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「今、写真撮った?」叔父を見送る静かな式場。最後のお別れで親族が言葉を失った瞬間

  • 2026.9.11

最後のお別れの途中で、従姉妹が声を上げた

叔父の棺には、庭で切った白い花と、生前よくかぶっていた釣りの帽子が納められていた。

親族が順番に花を受け取り、叔父のそばへ置いていく。式場の後ろでは、葬儀社の担当者が静かに進行を見守っていた。

叔父は釣りが好きな人だった。帽子のつばはすっかり色が抜けていて、それを見るだけで、昔の叔父の姿が思い浮かんだ。

従姉妹も帽子をそっと整えてから、自分の席へ戻った。

やがて司会の女性が、落ち着いた声で告げた。

「それでは皆様、最後にもう一度、お顔をご覧ください」

その言葉が終わりかけたときだった。

「あ…すみません。ちょっと待ってください」

喪主である従姉妹が急に立ち上がった。

椅子の下に置いていたかばんを引き寄せ、中を探し始める。

何か入れ忘れた物でもあったのだろうか。私もその場で動かずに待った。

母が小さな声で言った。

「どうしたんだろう。何か忘れたのかな」

伯母も棺のほうを見ながら、

「お父さんに持たせたい物でもあったんじゃない?」

と答えた。

けれど、従姉妹がかばんから取り出したのは携帯電話だった。

静かな式場に、シャッター音が響いた

従姉妹は棺のそばまで戻ると、少しためらうように画面を見た。

そして、叔父のほうへ携帯を向けた。

パシャ。

乾いた音が、静かな式場に響いた。

私は一瞬、何の音なのか分からなかった。

もう一度。

パシャ。

さらに角度を変えて、もう一度。

パシャ。

周りにいた親族も動きを止めていた。

母が驚いたように私のほうを見て、声を落とした。

「…今、写真撮った?」

「うん……たぶん」

私が答えるより早く、父が母の袖にそっと触れた。

「今は、何も言わなくていいよ」

責めるような声ではなかった。ただ、この場では黙っていたほうがいいという意味だったのだと思う。

司会の女性もマイクを下ろしたまま、従姉妹が戻るのを待っていた。

写真を撮り終えると、従姉妹は携帯をかばんにしまった。

それから周りを見て、少し申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。どうしても…最後に残しておきたくて」

声は少し震えていた。

司会の女性は一度うなずいた。

「大丈夫です。では、ゆっくりお別れしてください」

その言葉で、止まっていた時間がまた動き始めた。

従姉妹の夫も子どもたちも、特に何も言わなかった。伯母はもう一輪だけ花を手に取り、叔父のそばへ静かに置いた。

私も続いて花を置いたが、さっきまでとは少し違う空気を感じていた。

誰も、従姉妹を責めることはなかった

火葬場の控室で、式に間に合わなかった親戚が母の隣に座った。

「最後のお別れ、ちゃんとできた?」

母は湯呑みを両手で持ったまま、少し考えてから答えた。

「うん。できたよ。ただ…途中で少し止まったけどね」

「何かあったの?」

母は一瞬、私のほうを見た。

それから小さく首を振った。

「ううん。まあ、いろいろ思うことがあったんでしょうね」

親戚もそれ以上は聞かなかった。

私も、従姉妹が写真を撮ったことをどう受け止めればいいのか、その場では分からなかった。

驚いたのは確かだし、最後のお別れの途中でシャッター音が響いたことには、今でも少し違和感が残っている。

ただ、父親を見送る従姉妹にとっては、あの姿を残せる最後の瞬間だったのかもしれない。

結局、親族の誰もその場で従姉妹を責めることはなかった。

葬儀から時間がたった今でも、あの日のことを思い出すと、あの三度の乾いた音だけが、不思議なくらいはっきり耳に残っている。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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