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「原作にある”まなざし”を、映像のなかに残したかった」。是枝裕和監督が語る、映画『ルックバック』のこと。

  • 2026.9.17
出典 andpremium.jp

漫画を通して出会うふたりの少女の物語を描いた人気漫画『ルックバック』。その実写映画が、2026年9月11日(金)に公開。監督、脚本、編集を手がけるのは、数々の話題作で国内外から高い評価を集める是枝裕和監督だ。自身も原作が発売されてすぐに読んでいたという監督に、本作に込めた思いや、日々の生活で大切にしていることを聞いてみた。

子どもを見守る、大人たちの視線を描く。

今回、実写化にあたって監督が大切にしたことに、漫画家を目指す主人公のふたり、藤野(出口夏希、七瀬ふうり)と京本(蒔田彩珠、岡田六花)の周りにいる"大人"の存在があったという。

「撮影前に撮り方を考えていくなかで、藤野の親や学校の先生といった人物が、ただの風景で終わるとダメだなと思ったんです。子どもの成長に関わる大人たちの視線を映画のなかに残してあげたほうが、せっかく実写化するのであれば良いだろうなと」

そう思うきっかけとなったのが、藤野と京本が通う小学校の先生(宮藤官九郎)のある行動だった。

「卒業式の日、彼は担任の生徒である藤野に、不登校で学校を休んでいた京本の卒業証書を家に届けてほしい、と渡します。でも、そんなこと普通はしないですよね。京本は別のクラスの子で、彼にとっては担任の生徒でもない。よく考えると、その先生はわざわざ京本の担任の先生から卒業証書を預かって、藤野に渡している。ということは、多分ふたりを出会わせたかったんじゃないかと思うんです。先生はずっと藤野のことを見ていたんだろうな、と」

大人たちは、物語の中心にいるわけではない。けれど、少し離れたところから子どもたちを見つめ、彼女らの成長に関わっている。その存在を丁寧に考えていくことで、映画全体の方向性も決まっていった。

「作品を通して何度も登場する、藤野が漫画を描く背中のシーンに対して、誰かが見ている、さらに私たち観客も見ている、という"まなざし"の話になると思ったんです。だから、原作にある大人たちがふたりを見守る視線を、ちょっとだけ線を太くした、という感じですね」

出典 andpremium.jp

四季折々の物語を彩る、自然と音楽。

主な撮影地として選んだのは、原作者の藤本タツキさんの出身地である、秋田県にかほ市。

「原作のモデルとなった場所があるシーンは、なるべくそこで撮りたいと思っていました。作中に登場する『文林堂書店』も、漫画の通りに実在していたので、そのまま撮っています」

部屋の窓の景色が季節の移ろいとともに変化する様子や、雪が降り積もる道を歩く姿など、約1年半かけて、作中の時の流れを四季折々で丁寧に切り取ったという。

「にかほ市は白鳥の飛来地だということを知って。おそらく藤本さんも見ていただろうと思い、白鳥の姿を撮れるといいなと考えていたんです。そうしたら最初の撮影で偶然、出口夏希さん演じる藤野が歩いている頭上を白鳥の群れが飛んでいく画が撮れた。それなら、さっきの"まなざし"と同じように、白鳥がふたりを見ているような、そういう俯瞰の視点をひとつ足してみようかなと。それを四季で追いながらできるといいな、と考えました」

また、劇中の音楽を担当するのは、是枝監督の前作『箱の中の羊』にも参加した作曲家・坂東祐大さん。ときに壮大に、ときに繊細に、登場人物の言葉にならない感情を、劇中曲が寄り添うように伝えている。

「坂東さんと最初に決めたのは、藤野と京本がはじめて会った卒業式の日、家に帰る藤野が田んぼ道を歩くときに流れる音楽について。藤野の内側から音楽が聞こえてきてほしかったんです。彼女が口笛やハミングで楽しく口ずさんでいたメロディが、ふわっと音楽になる。そんなことをしたかったので、撮影前に一曲作ってもらいました」

その曲を口ずさみながら歩く藤野の姿を、「どうしても撮りたかった」と話す。

「幼少期の藤野を演じた七瀬ふうりさんには事前に作った曲を聞いてもらって。ハミングから撮影をスタートして、走り出すところもイヤホンで音楽を聴きながら演じてもらいました。そこが肝だったんです。またセリフの少ない映画なので、音楽で気持ちを表現してもらうところと、逆にセリフや環境音の邪魔をしないように厚みを持たせずに奏でてもらう部分とを意識して撮影しました。そういうメリハリで、坂東さんには考えてもらいました」

出典 andpremium.jp

主人公の内面を表現するために、アニメーションに挑戦。

本作の見どころのひとつとして、ロトスコープのアニメーションパートがある。ロトスコープとは実写で撮影した映像を1枚ずつトレースしてアニメーションを作る技法で、映画『化け猫あんずちゃん』を手がけたことで知られるアニメーション作家・久野遥子さんが参加している。

「京本の描いた絵のなかでふたりが動く、ということをしようと思って。それぞれ部屋のなかでひとりで描いていたところから、ふたりが仲良くなり、一緒に漫画を描くなかで、内面的に深いところで繋がっている関係性を表現したかったんです」

誰かと出会い、ともに過ごした時間は、その後もずっと残り続ける。そんな存在を自分のなかに抱えて、何度でも机に向かう。その背中が語る言葉にならない想いを、誰かの"まなざし"や四季の風景、静かに寄り添う音楽といった映画ならではの表現を、ぜひ映画館で体感してほしい。

For Better Life「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを是枝裕和さんに聞いてみました。

「自分以外の何かを意識して過ごす」:事務所のベランダで、レモンの鉢植えを育てています。そこに蝶々が卵を産んで、まだ青虫になったばかりなのですが、かわいいんですよね。青虫の数が増えたらレモンの葉が足りなくなってしまい、スタッフが鉢植えを買い足してくれました。もはや、どちらを育てているのかわかりません(笑)。毎朝、事務所に行ったらスタッフとともに青虫の数を数え、鳥に狙われないようにと無事を祈り、日々過ごしています。そういった些細なことでも、自分以外の何かを意識しながら日々生活していることが、精神的な健康には良いのかなと感じますね。

是枝裕和 Hirokazu Koreeda映画監督

1962年東京生まれ。早稲田大学卒業後、〈テレビマンユニオン〉でドキュメンタリー番組などを演出。1995年に映画『幻の光』で監督デビュー。2014年に独立し、制作者集団〈分福〉を立ち上げる。最新作『ルックバック』は、第83回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門へ出品。

Movie Information『ルックバック』

小学4年生の藤野は、学年新聞に4コマ漫画を連載し、クラスで一目置かれていた。しかしある日、不登校の同級生・京本の漫画が突然掲載され、その圧倒的な画力に自信を失う。以来、藤野は絵が上手くなりたい一心で漫画を描き続けるものの、その差は埋まらず、一度は漫画を諦めてしまう。ところが卒業式の日、京本の家へ卒業証書を届けに行った藤野は、京本が自分の漫画のファンだったことを知る。漫画へのひたむきな思いで結ばれたふたりは、一緒に漫画を描き始めることに。かけがえのない時間を積み重ねていく藤野と京本。そんなふたりの日々を大きく揺るがす出来事が訪れる。

公開日:2026年9月11日(金)
監督、脚本 、編集:是枝裕和
出演:出口夏希 蒔田彩珠 七瀬ふうり 岡田六花 ほか

k2pic.com/film/lb

photo : Shinnosuke Yoshimori

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