼルスに誕生した「ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート」だ。ホブソンとルーカスが設立したこの美術館は、二人が所有する膨大なコレクションを公開するだけでなく、物語を語るという行為そのものを芸術として称えることを目的としている。

美術館は、南カリフォルニア大学のキャンパスからアメフトの選手がボールを投げれば届きそうなほど近いエクスポジション・パークに開館した。構想から完成までには10年以上を要し、建設費は約10億ドルと報じられた。

ホブソンとルーカスは当初、ルーカスが設立した映画制作施設スカイウォーカー・ランチのあるマリン郡からも遠くない、サンフランシスコに建設する予定だった。しかし、その計画は景観や歴史的環境の保全を求める人々の反対によって頓挫した。2014年には、当時のシカゴ市長に招かれ、ソルジャー・フィールド近くの湖畔に建設する計画へと移行。だが今度は、公共用地を私的に利用することをめぐる訴訟によって、2年後にこの案も断念することになる。

幸いにもロサンゼルスが二人を迎え入れた。マ・ヤンソンが設計した建物は、2018年に着工した。そしてホブソンは私を含む友人たちをヘルメット着用の工事現場ツアーに案内し始めた。彼女は毎回、同じ言葉でツアーをスタートするのだった。

「これから、ジョージの頭の中に入っていきますよ」

ルーカスは、『スター・ウォーズ』と『インディ・ジョーンズ』という、映画史上もっとも重要で商業的にも成功した2大シリーズを生み出した人物だ。現代的なブロックバスター映画のあり方を築き、視覚効果、音響設計、マーチャンダイジングにも革命をもたらした。2012 年には、自身の会社ルーカスフィルムを、報道によれば40 億5000 万ドルでウォルト・ディズニー社に売却している。

『スター・ウォーズ』シリーズに登場する宇宙戦闘機「スターファイター」。映画の世界を象徴する機体が、来館者を迎える。 Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Iwan Baan
展示室の一部。歴史画や彫刻など、時代や表現手法の異なる作品が並ぶ。多様な視覚芸術をとおして人間がいかに物語を紡ぎ、伝えてきたのかを探る。 Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Paul Salveson
館内には2つの映画館が併設されている。写真は、ドキュメンタリー映画の先駆者ロバート・フラハティにちなんで名づけられた「ロバート・フラハティ・シアター」。アーティストの創作過程や、物語を伝える芸術の歴史に関する映像作品などを上映する。 Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton Crow

『スター・ウォーズ』だけではない。4万点のコレクションが語るもの

ハリウッドを変革する一方で、ルーカスは密かに壮大な美術コレクションを築いていた。のちにホブソンも加わり、二人で収集を進めるようになる。そして二人は2013年、スカイウォーカー・ランチで結婚。現在、そのコレクションは時代や文化を超え、4万点以上にまで拡大している。

「それは、私の“政権”が始まる前からのことです」と、ホブソンはルーカスの独身時代を冗談めかして表現する。「彼は大学生の頃から収集を始めていました。当時買えたアート、アンダーグラウンド・コミックを」

その後の半世紀、成功を重ねるにつれてコレクションの幅も広がっていった。映画のポスターから、やがて美術史を代表する作品まで含むようになった。

ルーカスは長年、一つの画面のなかで物語を語る、イラストレーターたちに強く惹かれてきた。「映画は英語で“モーション・ピクチャーズ”、つまり動く絵でしょう? だからすべては、物語を語ることと絵による表現へとつながっていくんです」とホブソン。

ルーカスはいまも当時のコミックを所有している。二人が築いた極めて個人的で多岐にわたるコレクションには、現在、フリーダ・カーロ、ディエゴ・リベラ、ゴードン・パークス、マックスフィールド・パリッシュをはじめ、数多くのアーティストの作品が含まれている。ホブソンは誇らしげに二人はこれまで一度も作品を売ったことがないと語る。美術を商品や投資対象として考えたことがないからだ。アートは常に、純粋な情熱の対象だった。

ただし、『スター・ウォーズ』の熱狂的なファンは少し注意したほうがいいかもしれない。ホブソンいわく、映画にまつわる“記念品”は、美術館で紹介されるもののうち約10パーセントにすぎない。展示はむしろ、家族、母性、愛、遊び、スポーツ、子ども時代といった、私たちの人生を形づくる重要な人間の「神話」を軸に構成されている。

「神話は社会を結びつけるもの。そして神話は、人類の歴史のごく早い段階から存在していて、その起源は洞窟で暮らしていた人々の時代にまでさかのぼります。彼らは動物が戻ってくるよう願い、崇拝の一種として洞窟の壁に動物を描き、自分の手形で署名しました。ジョージはそれを“最初のグラフィティ”と呼んでいます。こうした物語があったからこそ、社会は結びつき、共同体をつくることができた。家族が部族になり、部族が民族になり、民族が国家に。そうして世界が生まれます。私たちは、そうした核となる価値観をとおして互いに結びついているんです」

アートが映し出す社会の姿。夫妻が美術館に託した思い

ノーマン・ロックウェル《The Runaway》(1958)カンヴァスに油彩 99.7×94.6×5.7㎝ ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート蔵 © E.C. PUBLICATIONS, ALL RIGHTS RESERVED, USED WITH PERMISSION THE NORMAN ROCKWELL ART COLLECTION TRUST © SEPS BY CURTIS LICENSING
リチャード・ウィリアムズ《The Militarization of the Police Department̶ Deadly Farce》(2014)カンヴァスに油彩 85.4×70.8×3.2㎝ ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート蔵 Hearst Owned

私がアメリカ美術のなかでもっとも好きな作品のひとつに、ノーマン・ロックウェルが1958年に描いた《The Runaway》がある。家出をした白人の少年と警察官が、ダイナーのカウンターで話している場面を描いた作品だ。ルーカス・ミュージアムでは、この作品の隣に、リチャード・ウィリアムズが2014年に描いた《The Militarization of the Police Department̶ Deadly Farce》が展示されてる。構図はよく似ているが、そこに描かれているのは機動隊の装備を身につけた警察官に威圧的に見下ろされる黒人の少年だ。この二つを並べることによって強烈な意味が生まれる。

「私たちは、この美術館が寛容さや理解、そして多様な人々が表現されることを育む場所になってほしいと考えています。でも、意図的に数をそろえようとした結果ではありません。壁にかかっているのはすべてジョージが心から愛した作品。女性作家が何人いて、黒人作家が何人いるかを数えたわけではありません。それでも多様な人たちの作品が自然と含まれている。彼の心に響いたということが共通点ですね」

そのとき、ドアをノックする音がした。

「あと3分。遅れるよ」。聞き覚えのある声だ。ルーカスが腕時計を指しながら立っている。これから美術館へ向かい、シェイカ・アル=マヤッサ・ビント・ハマド・アル=サーニ、ダーシャ・ジュコヴァ・ニアルコス、アリシア・キーズとその夫スウィズ・ビーツら一行を、大規模な館内ツアーに案内する予定なのだ。

「いまは時間がものすごい速さで進んでいるよ」と言うルーカスに、ホブソンが出かける支度をするあいだ、私は美術館の形をめぐる一つの議論に決着をつけてもらうことにした。建物はどこか、ミレニアム・ファルコンのようにも見える。これは宇宙船なのだろうか。

「『スター・ウォーズ』のイメージがあるから、ほとんどの人は宇宙船だと思うんでしょう。でも、僕は違うと言っている。あれは、雲なんだ」

Courtesy Lucas Museum of Narrative Art. Photo by Hufton Crow
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