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映画ソムリエ・東紗友美が考える、映画館で“一番いい席”。『映画ちいかわ』と『オデュッセイア』では選び方は違う?

  • 2026.9.22

映画館の座席。私は、わりと本気で悩む。

【写真を見る】あなたなら、どこに座る?映画ソムリエの勝手に座席心理テスト

映画ソムリエを名乗り映画評を書かせていただいている仕事柄、試写室ではメモを取るために理想の座る位置が決まっていたりする。

けれど、プライベートでチケットを買って映画館へ行く時、その2時間を「どこで過ごすか」は、私にとって人生の選択くらい重要なのだ。

あなたのお気に入りの座席はどこ?(写真は『さらば愛しきアウトロー』より) [c]EVERETT/AFLO
あなたのお気に入りの座席はどこ?(写真は『さらば愛しきアウトロー』より) [c]EVERETT/AFLO

私がいちばん好きなのは、後方の端の席だった。

右でも左でもいい。ただ、片側が空いていること。両隣を人に挟まれるとほんの少し呼吸が浅くなる気がして、壁や通路に面した「片側の自由」が私には必要だった。心理学でいう「コントロール感」、、、逃げ道があり、自分で動けるという感覚が、私に安心と没入の余白をくれていたのだ。

だから長年、「端の席こそ至高!」と信じて疑わなかった。

ところが、映画を観続けていると、どうしても理想の席が取れない日がやってくる。半ば強制的にいつもと違う場所に座らされたことで、私は思いがけない事実に気がついてしまった。

映画館は、座る場所が変わるだけで、同じ映画の見え方までガラリと変わる。座席ごとに、まったく違う魔法が隠されていたのだ。

スクリーンとの距離で生まれる感動も変わる?

たとえば、ほぼ満席のなかでギリギリにチケットを取った『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(25)。

選べたのは前から4列目の中央で、上映前は「近すぎるかもしれない」と少し身構えていた。けれど、映画が始まった瞬間、その不安は歓喜に変わる。

視界を超えてスクリーンが広がると、もはや「観ている」のではなく「その空間にいる」と錯覚。

無限城を真っ逆さまに落ちていく絶望感。スクリーンいっぱいに迫る猗窩座の静かな笑み。渦を巻く浮世絵のような技の数々。それは映画を観ているというより、巨大なアートの内部に侵入するような感覚だった。前方席は、スクリーンを眺める場所ではなく、映像に飲み込まれるための特等席だったのだ。

劇場がライブ会場のような迫力が体感できた『ボヘミアン・ラプソディ』 [c]EVERETT/AFLO
劇場がライブ会場のような迫力が体感できた『ボヘミアン・ラプソディ』 [c]EVERETT/AFLO

映像に飲み込まれる前方席に対し、通路側の席はふいに「ライブ空間」へと化ける。

それを教えてくれたのは『ボヘミアン・ラプソディ』(18)だ。あの伝説のライブシーンの最中、誰かが立ち上がり、トイレへ向かった。一瞬「こんなタイミングで?」と驚いたが、その人が通路を歩いていく時、横を生ぬるい人間の風が通り抜けた。

その瞬間、歓声も応援もないはずの映画館が、スタジアムのアリーナ席に変わった。誰かが通り抜けるノイズすら、巨大なライブ会場の熱気に変換されてしまったのだ。それ以来、音楽映画はあえて通路側を選びたくなる。

逆に、スクリーンから距離を取ることでしか得られない感動もある。

壮大な自然の風景が広がる『LIFE!』(14)を後方席から観た時は、まるで自分自身が遠くから世界を旅しているような心地よさがあった。

後方や中央席でしか味わえない魅力

その感覚は、少し後ろの席で観た『インターステラー』(14)でさらに確信に変わる。

五次元の本棚のシーン。もしスクリーンに近すぎたら、圧倒的な映像にただ飲み込まれていただろう。同作のクリストファー・ノーラン監督自身が「IMAXなら中央より少し後ろ」をベストな席だと公言しているように、少し距離を取ったからこそ、重力さえ時間を超えていく奇妙な空間の奥行きを感じ、宇宙の孤独にぽつんと投げ出されるような没入感を味わえた。

IMAXでの撮影にこだわるクリストファー・ノーラン監督(※写真は『インターステラー』撮影時) [c]EVERETT/AFLO
IMAXでの撮影にこだわるクリストファー・ノーラン監督(※写真は『インターステラー』撮影時) [c]EVERETT/AFLO

そして、私の「端席至上主義」を完全に打ち砕いたのが、『トップガン マーヴェリック』(22)で座った中央席だ。

音響エンジニアがチューニングの基準とする「音の特等席(スイートスポット)」でもある中央付近。戦闘機が急旋回するたび、劇場のあちこちから息を呑むどよめきが起こり、エンジン音の轟きに周囲の観客の身体がフワッと前のめりになる。

ふと見ると、4DXでもないのに前の席のおじさんの頭がガクガクと上下に揺れていた。自己発電で重力(G)を体現しているのだ!!!

心の中で少し笑ってしまったけれど、「そうでもしないと割に合わないリアリティだもんな」と深く共感した。

36年ぶりとなる続編となった『トップガン マーヴェリック』 [c]EVERETT/AFLO
36年ぶりとなる続編となった『トップガン マーヴェリック』 [c]EVERETT/AFLO

自分ひとりで観ているはずなのに、知らない人たちと同じ瞬間に息を呑み、熱狂を共有する。ジェットコースターに同乗しているようなあの一体感は、中央席でしか味わえない。

では、実際にいま公開されている映画なら、どこに座るべきか。

ベストな席は、誰と観るかで変わる

たとえば現在国民的ヒットを遂げている『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』なら、私は「通路側」で正解だった。

というのも、7歳の娘と一緒に映画館へ行く親として、一番の死活問題は上映中の「トイレ!」だからだ(笑)。

もちろん、事前にドリンクを飲みすぎないように、大人なら調整できるけど、子どもは違う!

りんごジュースを映画館に入る前にたくさん飲んでしまっていた!これは予想外…。でも、行った時期は真夏で、暑いから仕方がないよね...。

興行収入146億円を突破した『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』 [c]ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会
興行収入146億円を突破した『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』 [c]ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

なので途中で席を立つ時、中央の席からだと周りに気を遣ってヒヤヒヤしてしまう。親が安心して映画を楽しむための余白として、通路側はマストだ。でも、もし大人ひとりで観るなら、ちいかわたちのかわいい音楽的なライブ感を楽しむために迷わず中央に座る。セイレーンの迫力もど真ん中で楽しんでみたい。

誰と観るかでベストな席は変わるのだ。

映画がふたりの間に共通の記憶をつくってくれる

映画館デートも、いまなお定番のデートのひとつ。

隣に座って同じスクリーンを見つめながら、上映中は無理に会話をしなくてもいい。そう考えると、映画館って、恋人との距離感がちょっとおもしろく表れる場所なのかもしれない。

では、恋人と観るなら、どこに座るのがいいのだろう。

カップルシートももちろんすてきだけれど、私はあえて、中央ブロックの少し後ろ寄りにある、普通の2席をおすすめしたい。

スクリーンに対してなるべく正面で、近すぎず、遠すぎない。映画そのものをしっかり楽しみながら、隣にいる人の気配も感じられる、ちょうどいい距離だ。

座席選びで今後の関係が決まる…?(写真は『ヒューゴの不思議な発明』より) [c]EVERETT/AFLO
座席選びで今後の関係が決まる…?(写真は『ヒューゴの不思議な発明』より) [c]EVERETT/AFLO

そしておもしろいのが、座席の選び方には、その人との関係性まで少し表れること。

付き合いたてのカップルなら端の席を選んで、少しでも周囲から離れたいかもしれない。

反対に、長く一緒にいるふたりなら、通路側と中央側に分かれていても、もうなにも気にならないかもしれない。

「隣じゃなきゃイヤ」という人もいれば、「同じ映画を観られれば、少しくらい離れていても平気」という人もいる。それって、ちょっとおもしろい!

座席は、単なるスクリーンからの距離ではなく、その人が人とどんな距離を心地よいと思うのかまで、ほんの少し映し出しているのかもしれない。

映画デートのいいところは、ずっと会話をしていなくてもいいことだ。

隣にいる人と同じスクリーンを見つめ、同じ場面で笑ったり、息を呑んだりする。上映が終わったあとに「どうだった?」と話すまでの時間も含めて、映画がふたりの間に共通の記憶をつくってくれる。

映画館のマナーを守りつつ楽しみましょう(写真は『(500)日のサマー』より) [c]EVERETT/AFLO
映画館のマナーを守りつつ楽しみましょう(写真は『(500)日のサマー』より) [c]EVERETT/AFLO

だから私は、恋人との映画なら「ふたりだけの特別な席」よりも、同じスクリーンを、同じ方向を向いて観られる普通の2席が好きだ。

少し話は逸れたが誰かと見る場合の映画館の座席は、人との距離を縮めるためだけにあるのではない。

その人と、どんな距離で同じ時間を過ごしたいのか。そんなことまで、教えてくれる場所なのかもしれない。

公開中の映画、あなたならどこに座る?

最後に現在上映中の作品で、私ならどこに座るかを考えてみました。

あくまで私の個人的なお話だ。

感動の人間ドラマ『私たちは、ちょうどいい。』を観る時も、私は通路側を選ぶ。

理由は単純。たぶん、泣くからだ。隣に人がいると「鼻水をすする音が聞こえたらどうしよう!」と現実に引き戻されてしまう。だから、片側だけでも人のいない席を選び、自分の感情に身を預けるための空間を作っておく。

『私たちは、ちょうどいい。』 [c]2024 CHOSEN FAMILY, LLC All Rights Reserved.
『私たちは、ちょうどいい。』 [c]2024 CHOSEN FAMILY, LLC All Rights Reserved.

同じ通路側でも、もう一本、いまなら私はこの席で観たい映画がある。

『見えない娘 THE INVISIBLES』だ。

生まれつき透明人間の三女・ひかりと、その父、二人の姉。姿の見えない娘を含む家族の旅を描いた、とてもユニークで、そしてあたたかな作品だ。

私はこの映画を観て、「透明人間の映画」としても、「家族の物語」としても、これまでにあまり観たことのない新しい作品だと思った。

『見えない娘 THE INVISIBLES』 [c]THE INVISIBLES Production Committee
『見えない娘 THE INVISIBLES』 [c]THE INVISIBLES Production Committee

だから、もしもう一度観るなら、私は通路側に座りたい。

映画の途中、誰かがふっと横を通り過ぎたら、

「……もしかして、いま、ひかりちゃんが通ったのかも」

なんて、想像してしまいそうだから。もちろん、そこに彼女がいるわけじゃない。でも、姿が見えないからこそ、観客の想像力が彼女の存在をつくっていく。映画館の通路が、ほんの少しだけ、映画の世界と現実をつなぐ場所になる。

そんな観方ができるのも、この映画ならではだと思う。

そして最後は、現在大ヒット上映中の超大作『オデュッセイア』。もう今年、映画館案件として外せない!

この作品に関しては、前後左右を考える前に、合言葉はただひとつ。

まず、IMAXで観てほしい。

『オデュッセイア』 [c]2026 UNIVERSAL STUDIOS photo by Melinda Sue Gordon [c]Universal Studios. All Rights Reserved.
『オデュッセイア』 [c]2026 UNIVERSAL STUDIOS photo by Melinda Sue Gordon [c]Universal Studios. All Rights Reserved.

ノーラン監督が古代ギリシャの神話を圧倒的スケールで描き出した本作は、スクリーンでなにが起きているかを見るのではなく、世界そのものに入り込む体験だ。だからこそIMAXを選び、できれば中央寄りに座って、映像と音に全身ごと包まれてほしい。2800年前の神話の中に飛び込むと言う異次元の体験ができました。

その人の性格が反映する座席選び

思い返すと映画ライター仲間と話していると、「どの席が好きか」は驚くほど意見が分かれるのも、興味深い!

真正面から受け止めたい人。少し距離を取って俯瞰したい人。私のように自由を確保したい人。熱狂を共有したい人。

もしかしたら座席選びには、その人の「人生の立ち位置」が少しだけ映っているのかもしれない。

【写真を見る】あなたなら、どこに座る?映画ソムリエの勝手に座席心理テスト
【写真を見る】あなたなら、どこに座る?映画ソムリエの勝手に座席心理テスト

もちろん、これはあくまで私の勝手な分析なのだけれど(笑)

映画館はどの席に座っても楽しめるように設計されている。だから、どこに座っても正解だ。

でも、「今日はアクションに飛び込むから前へ」「誰かと熱狂したいから真ん中へ」と、気分によってあえていつもの席を変えてみる。

それは、いつもの自分の「立ち位置」から一歩踏み出し、新しい視点を手に入れる小さな冒険だ。

チケット予約の画面で、座席表を開く。

今日は、どこに座ろう。その小さな選択から、あなたの映画体験はもう始まっている。

さて、次の作品。あなたは、どこに座りますか?

 映画ソムリエの東紗友美
映画ソムリエの東紗友美

文/東紗友美

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