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「相続の話、今しておかない?」通夜の広間で切り出したいとこ。だが、伯母が返した一言

  • 2026.9.17

湯呑みの並んだ広間で、いとこが切り出した

五年ほど前、叔父の通夜に出たときのことだ。読経が終わったあと、親族は会館の二階にある広間へ移った。畳に長机が並び、人数ぶんの湯呑みが置かれていた。

叔父は最後まで自分の畑を気にしていた人だった。私も子どものころ、その畑でよくトマトをもらった。

広間では小さな話し声が交わされていたが、どこか重たい空気が残っていた。

私は入口に近い席に座っていた。向かいには叔父の長女にあたるいとこがいた。しばらく黙って湯呑みを持っていたが、やがてためらうように口を開いた。

「ねえ…こんな日に言うのもあれなんだけど、相続のこと、少し話しておかない?」

誰もすぐには返事をしなかった。私の隣にいた従兄も、視線を落としたままだった。

いとこは気まずそうに周りを見た。

「今日ここで全部決めようってことじゃないよ。ただ、あとになって揉めるより、早めに話しておいたほうがいいかなって」

2度目だった。叔父の妻である叔母が、湯呑みに伸ばしかけた手を膝へ戻した。

それでも返事がないと、いとこは少し焦ったように続けた。

「いつ話すかだけでも決めない?せっかく家族も来てるんだし」

話を戻したところで、広間の空気が完全に止まった。

いちばん年上の伯母が、湯呑みを置いた

長机のいちばん奥には、叔父の姉にあたる伯母が座っていた。八十を過ぎていて、この日集まった中ではいちばん年上だった。

伯母は持っていた湯呑みを静かに机へ置いた。

「気になるのは分かるよ」

いとこが顔を上げた。

「でも今日は、あの子のためにみんなが集まった日でしょう。相続の話は、また別の日にしよう」

声を張ったわけでも、いとこを責めたわけでもなかった。

いとこはしばらく黙ってから、小さくうなずいた。

「…うん。ごめん。そうだね」

そのとき、階段のほうから足音がして、入口に会館の方が現れた。

「お食事の支度ができましたので、どうぞ」

誰かが「ありがとうございます」と返し、一人、また一人と席を立った。

いとこも立ち上がると、長机の奥にいる伯母のほうへ小さく頭を下げた。伯母も軽くうなずいた。

相続の話は、そこでいったん終わった。

帰りの車で、私は助手席から夫にそのことを話した。

「通夜の席で?」

「うん。でも伯母さん、怒らなかったの。『話すなら別の日にしよう』って。それで、いとこも引いた」

夫は少し黙ってから、「話す必要はあっても、今日じゃなかったんだろうな」と言った。

一週間後、通夜にいた親族がもう一度集まる場が持たれた。同じ会館の一階の部屋で、また人数ぶんの湯呑みが並んでいた。

席についた伯母は、みんなの顔を見てから言った。

「今日は、その話をする日ね」

今度は誰も黙り込まなかった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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