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小遣いが足りないとこぼしていた俺が、フレンチの会計で「ここは僕に出させてください」と譲らなかった理由

  • 2026.10.13
ハウコレ

「ごめん、今は言えない」。言えば済む話だと分かっていながら、俺は妻にそう答えました。けれど、妻の口から続いた言葉は、領収書とは別のことでした。

向かいの席の人は、運ばれてきた皿より先に、並んだナイフとフォークの本数を数えていました。白いクロスのかかったテーブルで、ボールペンを握っているのはその人だけでした。店員が離れるたびに、メニューの裏へ小さな字が書き足されていきました。

義父に頼まれた、娘には内緒の練習

向かいに座っていたのは、妻の父でした。3か月ほど前に電話があり、義母との結婚35年の記念日に、ちゃんとした店へ連れていきたいと相談されました。フランス料理のコースは一度も経験がなく、当日に慌てたくないから、先に練習に付き合ってほしいという頼みでした。

「あいつに言ったら、その日のうちに母さんに伝わるから」

断る理由はありませんでした。練習の会計は俺が持つと決めて、小遣いから毎月1万円ずつ封筒に分けておきました。

俺の小遣いは月3万円。「今月も小遣い足りないんだよな」は、結婚した頃からの口癖でした。半分は本気で、半分は妻に話しかけるきっかけのようなもの。ただ、この3か月だけは本当に足りていませんでした。

レジの前で、財布をしまわなかった義父

当日、妻には帰りが遅くなるとだけ連絡を入れて、店へ向かったのです。パンのおかわりを頼んでいいのか、ナイフはどれから使うのか。小声で聞かれるたびに答えると、義父は外側から使う順番をメニューの裏に書き写していました。デザートが出る頃には、ワインのおかわりも自分で頼めるようになっていました。

会計になると、義父は財布を出したまま引きませんでした。

「ここは僕に出させてください」

結婚の挨拶に行った日から、義父には何かを返せたことが一度もありませんでした。封筒の1万円札を3枚並べ、受け取った領収書は折りたたんで札入れに入れ、そのまま忘れていました。

口癖の向こうで、妻が削っていたもの

浴室から、宅配の支払いを財布で済ませてほしいと頼んだばかりでした。風呂から上がると、テーブルの真ん中にあの領収書が置いてありました。

「これ、何?」

首にタオルをかけたまま、印字された日付を指でなぞりました。義父の頼みを明かせば済むことでした。けれど記念日まで、まだ1か月あります。

「ごめん、今は言えない」

「足りないって、毎月言ってたよね。私、自分のお昼を削って足してたんだよ」

先月、財布に5,000円札が1枚増えていたことには気づいていました。家計に余裕があるのだと思い込んで、お礼も言わずに使っていたのは俺のほうでした。目を伏せて「ごめん」と返すのがやっとでした。

そして...

次の朝から、少し早く起きてご飯を炊くことにしたのです。握ったおにぎりを2つラップに包んで鞄に入れ、コンビニのコーヒーもやめました。

義父には「記念日が終わったら、娘さんに全部話してもいいですか」と送り、返事はまだありませんでした。炊飯器のタイマーを1時間早くセットして、今日も妻より先に台所に立ちました。

(30代男性・メーカー営業)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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