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『タイタニック』『バニラ・スカイ』『モネと時間旅行』…没後100年のいま、クロード・モネに映画でふれる

  • 2026.9.21

光や大気の移ろいを筆致に写し取った“印象派”を代表するフランスの画家クロード・モネ。同じ被写体を時間帯や季節を変えて何枚も描き続けた「積みわら」「ルーアン大聖堂」などの連作や、晩年を過ごしたジヴェルニーの庭を描いた「睡蓮」の大作群で知られ、その画業はいまなお絵画史に大きな影響を与え続けている。

【写真を見る】「印象・日の出」が描かれたエピソードも!?

オランジュリー美術館には「睡蓮」の連作8枚が展示されている [c] STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques
オランジュリー美術館には「睡蓮」の連作8枚が展示されている [c] STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques

2026年は、そんなモネの没後100年にあたる。東京・京橋のアーティゾン美術館で実施された企画展「クロード・モネ-風景への問いかけ」には41万人以上が来場し、同館の来館者記録を更新。モネにまつわる展示は各地で開催されている。

そしてメモリアルイヤーの気運を追い風に、映画『モネと時間旅行』が9月18日より公開中。モネの作品はこれまでも数々の映画に密かに、あるいは大胆に登場してきた。ここでは、モネの絵画そのものが物語のカギを握る映画から、さりげない背景の一枚として登場する映画までを紹介していきたい。

贋作をめぐるだまし合い『モネ・ゲーム』

まずは、そのものズバリのモネの名がタイトルに入った、コリン・ファース&キャメロン・ディアス共演のクライムコメディ『モネ・ゲーム』(12)。横暴な雇い主への意趣返しとして、美術鑑定士ハリー(ファース)はモネの贋作詐欺を計画する。モネによる連作の代表作「積みわら」のうち、行方不明になっている一枚の贋作を用意し、億万長者のコレクターである雇い主に売りつけようとする。だが、相棒に選んだテキサスのカウガール、PJ(ディアス)の天然っぷりによって、計画は思わぬ方向へ転がっていく。

同じ被写体を描くがゆえに「どれが本物か」を曖昧にしてしまう連作という性質を逆手に取った、ジョエル&イーサン・コーエン兄弟による脚本の妙。モネ作品の“本物らしさ”がどこに宿るのかという、いかにも印象派らしいテーマを軽やかなコメディに落とし込んでいる。

映画のタイトルの由来となった『バニラ・スカイ』

スペイン映画『オープン・ユア・アイズ』(97)のリメイクにあたる『バニラ・スカイ』(01)。交通事故で顔に傷を負ったデヴィッド(トム・クルーズ)は、夢か現実か判然としない世界に迷い込んでいく。意識と現実の境界が揺らいでいく物語のなかで、出版王一族の御曹司であるデヴィッドの部屋に飾られ存在感を放つのが「アルジャントゥイユのセーヌ川」だ。

トム・クルーズ主演の異色サスペンス『バニラ・スカイ』 『バニラ・スカイ』 4K Ultra HD+ブルーレイ:6,589円(税込) Blu-ray:2,075 円(税込)/DVD:1,572 円(税込) 発売・販売元: 株式会社ハピネット・メディアマーケティング [c] 2001, 2023 Paramount Pictures. ※記事公開時の情報です。
トム・クルーズ主演の異色サスペンス『バニラ・スカイ』 『バニラ・スカイ』 4K Ultra HD+ブルーレイ:6,589円(税込) Blu-ray:2,075 円(税込)/DVD:1,572 円(税込) 発売・販売元: 株式会社ハピネット・メディアマーケティング [c] 2001, 2023 Paramount Pictures. ※記事公開時の情報です。

実は映画のタイトル『バニラ・スカイ』は、この絵に由来している。パーティーで出会ったソフィア(ペネロペ・クルス)にこの絵を見せたデヴィッドが、キャンバスに広がる空を「バニラ色の空」と表現しており、そのひと言が作品全体を象徴する言葉として終盤まで効いてくる仕掛けだ。絵そのものはデヴィッドの母親にまつわる思い出の品で、彼が絵を見つめるシーンは、自分の人生を見つめ直す瞬間とも重なる。水面の反射や光の移ろいを描くモネの筆致が、主人公の不安定な知覚世界と響き合っている。

名画強奪劇のターゲットに『トーマス・クラウン・アフェアー』

『トーマス・クラウン・アフェアー』(99)で大富豪の主人公が退屈しのぎに企てるのが、ニューヨーク・メトロポリタン美術館からの名画強奪。その標的に選ばれるのが、モネの「黄昏、ヴェネツィア」だ。スティーブ・マックイーンが主演した1968年の『華麗なる賭け』のリメイクにあたる本作では、盗難事件を追う保険調査員との駆け引きが、いつしか恋の駆け引きへとすり替わっていく。

ピアース・ブロスナンとレネ・ルッソが火花を散らすロマンティック・サスペンスのなかで、モネの絵は知的で優雅な“いたずら”を成立させる格好の獲物として物語を牽引する。莫大な富を持つ主人公にとって絵画そのものの金銭的価値は問題ではなく、完璧な計画を実行するスリルこそが目的という設定も、名画の“所有”と“鑑賞”の意味を考えさせる仕掛けになっている。

アニメーションで緻密に再現『パリに咲くエトワール』

『ONE PIECE FILM RED』(22)の谷口悟朗監督、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の吉田玲子の脚本によるオリジナル長編アニメーション『パリに咲くエトワール』(26)。1912年のパリを舞台に、画家を夢見るフジコ(声:當真あみ)とバレエに惹かれる千鶴(声:嵐莉菜)、2人の日本人少女がそれぞれの夢に向かって奮闘する姿を描く本作には、モネの出世作で「印象派」という呼称の由来にもなった「印象・日の出」が登場する。

といっても、20世紀初頭を舞台にした映画の雰囲気を再現するために制作された美術モチーフ(レプリカ)。当時としては型破りな筆致だったこの一枚が、批評家から皮肉交じりに「印象派」と呼ばれたことが、のちに一つの芸術運動の名称として定着した経緯はよく知られている。芸術家たちが旧来の価値観に挑んでいた時代の空気を伝える象徴として機能しており、モネという存在が“革新”そのものを体現していることを改めて感じさせる。

身分違いの恋をつなぐ小道具『タイタニック』

言わずと知れたジェームズ・キャメロン監督の代表作『タイタニック』(97)でも、ヒロインのローズ(ケイト・ウィンスレット)が客室に持ち込む私物として「睡蓮」が登場。初めてその絵を目にしたジャック(レオナルド・ディカプリオ)が思わず「モネだ!」と声を上げる場面は、身分違いの2人が芸術への感性で通じ合う印象的なシーンとなっている。

ローズの持ち込み品にモネの「睡蓮」が登場(『タイタニック』場面写真) 『タイタニック』ディズニープラス スターで配信中[c] 2026 Twentieth Century Fox Film Corporation and Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
ローズの持ち込み品にモネの「睡蓮」が登場(『タイタニック』場面写真) 『タイタニック』ディズニープラス スターで配信中[c] 2026 Twentieth Century Fox Film Corporation and Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

劇中の1912年当時モネは存命で、「睡蓮」の評価も定まりきっていなかった。上流階級の婚約者や母親が旧態依然とした古典絵画を好むのとは対照的に、新しい表現である印象派に心惹かれ、熱心に語るローズの先見性と自由な感性を象徴している。名画は船と共に沈む運命をたどるが、実際の「睡蓮」は現存しており、フィクションと史実の対比を楽しめる部分でもある。

芸術家たちへの憧憬をたどる旅『ミッドナイト・イン・パリ』

『それでも恋するバルセロナ』(08)や『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』(19)など世界の都市を背景に数多くの作品を手掛けるウディ・アレン監督が、フランス・パリを舞台にしたのが『ミッドナイト・イン・パリ』(11)。古きよきを愛する小説家志望の主人公ギル(オーウェン・ウィルソン)は、婚約者イネス(レイチェル・マクアダムス)とのパリ旅行中、過去へタイムスリップしてしまう。そこはヘミングウェイやフィッツジェラルド夫妻、サルバドール・ダリにピカソといった芸術家たちがまさにその時を生きる“黄金時代”だった。

映画は、ギルとイネスがジヴェルニーの睡蓮の庭で言葉を交わすシーンから始まる。ロマンチストのギルは美しい庭園にすっかり魅了され、パリという街への憧れや愛を熱っぽく語るのだが、現実主義なイネスには理解してもらえず、結婚を目前に控えながら2人が対照的な価値観を持つことが示される。このやりとりが、のちにギルの身に起きる奇妙なタイムスリップの布石になっていると思うとほほえましい。“芸術への時間旅行”という点では『モネと時間旅行』とも深く響き合うテーマを持った1本である。

作者不明の絵に秘められた物語をひも解く『モネと時間旅行』

『ダンサー イン Paris』(22)などで知られるセドリック・クラピッシュ監督が手掛ける『モネと時間旅行』。土地開発を機に、ノルマンディーの草原に長らく閉ざされていた古い屋敷に集められた相続権を持つ互いに面識のない30人以上の一族。売却を迫られたパリ在住の親戚4人が、代表として屋敷の調査に乗りだす。屋敷の中から見つかったのは、印象派の作品らしき一枚の絵画と、先祖アデルが遺した手紙や写真。19世紀のノルマンディーからパリへ渡り、ベル・エポックの時代を生きた謎の女性アデルと、絵の秘密が解き明かされていくにつれ、現代を生きる子孫たちの人生にも変化が訪れる。

屋敷で見つかった「白いドレスを着た女性」の絵に秘められた真実とは… [c] STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques
屋敷で見つかった「白いドレスを着た女性」の絵に秘められた真実とは… [c] STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques

劇中にはモネが「印象・日の出」を描いたとされるホテル・ド・ラミローテが再現されているほか、モネの作品が多数所蔵されているオルセー美術館やオランジュリー美術館、ジヴェルニーの睡蓮の庭など、ゆかりの地が物語を彩る。現代パートで大作「睡蓮」をスマートフォンで撮影する人々の姿が描かれるなど、時代を超えたモネ人気を印象づけている。

【写真を見る】「印象・日の出」が描かれたエピソードも!? [c] STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques
【写真を見る】「印象・日の出」が描かれたエピソードも!? [c] STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques

“モネ・イヤー”と呼ぶにふさわしい年だからこそ、これらの映画でモネの絵を目で楽しみ、ストーリー上での役割に注目してみると、また違った趣を感じられるかもしれない。『モネと時間旅行』と共に、この秋は映画のなかのモネ探しを楽しんでみてはいかがだろうか。

文/サンクレイオ翼

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