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「土地代0円」の大誤算…年収700万円・子3人、4500万円の家を建てた30代が3年後に漏らした「いっそ売るか」

  • 2026.10.7

マイホームの取得費用が高騰する中、コスト削減のため親から土地を譲り受けるのは得策なのか。ファイナンシャルプランナーの松田聡子さんは「土地取得代が浮くからといって、一概に好条件とは言い難い。潜在的なリスクを把握しておくべきだ」という――。

※記事中の相談事例はプライバシー保護のため、個人が特定されないよう一部を変更しています。

ミニチュアの家を持って悩む男性
※写真はイメージです
親からもらった土地に家を建てたものの…

「この家、売ったほうがいいんでしょうか」

筆者がファイナンシャルプランナーとして住宅資金の相談を受けていたとき、会社員男性(30代)からこんな言葉が漏れた。男性は妻と3人の子どもの5人家族。一番上の子どもは小学1年生、一番下はまだ赤ちゃんだった。親から郊外の土地を贈与してもらい、そこに4500万円ほどの注文住宅を建てた。自己資金を入れ、住宅ローンの借入額は約4000万円。年収は約700万円あり、ローン審査も問題なく通った。

親から土地をもらえるのだから土地代はいらない。一生に一度のマイホームだし、建物にはお金をかけたい。家を建てるときには、先のことをそこまで深く考えていなかったという。ところが暮らし始めてみると、思った以上に家計に余裕がない。さらに約3年後、勤務先の業績が悪化して収入も減った。

「だったら、いっそ売るという方法もあるのではないか」

実際のところ、男性はそこまで深刻に思い詰めていたわけではない。あくまで選択肢のひとつとして口にしただけだったのだろう。しかし筆者には、このひと言が妙に引っかかった。この家は、売ろうと思ったとき、本当に売れるのだろうか……。

住宅ローンは何十年にもわたって返済する必要がある。一方、仕事や収入、家族の状況は、その間ずっと同じとは限らない。住宅価格が上昇し、借入額も大きくなっている昨今、親の土地に高額な注文住宅を建て、あとになって「こんなはずではなかった」となる人が今後増える可能性があるのではないか。

土地代は0円でも、いまは建物自体が高騰

なぜそう考えるのか、数字を挙げながら説明していこう。

親から土地をもらえることには、大きな経済的メリットがある。「土地代がかからない。その分、建物にお金をかけられる」。そう考えるのも道理だろう。都市部を中心に地価が上昇するなか、数百万円から数千万円の土地代が浮くこともある。

ところが、いまは建物そのものが高い。住宅金融支援機構が2026年7月に公表した「2025年度フラット35利用者調査」によると、土地をすでに所有している人などが利用する「注文住宅」の平均建設費は4259万8000円だった。前年の3932万1000円から8.3%、金額にして約328万円増えている。

平均住宅面積は118.4平方メートル、約35.8坪。単純計算すると1坪あたり約119万円になる。フラット35利用者に限った数字ではあるものの、土地代がかからなくても、建物だけで4000万円を超える時代になっている。しかも、注文住宅では建物本体以外の費用も発生する。土地の状態によっては、地盤改良や造成、給排水工事、古家の解体などが必要になる。

親の土地に家を建てる場合、もうひとつ注意したいのが「浮いた土地代を建物に回してしまう」ことだ。たとえば、本来なら土地と建物を合わせて4000万円程度を予算としていた世帯でも、土地を無償で取得できれば、「せっかくだから建物はもう少し豪華にしよう」と考えやすい。床面積を広げたり、設備のグレードを上げたりすれば、建築費は簡単に膨らむ。

住宅会社から見ても、土地代の負担がない分、建物に予算を振り向けやすい顧客になる。しかし、土地代がゼロになったからといって、毎月の返済に使える家計の余力まで増えるわけではない。むしろ、浮いたはずの土地代を建築費に置き換えてしまえば、結果として大きな住宅ローンを抱えることになる。

年収700万円でも「楽ではなかった」

冒頭の相談者も、親から土地を譲り受けたことが、高額な注文住宅を建てる心理的なハードルを下げた面はあったのだろう。だが「土地を買わなくていい」ことと、「少ない負担で家を持てる」ことは、必ずしもイコールではない。ちなみに、親から土地そのものを贈与された場合には、原則として贈与税や不動産取得税の課税対象となる。ここでは、こうした税負担とは別に、住宅ローンと将来の売却リスクを考えていく。

この男性のケースに近い条件でコストまわりを改めて整理してみよう。

建築費4500万円、自己資金500万円、住宅ローン4000万円。35年の元利均等返済で、金利を年1.5%、ボーナス返済なしとすると、毎月の返済額は約12万2000円になる。男性の直近の年収は賞与込みで約700万円、年間の手取りは約580万円だった。年間返済額は約146万円なので、手取り年収に対する住宅ローン返済額の割合は約25%になる。

数字だけを見ると、特に無理な返済計画とはいえない。しかし、この家庭では事情が違った。男性の毎月の手取り給与は38万円前後だった。勤務先は業績によって賞与が変動しやすく、ボーナス払いを組むことには不安があったため、住宅ローンは毎月払いだけにしていた。すると毎月12万2000円の住宅ローンは、月々の手取りの約32%を占める。38万円から住宅ローンを差し引くと残るのは約25万8000円。ここから5人家族の食費、光熱費、通信費、保険料、車関連費などを支払う。さらに子どもは3人。一番上でもまだ小学1年生で、教育費が本格的に膨らむのはこれからだった。

住宅ローンの審査に通ったことと、その後何十年も余裕を持って返済できることは同じではない。実際、家を建てて数年後、勤務先の業績が悪化し、男性の収入は減った。そこで初めて「このまま返すより、売るという選択肢もあるのではないか」と考えるようになったのだ。

家の模型と積み上げたコインを前に、頭を抱える男性
※写真はイメージです
「苦しくなれば売ればいい」は本当に可能か

では、4000万円を借りて建てた家は、返済が苦しくなれば売却すればよいのだろうか。

先ほどと同じく4000万円を金利1.5%、35年元利均等返済で借り、金利が変わらなかったと仮定すると、3年後の住宅ローン残高は約3733万円になる。3年間、毎月12万円以上を返済していても、まだ3700万円以上が残っている。返済開始から10年が経過してもローン残高は約3062万円、15年後でも約2538万円だ。

住宅を通常の方法で売却するには、原則として売却時に住宅ローンを完済し、金融機関が設定した抵当権を抹消する必要がある。そのため売却時には、ローンを完済できる金額で買ってくれる人が見つかるかが重要になってくる。売却価格から仲介手数料などを差し引いた金額でローン残高を完済できなければ、不足分は原則として自己資金などから補わなければならない。

ここで親からもらった土地という問題が浮かび上がる。自分で土地を買うなら、駅からの距離、周辺の商業施設、道路との接し方、土地の形、高低差、上下水道などのインフラ、法令上の制約などを、複数の候補地と比較するだろう。ところが親の土地は、自分で選んだ土地ではない。「タダでもらえる」という大きなメリットがあるため、本来なら土地を購入するときに確認するはずの条件を、十分に意識しないまま家を建ててしまうケースも多いだろう。

冒頭の男性が家を建てたのも郊外だった。「売ったほうがいいのか」と男性は口にしたが、筆者には売却によって簡単に問題を解決できるとは思えなかった。

「一生住む」という前提は簡単に崩れる

「うちは一生ここに住むから、売却することなど考える必要はない」。そう思う人もいるだろう。しかし、35年という一般的な住宅ローンの返済期間を踏まえれば、その間に何が起こるかは誰にもわからない。

筆者が相談を受けた別のケースを紹介しよう。夫が親から土地を贈与され、その土地に夫名義で注文住宅を建てた。住宅ローンも夫単独で借りた。当然、家を建てた当時はそこで家族と長く暮らすつもりだった。ところが、建築から7年ほどで夫婦は離婚した。妻と子どもはそのまま家に住み続け、夫は家を出た。住宅ローンの返済は夫が続け、養育費も別に負担している。さらにその後、夫が継いだ家業の経営状況が悪化した。もし住宅ローンの返済まで難しくなれば、家の売却を考えざるを得ない。

ところが、その家が建っている土地は市街化調整区域だった。市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域と位置づけられ、開発行為や一定の建築行為には許可が必要になる。土地ごとの状況や自治体の基準によって扱いは異なるが、買い手が将来の建て替えや土地利用を考える場合には、許可条件の確認が必要になる。

「自分たちは一生住むから問題ない」と考えて建てた家でも、離婚、転職、減収、介護、事業不振など、人生の変化によって売却する必要が生じることはある。この相談者も、7年後に自分がその家を出て、経営する事業の悪化を心配しながら住宅ローンを払い続けることになるとは、家を建てたときには想像していなかっただろう。

契約書にハンコを押す人
※写真はイメージです
この土地、自分で金を払ってでも買う?

もちろん、親から土地をもらえること自体が悪いわけではない。駅に近く、通勤や通学にも便利で、買い物や医療にも困らない。災害リスクも許容でき、将来も住宅地として一定の需要が見込める。そんな土地を取得費なしで使えるのであれば、マイホーム取得では大きなメリットになる。

問題は「タダでもらえる土地だから」という理由だけで、そこに数千万円の建物を固定してしまうことだ。住宅ローンを組むとき、多くの人が「この返済額なら払っていけるか」を考える。しかし、親の土地に注文住宅を建てるなら、もうひとつ考えておきたい。事情が変わり、そこに住めなくなったとき、家と土地に買い手が付くだろうか、ということだ。

家を建てる前に、一度「親からもらえる土地」という条件を忘れて、考えてみてほしい。「もし、この土地が普通に売りに出ていたら、自分のお金を払ってでも買うだろうか」と。答えが「買いたい」なら、そこに家を建てる合理性は十分にある。一方、「タダでもらえるから使うだけで、自分のお金なら買わない」と思う土地なら、その上に4000万円、4500万円という家を建てることには慎重になったほうがいい。

一生そこに住めるかどうかは、誰にもわからない。だからこそ、土地代がゼロかどうかだけではなく、「必要になったときに売れる土地か」という出口まで考えてから、家を建てる必要があるのだ。

松田 聡子(まつだ・さとこ)
ライター/ファイナンシャルプランナー
群馬県前橋市出身。明治大学法学部卒業。大学卒業後、IT企業でエンジニアとして15年間勤務し、金融システムや物流システムの開発に従事。その後、国内生命保険会社へ法人コンサルティング営業職に転身し、2009年に独立系ファイナンシャルプランナーとして開業。以後、個人向けマネー相談や企業向けコンサルティングの他、企業型確定拠出年金導入企業向け従業員研修の講師などに携わる。2020年より金融経済ライターとしても経済メディア、メガバンクオウンドメディアなどに実務経験を活かした記事を寄稿。著書『60分でわかる!住宅ローン超入門』(技術評論社)。日本FP協会認定CFP。

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