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飛び散る鮮血に宙を舞う生首…最新作『八つ墓村』へ連なる「金田一耕助」シリーズのホラー的演出

  • 2026.9.26

推理作家、横溝正史の「金田一耕助」シリーズを新たに映画化した『八つ墓村』(公開中)。同名の原作小説には、主人公の出生の秘密、ラブロマンス、宝探し、情報のデマによる集団パニックなど様々な要素が内在。一方で、「八つ墓村」という名前の由来にまつわる落武者殺しと、その呪いを受けた田治見家の当主、要蔵が引き起こした大量殺戮事件といった怪奇要素もあり、本作の監督で世界的なJホラーの旗手、清水崇も特にホラーの部分にフォーカスを当てている。数々の映画化で知られる横溝正史作品だが、そこには少なからずホラーの要素がはらんでいて、そこが作品の魅力にもなっていた。横溝映画とホラーとのかかわりを歴史的に振り返ってみたい。

【写真を見る】双子の老婆、小竹と小梅を一人二役で演じた高島礼子(『八つ墓村』)

名探偵、金田一耕助役の尾上松也(『八つ墓村』) [c]2026「八つ墓村」製作委員会 [c]Yokomizo Seishi/KADOKAWA
名探偵、金田一耕助役の尾上松也(『八つ墓村』) [c]2026「八つ墓村」製作委員会 [c]Yokomizo Seishi/KADOKAWA

不穏さを際立たせた片岡千恵蔵版、そこから派生したモンスターホラーの色合いも

横溝正史の小説を映画化したものには、時代小説「人形佐七捕物帖」を若山富三郎主演で映像化したシリーズ(1956~61年)や、姉と弟の禁断の愛を耽美的に描いた『蔵の中』(81)、金田一耕助と並ぶ横溝正史が創造した名探偵、由利麟太郎が活躍する『蝶々失踪事件』(47)があるが、その中心的な作品は、やはり事件の謎解きとロマンあふれる人間ドラマを融合させた「金田一耕助」シリーズだ。

金田一耕助ものは最初、片岡千恵蔵主演で「本陣殺人事件」を原作とする『三本指の男』(47)から『三つ首塔』(56)まで7本が作られた。このシリーズでは第1作に片岡千恵蔵が二役で、事件の鍵を握る三本指の男を奇怪なメイクで演じたり、大ヒットした第2作『獄門島』(49)では殺戮が起こる夜を猛烈な嵐の日にして不穏な空気を醸し出したりと、直接的なホラー描写というより、怖さを予見させるスリラー的な描写が目立つ。原作と犯人を変更したこともあったため、ミステリーとしてはかなり強引な展開の作品も多いが、歪んだ人間関係が引き起こす連続殺人を、ローカル色豊かに映しだした娯楽作として見応えがあった。

白い包帯で顔を覆った幽霊男が登場する『幽霊男』 DVD 発売中 価格:4,950円 発売・販売元:東宝 [c]1954 TOHO CO., LTD.
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この片岡千恵蔵版を基本イメージとして、岡譲二が金田一を演じた『毒蛇島奇談 女王蜂』(52)が大映で、河津清三郎が金田一に扮した『幽霊男』(54)と池部良が金田一役の『吸血蛾』(56)が東宝で作られた。『幽霊男』には白い包帯で顔を覆った幽霊男が、『吸血蛾』では奇病“狼つき”の男が犯行を冒す作品で、ある種のモンスターホラーの色合いを持っている。特に怪談映画の巨匠、中川信夫監督による『吸血蛾』は、影を効果的に使った斬新な画面処理を含めて、異色のスリラー映画に仕上がっていた。

奇病“狼つき”の男が犯行を冒す『吸血蛾』 DVD 発売中 価格:4,950円 発売・販売元:東宝 [c]1956 TOHO CO., LTD.
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片岡千恵蔵の路線を引き継いだ、高倉健主演による東映の『悪魔の手毬唄』(61)を最後に、金田一耕助映画は休眠期に入る。それは推理小説が松本清張に代表される社会性を持った論理的な謎解きに主眼を置く、リアルなミステリーに人気が移ったからだった。

ミステリー映画を目指しながらホラー要素が散りばめられた市川崑監督版

金田一耕助映画は、高林陽一監督、中尾彬が現代的な金田一を演じた『本陣殺人事件』(75)で復活。この作品は設定を現代にしたため、犯人の動機に時代とのずれを感じさせたが、殺人のトリックを細部まで映像化したことで、ミステリー小説としての横溝作品のおもしろさを再認識させるものになった。

そして角川映画第1弾『犬神家の一族』(76)が公開された。市川崑監督、石坂浩二が金田一を演じたこのシリーズは、2006年のリメイク版まで6作を数える人気シリーズになった。ほかにも市川監督は、豊川悦司が金田一を演じた『八つ墓村』(96)を作っている。市川監督はアガサ・クリスティーをもじって久里子亭という脚本家のペンネームを持っているほど、ミステリー小説のファン。それだけにこのシリーズでは、連続殺人事件の謎解きに主眼を置いて、複雑な人間関係を絡めたミステリー映画を目指したが、一方ではホラー描写も多い。

市川崑監督、石坂浩二の主演で贈る「金田一耕助」シリーズの第1弾『犬神家の一族 4Kデジタル修復 』 Ultra HD Blu-ray【HDR版】(4K Ultra HD Blu-ray+Blu-ray+特典Blu-ray 計3枚組) 発売中 価格:16,280円 発売・販売元:KADOKAWA
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海外ホラーと相対する日本的土壌に根差した恐怖

例えば、『犬神家の一族』でビジュアル的に印象的なのは、戦争で顔に傷を負った佐清(あおい輝彦)がその傷を隠す白いマスクを親族の前で剥いで見せる場面や、別の人物が佐清になりすましていたとわかった母・松子(高峰三枝子)が、彼の後頭部に斧を振り下ろして血しぶきが飛ぶ場面。さらにはその人物の死体が湖面から逆さになって、足だけ突き出ている場面など、いずれも観ただけで怖さが伝わってくるシーンが登場する。

また、第3作『獄門島』(77)で第2の犠牲者、雪枝(中村七枝子)が死んだあと、釣鐘に首を挟まれて、彼女の首が千切れて飛ぶシーン。あるいは第4作『女王蜂』(78)の冒頭で、殺された遊佐(石田信之)の死体の腕が、いきなり動きだした時計台の歯車に巻き込まれて飛ぶシーンなど、インパクトある残酷描写を市川監督は挿入している。

市川崑監督、石坂浩二の主演で贈る「金田一耕助」シリーズの第3弾『獄門島 <東宝DVD名作セレクション>』 DVD 発売中 価格:3,300円 発売・販売元:東宝 [c]1977 TOHO CO., LTD.
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その理由として、時代的な背景も影響している。当時はオカルト&ホラー映画のブームで、ホラー大作『オーメン』(76)には落ちてきた避雷針に突き刺さって死ぬ人物や、トラックの荷台から滑り落ちたガラスで首を切られる人物が登場。超能力少女がプロムパーティーを修羅場に変える『キャリー』(76)、魔女の巣窟であるバレエ学校に入学した少女の恐怖を描く『サスペリア』(77)も立て続けに公開されたことから、市川監督は海外のホラー映画とは違った、日本的な土壌に根差した恐怖をこのシリーズに盛り込んだのだ。そして、原作小説もそんなホラー的描写になじむ雰囲気を持っていたのである。

市川崑監督、石坂浩二の主演で贈る「金田一耕助」シリーズの第4弾『女王蜂 <東宝DVD名作セレクション>』 DVD 発売中 価格:3,300円 発売・販売元:東宝 [c]1978 TOHO CO., LTD.
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ホラー表現の極致となった野村芳太郎監督版『八つ墓村』

多治見要蔵の狂気が強烈なホラー寄りの野村芳太郎監督版『八つ墓村』 [c]1977/2026松竹株式会社
多治見要蔵の狂気が強烈なホラー寄りの野村芳太郎監督版『八つ墓村』 [c]1977/2026松竹株式会社

そのホラー表現の極致が、野村芳太郎監督による『八つ墓村』(77)だった。落武者伝説に始まる村の因縁話を、怨霊の呪いが現代まで続いていることとして描いたこの映画は、完全にミステリーよりもホラーであることを目指していた。ほかにも、死者の幽霊に怯える人々が降霊術の儀式を行う『悪魔が来りて笛を吹く』(79)、二組の双生児にまつわる孤島の連続殺人を描いた『悪霊島』(81)といった金田一耕助映画が作られたが、いずれも単なるミステリーではなく、ホラーの要素を含んだ作品になっていた。

落武者殺しの呪いを受け、大量殺戮事件を引き起こした田治見要蔵(『八つ墓村』) [c]2026「八つ墓村」製作委員会 [c]Yokomizo Seishi/KADOKAWA
落武者殺しの呪いを受け、大量殺戮事件を引き起こした田治見要蔵(『八つ墓村』) [c]2026「八つ墓村」製作委員会 [c]Yokomizo Seishi/KADOKAWA

そういう意味でも新作『八つ墓村』はホラー要素満載で、ミステリーの部分はかなり控えめだが、やはり横溝映画の系譜を継いだ一本なのである。

文/金澤誠

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