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「安易な着地」を描かない。アニメーション映画『我々は宇宙人』で門脇康平監督がキャラクターに託した、青春時代の“痛み”

  • 2026.9.26

YOASOBIの「優しい彗星」など、数々のミュージックビデオ制作を手掛けてきた29歳の新鋭、門脇康平。そんな門脇が約6年の歳月をかけて紡ぎだしたアニメーション映画『我々は宇宙人』が公開中だ。長編監督デビュー作にして、第79回カンヌ国際映画祭監督週間でワールドプレミア上映されるなど、世界的な注目を集めている本作。実力派俳優の坂東龍汰、岡山天音が声優として参加し、田舎に暮らす2人の少年の約30年間におよぶ関係性の変化を、美しく、切なく、ノスタルジックなタッチで映しだす。

【写真を見る】本作が長編デビュー作となる門脇康平監督は現在29歳

本作の主人公は内気でごく“普通”な少年の翼と、クラスの人気者、暁太郎。正反対の2人は徐々に仲を深めていくが、暁太郎はある日を境に学校で浮いた存在となってしまう。年齢を重ね、それぞれの人生を歩んでいった翼と暁太郎が、若き日々を経て行き着く先が描かれる。青春時代に潜む“忘れてしまいたい記憶”をみずみずしく切り取った物語は、どのようにして生まれたのか?門脇監督自身の実体験も投影されているという本作の制作の裏側を、たっぷりと語ってもらった。

「小さい頃は映画やアニメよりも、ゴッホやモネの絵などアート作品に触れることが多かった」

門脇監督が映像制作を始める以前、創作の原点となったものを尋ねると、意外な答えが返ってきた。「僕は小さい頃、『画家になりたい!』と言っているタイプの子どもでした。映画やアニメ、漫画などより先に、ゴッホやモネの絵といった、アート方面の作品に触れることが多かったんです。高校生くらいまでは水彩やアクリルでキャンバスにひたすら絵を描いていたので、アナログとデジタルの絵の違いや、デジタルでやれること、構図の作り方などを把握していたことは、今回の映画制作に活かせたんじゃないかと感じています」。

青春時代のきらめきと痛みを描く『我々は宇宙人』 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
青春時代のきらめきと痛みを描く『我々は宇宙人』 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

これまで、ミュージックビデオの制作に多く携わってきた門脇監督は、長編アニメーションの監督を務めるにあたってそれらの“制約”の違いに気付かされたという。「ミュージックビデオは曲が主役なので、その曲に合う世界観を作らなければならないという制約があるなかで、いかに“自分の作家性を発揮するか”という表現だと捉えているんですけど、『我々は宇宙人』に関しては、オリジナルの企画であり脚本なので、なにをしてもいいんですよ。制約が一切ないところからなにかを生み出すという点が、ミュージックビデオとは全く違いました。“この映画が存在する意味”みたいなものまでを問い始めるとキリがなくて、『これでいいんだ』と思える脚本に固めるのがかなり難しかったです」。

門脇監督はこれまでに、YOASOBIやケツメイシのミュージックビデオを手掛けてきた [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
門脇監督はこれまでに、YOASOBIやケツメイシのミュージックビデオを手掛けてきた [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

脚本を作る際に参考にしたものについて尋ねると、「漫画を読む時のリズム感」だと答えた門脇監督。「おもしろい漫画を読みながら共通して思ったのは、じわじわと(“結”に至るまでの)“起承転”が展開していって、『この先を見たい!』という気持ちが高まっていった先に、見開きなどで見たかったものをドーンと見せてもらえるな、ということです。そういう“小さな起承転結”を繰り返し集めていくリズム感が読んでいて心地いいなと思いました。映画もそういう感じがないと、2時間観ていて眠くなるし辛くなるなと思ったので、そういったことを全体を通じて考えながら作っていました」。

「僕が長い間考えてきた“初恋”と”疎遠”というテーマを取り入れることで、なにか答えが出せるのではないかと思った」

本作では“普通”であることに悩む翼と、クラスで1番の人気者の暁太郎が出会い、親友になるところから物語が始まる。少年たちの友情は未来永劫続くかと思いきや、取り返しの付かないとある事件をきっかけに大きく変化していく。作中では彼らの“忘れてしまいたい記憶”や“無邪気な過ち”に焦点が当てられているのだが、その理由について門脇監督は「自分の実体験から来ている」と述べていた。

青年期の翼の声を担当するのは、俳優の坂東龍太 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
青年期の翼の声を担当するのは、俳優の坂東龍太 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

「僕自身、小さい頃に一番仲が良いと思っていた友達と、二度と話せなくなるような仲になってしまったことがあって。その出来事はいま考えても、自分のせいだったのか、そうじゃなかったのか、わからないままなんです。映画では“初恋”と“疎遠”が主なテーマになっているんですが、どちらも僕が長い間考えてきたことでもあるので、個人的に引き出しが多いテーマだったと思っています。その2つを作品に取り入れることによって、自分がずっと考えてきたことになにか答えが出せるんじゃないかと思いました。最終的に明快な答えは見つからなかったのですが、『“安易な着地”はない、ということを描こう』と思えたので、それを作品にも反映することができました」。

「翼と暁太郎の立場は僕が経験してきたことに基づいているからこそ、信じて演出できた」

時が流れ、次第に“普通”である翼のほうに関心が集まるようになると、人気者だった暁太郎はクラスメイトたちから遠巻きにされてしまう。この場面は大人になるにつれ、周りと同じような行動を取る人が世間から称賛される…といった現代日本の同調圧力を彷彿とさせられた。

【写真を見る】本作が長編デビュー作となる門脇康平監督は現在29歳 撮影/ヤナセタマミ
【写真を見る】本作が長編デビュー作となる門脇康平監督は現在29歳 撮影/ヤナセタマミ

「自分はもともと『変だね』と言われるタイプの子どもでしたし、立ち回りが周りと浮いているような時期もありました。でも大人になってからは『“普通”でいるほうが皆となじめるし、いわゆる“一軍”にいられる』といった雰囲気があることに気付いたんです。僕は器用だった頃もあったので、変だけど“普通”側にも紛れることができたのですが、そちら側から暁太郎のような友達と目が合った時の気まずさがあって。そういう感覚を持ったことがある人は多いんじゃないかなと思います。『“普通”であることが正解』みたいな意識の変化があるのって、小学校中学年から高学年くらいの間だと思ったので、作中では彼らが小学3年生の時をスタートにしています」。

青年期の暁太郎の声を、俳優の岡山天音が担当 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
青年期の暁太郎の声を、俳優の岡山天音が担当 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

“普通”側の翼と“変わっている”側である暁太郎だが、両方の立場を経験したことがあるという門脇監督は、どちらのキャラクターにより共感したのだろうか。「どちらも半々ですね。自分が翼みたいな時期を過ごしていたこともあるし、暁太郎のような時期もあったので。それぞれの立場でいる時の痛みはいまでも覚えているので、ストーリーを作る過程で僕が考えてきたことを2人に分けました。実は本作の脚本を手掛けるにあたって、『自分が信じられないと思ったシーンは書かないようにする』ということを特に心がけていて。2人が置かれている立場は、僕がたしかに経験してきたことに基づいているからこそ信じられたし、演出することができました」。

「作中に“本物”を出すことで、観ている人がどれくらい作品にダイブしてくれるのかを試してみたかった」

本作の舞台は平成の田舎町ということもあり、作中では「進研ゼミ小学講座」に登場するマスコットキャラクター“コラショ”の目覚まし時計やガラケー、「瞬足(アキレスによる子ども向けシューズ)」などの“平成”を感じさせるものが数多く登場する。

当時の“あるある感”を演出する小物の数々は、許諾を取り本物を登場させている [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS [c]Benesse Corporation / コラショ
当時の“あるある感”を演出する小物の数々は、許諾を取り本物を登場させている [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS [c]Benesse Corporation / コラショ

「まさに当時自分が使っていたものや、食べていたものを採用しています。観客の方々が『懐かしい!』という気持ちになれそうなものを意識して登場させていて、自分と近い世代の人たちが、観ていて引き込まれるようなものにしたかったんです。そこで偽物を使ってしまうと懐かしい気持ちのトリガーが発動しない気がしたので、作中に“本物”を出すことで、観ている人がどれくらい作品にダイブしてくれるのかを試してみたいと思いました。ほかには『青リンゴ餅飴(駄菓子)』や『ナルミヤキャラクターズ』なども出てくるんですけど、頑張って許諾を取りました。当時の“あるある感”のある演出は狙って入れた部分もあります」。

さらに門脇監督のこだわりは彼らの食事シーンからも垣間見える。「家族の喋る尺がない分、出てくるメニューでキャラクターの育ちや、どんな家庭なのかを想像しやすいようにしています。例えば栄養のある発酵食品が出た時は『多少健康に気を遣っているんだな』、お米がラップから出したての形をしていた時は『あまり時間がなかったんだな。でも納豆を混ぜてかけておいてくれる優しさはあるんだ』みたいな。特に翼の母親のキャラ造形を一発で説明するために、メニューを考えていました」。

繊細に切り取られる“青春時代”の映像は、観客の眠っていた記憶を呼び起こす [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
繊細に切り取られる“青春時代”の映像は、観客の眠っていた記憶を呼び起こす [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

作中では、私たちがかつて経験していてもおかしくないようなリアルな出来事が次々と巻き起こっていく。2人の人生は楽しいことばかりではなく、時には辛くて悲しいこともあるのだが、そんな生き方になぜか憧れてしまう不思議な力があった。「『学生時代、あんな嫌な思いをしたはずなのに、もう一度同じ教室で授業を受けてみたい』という感覚ってあると思うんですよ。この映画を見て『もう一度、翼や暁太郎が経験したようなことを味わいたい』という憧れの気持ちを抱いていただきたいですし、劇場を出た時に『さっきまで画面のなかにあった、憧れていた世界と、いま自分がいる世界ってなにも変わらないんだな』と気付いて、『ちょっと前向きに生きてみようかな』と思えるような、生きる希望に繋がる作品になればいいなと。『観客が憧れるような世界を見せたい』という思いから、この作品を作りました」。

「直感的な坂東さんと、思考的な岡山さんの違いが印象的だった」

アニメーションではキャラクターに命を吹き込む声優も重要であり、本作では青年期以降の翼の声を坂東龍汰、同じく青年期以降の暁太郎の声を岡山天音と、いま注目の俳優陣が演じている。門脇監督はキャスティングにあたり、「ナチュラルな演技ができる人」を求めていたそう。「この作品はキャラクターの顔が具体的なので、いわゆるアニメ作品ならではの息の吐き方やイントネーションの付け方をすると、違和感が生まれてしまうんですよね。現実で“そこらへんにいる人”のような空気感のあるお芝居がポイントになっています」。

実力派俳優たちによる自然なお芝居が物語のリアルな質感を際立たせる [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
実力派俳優たちによる自然なお芝居が物語のリアルな質感を際立たせる [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

また門脇監督は2人のことを「アウトプットの仕方が違うタイプだった」と語る。「坂東さんは収録の際に『まずやってみる』タイプでした。まずは一声出してみて、僕からのフィードバックを受けて発声の仕方を変えていくといったように、『アキネーター』みたいな感じで正解を絞り込んでいっていました。逆に岡山さんは『なぜそういうふうに演じてほしいのか』という説明を先に聞いてから慎重に出してみるタイプなので、最初に僕が詳しくお話させていただきました。直感的な坂東さんと、思考的な岡山さんの違いが印象的でした」。

「翼は暁太郎のことを60歳、70歳になっても『あんな奴がいたな』と思い出すような気がする」

門脇監督が作り上げた渾身の一作は、国内のみならず世界でも高い評価を得ている。第79回カンヌ国際映画祭の監督週間に正式出品されたほか、アヌシー国際アニメーション映画祭2026の長編コンペティション部門に選出されたことで「視野が本当に広がった」と感じたそうだ。「海外の映画祭を目指していたことは確かなんですけど、作っている時は日本のお客さんが喜んでくれる姿ばかりをイメージしていました。ですが、海外の方々が目に涙を浮かべて拍手している姿を見た時に、『映画を見たあとの余韻は言語の壁を越えていくんだ』と改めて実感しました」。

『我々は宇宙人』は全国の劇場で公開中 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
『我々は宇宙人』は全国の劇場で公開中 [c]NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS

翼と暁太郎のように、関わった時間は短いものの、なぜか“忘れられない人”は多くの人の記憶のなかに存在しているのではないだろうか。「僕自身、これまで疎遠になった人たちの顔は忘れられないですし、きっかけがあれば『いま、どうしてるかな?』と思い出すことはあります。翼が暁太郎と疎遠になってからつるんでいた友人たちって、多分40歳くらいになったらもう会ってないと思うんですよね。でも翼は暁太郎のことを60歳、70歳になっても『あんな奴がいたな』と思い出すような気がするので、彼にとって印象に残っているのは暁太郎のほうなんじゃないかな」。

門脇康平監督が放つ今後の作品も楽しみに待ちたい 撮影/ヤナセタマミ
門脇康平監督が放つ今後の作品も楽しみに待ちたい 撮影/ヤナセタマミ

この物語では、まさに私たちが歩んできた人生そのもののような等身大のストーリーが描かれている。だからこそ共感できるし、自分自身の思い出と重ね合わせてしまうのだ。「この作品は僕の表現の集大成であり、本当にぼんやり考えていた時間まで含めると、20歳くらいの時から『いつかこういうものを作らなくちゃ』と思い続けていた自信作です。友達や恋人、家族と一緒に観に行くと、終わったあとのご飯が非常に盛り上がるタイプの映画になっているので、誰かを誘って映画をご覧いただけたら幸いです。」。

取材・文/渡辺美咲

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