1. トップ
  2. エピソード
  3. 「私が答える前から分かっているような感じがして」商品知識の深い常連客に毎回緊張していた私。新人の私が変えた答え方

「私が答える前から分かっているような感じがして」商品知識の深い常連客に毎回緊張していた私。新人の私が変えた答え方

  • 2026.9.14

電話の向こうは、私より詳しかった

五十をすぎてから、化粧品の通信販売の受注窓口に、短い期間だけの派遣で入った。

研修は三日で終わり、四日目からは自分の名前で電話に出た。

覚えることは多く、手元の資料は分厚かった。

仕事に入って二週間ほどたったころ、同じ声の会員の方から何度か電話を受けるようになった。

落ち着いた話し方だったが、聞かれる内容がとても細かい。

「この割引って、今月いっぱいでしたよね?」

「はい。今月末までのご注文が対象です」

「じゃあ、月末に注文して、届くのが来月になっても大丈夫ですか?」

「少々お待ちください。確認いたします」

私は慌てて資料をめくった。ページを探す音まで電話の向こうに聞こえている気がして、焦るほど文字が頭に入ってこない。

ようやく該当する説明を見つけて答えると、相手は少し間を置いた。

「ああ、そうでした。それなら大丈夫です」

私は受話器を置いてから、少し不思議に思った。今の言い方だと、もしかすると最初から知っていたのかもしれない。

翌週、またその方から電話があった。

「前にも同じことを聞いたんですけどね。念のため、もう一度いいですか?」

今回も条件をいくつか尋ねられ、私は資料を確認しながら一つずつ答えた。

電話を切ったあと、隣の席の先輩に声をかけた。

「さっきの方、すごく詳しいですよね。私が答える前から分かっているような感じがして…」

先輩は「ああ、あの方ですね」とうなずいた。

「長く利用されている方ですよ。細かいところまで確認されるんです」

「間違えたらどうしようと思うと、電話が来るだけで緊張してしまって」

「分かります。でも、相手が詳しくても、私たちは決まっている内容を確認して案内すれば大丈夫ですよ」

答える順番を、自分の中で決めた

それから私は、確認する順番を決めた。割引が使える期間、対象になる金額、例外になる場合。聞かれたら、その三つを順番に確認してから答える。

数日後、またあの声から電話が入った。

「この金額なら、割引になりますか?」

以前なら、それだけで肩に力が入っていたと思う。その日は資料を開き、順番に確認してから答えた。

「はい。この金額でしたら対象です。ただ、こちらの商品だけは割引の対象外になります」

「ああ、やっぱりそこだけ別なんですね」

「はい。そこだけ条件が違います」

「分かりました。そこをいつも迷うんです」

その言葉を聞いて、私は少しだけ肩の力が抜けた。私を困らせるために聞いているわけではなく、自分でも迷う部分を確かめていたのだろうと思った。

それからも何度か電話はあったが、やり取りは少しずつ短くなった。

「前と同じ条件ですよね?」

「はい。今回は変更ありません」

「分かりました。じゃあ、それでお願いします」

最後にその声を聞いたのは、派遣の期間が終わる週だった。

いつものように確認して案内すると、相手の声が少しやわらいだ。

「はい、よく分かりました。ありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございます」

電話を置くと、隣の席の先輩がこちらを見た。

「今の、いつもの方ですよね?」

「はい。最初は電話が来るたびに緊張してたんですけど、今日は大丈夫でした」

「慣れましたね」

その一言に、私も少し笑った。

終業の時刻になり、使っていた資料を棚へ戻した。最初は答えを探すだけで焦っていたページも、いつの間にか迷わず開けるようになっていた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ