1. トップ
  2. エンタメ
  3. コミックス・ウェーブ・フィルムが韓国アニメ『縁の手紙』を配給した理由を担当者に直撃!「新海誠作品の影響が画に表れていた」

コミックス・ウェーブ・フィルムが韓国アニメ『縁の手紙』を配給した理由を担当者に直撃!「新海誠作品の影響が画に表れていた」

  • 2026.9.26

『君の名は。』(16)、『すずめの戸締まり』(22)の新海誠監督作品など、数々のハイクオリティな劇場アニメを世に送りだしてきたアニメーション制作会社コミックス・ウェーブ・フィルム(以下、CWF)。国内外で高い評価を獲得し続けている同スタジオが、初めて海外のアニメーション映画の日本配給を手掛けることになった。

【写真を見る】声優初挑戦ながら主人公ソリの日本語吹替えを見事にやりきった矢吹奈子

韓国発のその作品、『縁の手紙』(公開中)はウェブトゥーン(縦スクロールのデジタルコミック)を原作とし、10代の繊細な心の機微を、息をのむほどに美しい風景描写と共に映しだしていく。果たして、CWFが本作を配給するに至った経緯とは?『ほしのこえ』(02)より新海誠作品の海外プロモーションを担当し、『縁の手紙』の配給を決意した当人でもある同社の常務取締役・角南一城に、本作との衝撃的な出会いから日本語版制作の舞台裏、さらにCWFの今後の展望まで語ってもらった。

「ちょっとこれはすごいぞ…と強烈な衝撃を受けました」

CWFの前身であるコミックス・ウェーブ時代から、自社作品のプロモーションに販売、海外セールスまで手掛けてきた角南。そういった経緯から海外のアニメーション映画祭で審査員を務めることもあり、本作との出会いも韓国で開催された第26回プチョンアニメーション国際映画祭でのことだった。

「審査員として招かれ、3日間で10~12本ほどの作品を連続して観るというスケジュールでした。そのなかに韓国の作品が2本ほどあったのですが、『縁の手紙』を観た瞬間、ちょっとこれはすごいぞ…と強烈な衝撃を受けたんです。グランプリ自体は別の作品になったのですが、本作は明らかにクオリティが飛び抜けていたように感じました」。

いじめの標的となり、都会から田舎の学校へ転校することになった少女ソリ [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
いじめの標的となり、都会から田舎の学校へ転校することになった少女ソリ [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

このように感じた理由の一つに、韓国アニメーションに対するイメージとのギャップがあった。「韓国は実写映画に非常に力を入れていて、予算規模も日本より大きい。一方で、アニメーション映画にはそこまで大きな予算が投じられておらず、10代、20代が楽しめるような本格的な作品があまり作られてこなかった印象がありました。作られるとしても子ども向け、もしくは『整形水』のような大人向けでも尖った作品の傾向があったんです。そんな市場環境のなかで、これほど丁寧で美しい青春ドラマを作り上げた制作環境があったことに驚きました」。

転校先でもクラスになじむことができないソリ [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
転校先でもクラスになじむことができないソリ [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

「この監督は絶対、新海誠作品が好きなんだろうな」

本作の監督を務めたのは、おもに短編作品で活動してきたキム・ヨンファン。YouTubeに投稿したアニメーションシリーズ「A Day Before Us」が累計再生数1億5千万回超えを記録しているものの、長編作品を手掛けるのは今回が初めてだった。

「初鑑賞時は原作について知らなかったのですが、ストーリーの構成力が抜群で物語として実によくできていたし、CWFや新海誠作品でも大切にしている美しい背景美術、光の明暗の描写が見事に表現されていて非常に感銘を受けました。この監督は絶対、新海誠作品が好きなんだろうなと感じ、本人に聞いたら本当にその通りだったので、これはCWFでやるべき作品だと確信しました」。

ソリは机の中から不思議な手紙を見つける [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
ソリは机の中から不思議な手紙を見つける [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

「何気ない日常の風景を美しく描きたいという情熱」

物語の主人公は、友人を庇ったことでいじめの標的となり、都会から田舎の学校へ転校することになった少女ソリ。そのことがトラウマとなり心を閉ざした彼女は、転校先でもなじめずにいたが、ある日、机の中に隠された不思議な手紙を見つける。そこには新しい学校で過ごすためのヒントと、「続きを探してみて」という謎めいた言葉が記されていた。その言葉に導かれ第2の手紙、第3の手紙と手にしていくソリ。やがて、ぶっきらぼうな同級生ドンスンと出会う。

手紙の指示に従って学校中を探索する [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
手紙の指示に従って学校中を探索する [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

ゲーム性のある謎めいた展開、スクリーン映えする圧倒的映像美に引き込まれるのはもちろん、その根底に流れる青春ドラマの瑞々しさが、日本の観客の心にも必ず届くと角南は考えた。

「10代の葛藤や人間関係を描いたドラマは、日本の観客が観ても深く共感できるものです。いじめの描写など日韓での違いや独自の展開もありますが、総合的に見ても観客の心を引きつける要素が詰まっていると感じました。それに加えて、ストーリーの組み立てもおもしろかった。主人公が手紙の指示に従って学校中を探索し、ドンスンと出会う過程はまるで宝探しや『リアル脱出ゲーム』のようでワクワクするはず。ゲーム的エンタテインメント性も大きな魅力でした」。

CGも用いながら美しい風景を描くことにこだわっている [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
CGも用いながら美しい風景を描くことにこだわっている [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

新海監督へのリスペクトを公言するヨンファン監督。本作の映像美には、随所に新海誠作品からの影響を感じ取ることができる。「一つ一つのシーンに光の描写に対するこだわり、何気ない日常の風景を美しく描きたいという情熱を感じます。監督から『新海監督の作品は全部観ています』と言われた時は、純粋にうれしくて誇らしい気持ちになりました。新海誠作品は韓国でも非常に高い人気があり、現地のアニメーションクリエイターにも大きな影響を与え、それが作品の画に表れていたんです」。

ぶっきらぼうな同級生のドンスンと出会う [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
ぶっきらぼうな同級生のドンスンと出会う [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

「アニメーションとしての気持ちよさや臨場感を意識して演出している」

角南は原作となったウェブトゥーンも読了。「縦スクロールのウェブトゥーンはコマ割りや視線誘導、見せ場の作り方が緻密に計算されており、絵コンテの段階に近い視覚的な設計がなされています。アニメーションにする際のベースとなる表現の骨格が最初からしっかり存在しているため、映像化しやすく、クオリティの高いアニメーションを作りやすい」とアニメーションとの親和性を説明する。

ドンスンと姿を消した友人ホヨンの居場所だった秘密基地 [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
ドンスンと姿を消した友人ホヨンの居場所だった秘密基地 [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

続けて、ヨンファン監督が原作をそのままなぞるのではなく、アニメならではの演出や表現へ落とし込む独自の試みが散りばめられていることにも驚いたという。

「例えば、ソリが『目を瞑って◯歩歩いたのち、右に曲がって…』という手紙の指示に従って森のなかを進むシーンがあるのですが、原作のよさを生かしつつも、アニメーションとしての気持ちよさや臨場感を意識して演出されているんです。背景にも、手描きだけでなくあえてCGを取り入れるなど、映像としての演出効果を監督自身が判断し、制作全体を指揮して見事にまとめ上げている印象でした。この作品をアニメーションという媒体にする意味をしっかり考えて演出を加えている。そのこだわりを知った時、改めて素晴らしいクリエイターだと感じました」。

「矢吹奈子さんはソリの瑞々しい感情を実に見事に演じていた」

かくして、CWFでの『縁の手紙』の国内配給が決定し、社内で結成された配給チームのもと日本語版の制作も動きだしていく。そこでは、初の海外作品の配給ということもあり、特に吹替版キャストについて“全員を本業の声優で固めるべきか”、それとも“俳優を起用すべきか”などの議論が交わされた。

そのなかでまず、作品を引っ張っていく存在が必要という結論に至り、主人公ソリ役に日韓合同のオーディション番組から誕生したIZ*ONE(アイズワン)のメンバーとして活躍し、現在は女優としても精力的に活動する矢吹奈子に白羽の矢が立った。韓国文化への深い理解を持ち、オーディション番組の頃からその伸びやかな声を絶賛されていたことが決め手で、オファーに対して本人も「以前から声優のお仕事に興味があった」と快諾してくれたという。

【写真を見る】声優初挑戦ながら主人公ソリの日本語吹替えを見事にやりきった矢吹奈子 [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
【写真を見る】声優初挑戦ながら主人公ソリの日本語吹替えを見事にやりきった矢吹奈子 [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

一方、ソリと最も多くの会話を交わすドンスン役には、作品全体を声の芝居でリードできる確かな実績を持つ小野賢章が指名された。声優初挑戦となる矢吹とのバランスも考慮され、アニメのみならず海外作品の吹替えや舞台など、多方面で活躍していることもポイントだった。

完成した日本語吹替版を観た角南は、「さらに一段、いい映画になった」とその仕上がりに深い感銘を受けた。「当初、字幕版だけでもいいのではと考えていた私の認識が間違っていたと痛感しました。吹替版があることで作品の世界観に自然に没入できますし、より多くのお客さんに観ていただける形になったと思います。矢吹さんは声優初挑戦とのことでしたが、ソリの瑞々しい感情を実に見事に演じていらっしゃいました。小野さんはさすがの経験豊富さで、作品にスッと入り込めるような落ち着いた芝居で引き立ててくださった。お2人のかけ合いも本当にぴったりでしたね。アフレコ現場では、矢吹さんは自分の出番がない時でも小野さんの収録を見学して熱心に学ばれていたと伺い、そうした熱心な姿勢が声のパフォーマンスにもしっかり表れていると感じました」。

「カセットテープで作品の感動を追体験できる」

矢吹は主題歌「Your Letter - Japanese Ver.」の歌唱と訳詞も担当している。オリジナル版主題歌「Your Letter」は作品の世界観と深く結びついた楽曲であり、新海誠作品において音楽が重要であるのと同様、映画をより観客に訴えかける作品として完成させるためには外せない要素だった。日本語版の制作チームは、IZ*ONE時代に楽曲の日本語訳詞を手掛け、韓国語の持つ世界観を損なうことなく美しい日本語として表現していた矢吹の文才に着目。ダメ元でオファーしたところ、矢吹自身も「ぜひやりたい!」と前向きだったことから、作品の想いを完全になぞった期待通りの日本語主題歌が誕生した。

「歌も歌詞も本当に素晴らしかったです」と角南も「Your Letter - Japanese Ver.」を絶賛する。続けて、「僕からお願いしたことは一つで、この主題歌をカセットテープで販売してほしいということでした。特に言及されているわけではないのですが、本作の舞台は1990年代だと思われます。印象的なアイテムとしてウォークマンも登場するので、『Your Letter - Japanese Ver.』をカセットテープで聴くことができれば、作品の感動を追体験できるんじゃないかと考えました」。

このアイデアは実現し、上映劇場で販売されるという。カセットテープならではの優しいヒスノイズ、温かみのある音質が作品の世界観ともマッチし、どこか懐かしい気持ちにさせてくれるはずだ。

「“映画館で観る価値がある”と思える作品を日本のみなさんに紹介したい」

海外作品の配給第1弾として本作を日本の観客に届けるCWF。今後の海外展開など具体的な事業プランはあるのだろうか?

「基本姿勢はこれからも変わりません。年間何本配給するといった具体的な事業計画があるわけではありませんが、“映画館の大スクリーンで観る価値がある”と心から思える素晴らしい作品があれば、国や地域を問わず日本のみなさんに紹介していきたいです。CWFにはもともと、新海監督の『ほしのこえ』をはじめ、新しい才能を世に送りだしてきた歴史があります。本作のキム・ヨンファン監督をはじめ、今後も海外のフレッシュな才能と出会い、彼らの作品を日本に届けるサポートができればと思っています。さらに言えば、企画段階から一緒にアイデアを出し合い、作品作りそのものを共にしていくような機会があれば、よりおもしろくなるんじゃないかと楽しみでもあります」。

魔女と呼ばれる用務員スニさんの部屋で不思議な体験をする [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
魔女と呼ばれる用務員スニさんの部屋で不思議な体験をする [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

「日本のアニメ文化と異国の風情が絶妙に融合した『縁の手紙』」

現在、CWFでは新海監督の故郷である長野県佐久市に、映画館を2027年に開館させるプロジェクトも進めている。地方に映画館を新たに作る意義、大きなスクリーンで作品を観ることの魅力についても語ってもらった。

「現代はスマートフォンやサブスクリプションサービスで、手軽に映像を楽しめる時代です。対して、スケジュールを調整し、映画館まで足を運んで大きなスクリーンで映画を観るという行為は、手間がかかることかもしれません。ですが、暗闇のなかで映像と音響に包まれる体験は、ほかの何物にも代え難い特別なものです。地方にそうした体験ができる場が存在し続けることは非常に意味があると思っています」。

手紙がつなぐ瑞々しく謎めいた青春ストーリーが描かれる [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
手紙がつなぐ瑞々しく謎めいた青春ストーリーが描かれる [c] 2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.

そして、『縁の手紙』も劇場で鑑賞すべき作品であり、映像や音楽にどっぷりと浸ってほしいと角南は語る。「『縁の手紙』は日本のアニメーションに強いリスペクトを持つ韓国の若い監督が、並々ならぬ情熱を傾けて作り上げた作品です。日本のアニメ文化と異国の風情が絶妙に融合しており、どこか懐かしくも新しい映像体験を味わっていただけるはずです。激しいアクションや複雑なストーリー展開の作品が多い現代において、本作は人の温もりやピュアなメッセージをまっすぐに伝えてくれる貴重な映画です。青春の瑞々しさや誰かを想う気持ちは世界共通なんだということを、映画館の大きなスクリーンでゆったりと感じていただけたらと思います」。

取材・文/平尾嘉浩

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ