1. トップ
  2. エピソード
  3. 「今、電車なんだけどさ」静かな車内に響いた通話。巡回してきた車掌の対応とは

「今、電車なんだけどさ」静かな車内に響いた通話。巡回してきた車掌の対応とは

  • 2026.9.15
「今、電車なんだけどさ」静かな車内に響いた通話。巡回してきた車掌の対応とは

席を立った人が、いちばん後ろの扉を開けた

夏の昼、私は窓側の席で外を眺めていました。

車内はすいていて、向かい合わせの席にも空きが目立っていました。

揺れはゆるやかで、窓の外には緑や家の屋根がゆっくり流れていきます。

そのとき、斜め前に座っていた人が荷物を置いたまま立ち上がりました。

その人は車両のいちばん後ろまで歩いていき、連結部へ続く扉に手をかけました。そして、誰に言うでもない小さな声で、こうつぶやいたのです。

「ちょっとだけなら、いいよね」

もちろん、返事をする人はいませんでした。

その人は扉を開けたまま立ち止まり、スマートフォンを耳に当てました。すぐに話し始めた声が、開いた扉の隙間から車内まで聞こえてきました。

「今、電車なんだけどさ」

最初は小さかった声が、少しずつ大きくなっていきました。相手の声までは聞こえませんが、こちらの返事だけでも会話の流れが分かるほどでした。

後ろの席から、戸惑ったような声が聞こえました。

「え、電話してるよね」

「うん…しかも結構大きいかも」

少し間があって、もう一人が小さく言いました。

「言ったほうがいいのかな」

「でも、直接はちょっと怖いよね」

そのやり取りを聞きながら、私も同じ気持ちでした。気になるなら声をかければいいのかもしれません。でも、知らない相手に注意して、言い返されたり空気が悪くなったりすることを思うと、なかなか動けませんでした。

巡回してきた車掌が、静かに足を止めた

次の停車が近づいたころ、前の車両から車掌が歩いてきました。

車内を見ながら進んできた車掌は、開いたままの扉の手前で足を止めました。連結部のほうを確認すると、落ち着いた声で呼びかけました。

「お客さま、すみません」

電話をしていた人はすぐには気づかなかったようでした。車掌は少しだけ声を足して、もう一度言いました。

「お客さま。お電話でしたら、扉を閉めて向こうでお願いいたします」

その人はスマートフォンを耳に当てたまま、面倒そうに振り向きました。

「あ、はい。すみません」

強い言い方ではありませんでしたが、気まずさは伝わってきました。車掌は責める口調にはせず、続けて短く言いました。

「ご協力ありがとうございます」

その人は通話の相手に「あとでかけ直す」とだけ言って電話を切り、扉を閉めて元の席へ戻りました。車掌は軽く会釈をして、そのまま前の車両へ戻っていきました。

車内が静かになると、さっきまで皆が息をひそめていたのが分かるようでした。

通路をはさんだ席の人が、小さく息をついて言いました。

「注意してくれて、助かりましたね」

私は思わずうなずきました。

「本当に。自分では言いづらかったです」

それだけの短いやり取りでしたが、張っていた気持ちが少しゆるみました。

大きな言い争いになったわけでも、誰かが強く責めたわけでもありません。ただ、車掌が必要なことを落ち着いて伝えてくれたことで、車内の空気は静かに元へ戻っていきました。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ