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A24史上最年少にして最高のヒットを記録!『バックルームズ』ケイン・パーソンズ監督が語る、「人と外の世界との関係を問い直す」物語

  • 2026.9.5

映画『バックルームズ』は、“リミナルスペース”と呼ばれる不気味な空間を舞台にした「The Backrooms」というネット発の都市伝説を題材に、監督のケイン・パーソンズがYouTubeで“ファウンド・フッテージ”(行方不明になった人物が撮影したという体裁の映像手法)形式で公開していた短編シリーズを、A24と共に劇場版として製作した作品。2026年5月の北米公開後、A24史上最大のオープニング興行成績を記録すると、その後も勢いは衰えず、北米だけで1億9752万ドル、世界興行収入は3億9600万ドルに達している(Box Office Mojo調べ)。製作費1000万ドルという低予算作品でありながら、A24史上最高の興行成績を打ち立てる大ヒットとなった本作。日本では9月4日より公開中で、上映時間は、本編終了後に16分の新規映像を追加した126分(2時間6分)。この追加映像はパーソンズ監督自身のYouTubeチャンネルでも公開されている。

【写真を見る】パーソンズ監督による最初の短編「The Backrooms (Found Footage)」は現時点で9300万再生を突破

監督を務めたパーソンズは現在わずか21歳。もともとはYouTubeチャンネル「Kane Pixels」の投稿者で、2022年1月、16歳のときに公開した短編「The Backrooms (Found Footage)」が爆発的な人気を呼んだことがすべての始まりだった。その反響を受けて2023年2月には劇場版の製作が発表され(当時17歳)、完成作が公開された2026年5月時点でもまだ20歳という若さだった。この快挙により、パーソンズ監督は同スタジオ史上最年少の監督としても話題を集めている。今回、記者陣による合同インタビューが実施され、YouTube時代から劇場映画への飛躍、作品に込めた心理描写やテーマ、そして幅広い世代に届いた理由について、パーソンズ監督が率直に語った。

「映画もYouTubeでやってきたことも、“枝分かれしながら育っていく木”のようなもの」

【写真を見る】パーソンズ監督による最初の短編「The Backrooms (Found Footage)」は現時点で9300万再生を突破 [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
【写真を見る】パーソンズ監督による最初の短編「The Backrooms (Found Footage)」は現時点で9300万再生を突破 [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

まず話題に上がったのは、YouTubeのシリーズ作品から劇場公開作品への移行についてだ。若くしてYouTubeシリーズを立ち上げ、いまや劇場作品の監督となったパーソンズ監督にとって、そのステップアップは制限だったのか、それとも表現の変化のチャンスだったのか。「なにかを得れば、なにかを手放すことになる――そんな感覚でした。ただ、それを単純に“制限”とは呼びたくありません。ある部分では制約がありましたが、別の部分では多くのものを得ましたから」とパーソンズ監督は切り出す。「『バックルームズ』も、私がオンラインでやってきたことすべても、枝分かれしながら育っていく木のようなものだと捉えています。そこには、様々な世界や媒体へと伸びていく枝もある。YouTubeシリーズの、あの謎めいたロジックの積み重ねを愛してくれるファンは多い。システム全体を理解していくこと自体が楽しみの一部なんです」。

一方で劇場作品では、ひとつの感情的な軸に焦点を絞り、その世界を理解し始めた個人が現実とぶつかり合う様子を、110分という尺のなかで描くことを目指したという。「YouTubeなら、ひとりのキャラクターが同じ廊下を25分間歩き続けるような描写も成立します。リアルではあるから。でも劇場公開という限られた尺のなかでは、観客の集中をもっと意図的にコントロールする必要がある。そこは割り切りました。もちろんリソースは桁違いに増えましたから、実際にあの空間をセットとして作り上げることができた。その意味では、多くの面で“格上げ”されたと感じています」。

パーソンズによるYouTubeシリーズは、インターネット発の都市伝説「The Backrooms」に着想を得て制作された [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
パーソンズによるYouTubeシリーズは、インターネット発の都市伝説「The Backrooms」に着想を得て制作された [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

YouTubeでの「The Backrooms」シリーズが話題を呼び、A24史上最年少の監督として劇場作品を任されるまでに至った道のり。その実感はいつ訪れたのかを聞くと、こう振り返ったパーソンズ監督。「実感が訪れる瞬間は、小さいものも含めて何度もありました。正直なところを言うと、私はYouTubeでやっていたこと自体をとても楽しんでいたんです。2022年1月、『The Backrooms』のプロジェクトが注目を集め始めたときが、それまでの自分と比べると大きな“頬をつねる瞬間”でした。それ以降も似たような感覚が繰り返し訪れています。人はその時々の状況に適応していくものなので、感じる興奮の“相対的な量”はいつも同じくらいなんです」。

パーソンズ監督は、そうした高揚感を「制作における周辺的な要素」として捉えるようにしていると明かす。「本当に大事にしたいのは、日々の作業そのものです。多くの人がこの映画とつながってくれたことには心から感激していますが、個人的な達成感という意味では、日々の作業がどうだったか、夜眠るときにどう感じるか、そこに尽きます。かなり禅的な考え方かもしれませんが、それが自分にコントロールできる唯一のことなので、そこに集中するようにしています」。

「普遍的な、非常に見過ごされがちな細部を見つけて、そこに大きな重みを与えるのが好き」

パーソンズ監督が繰り返し口にしたのが、「リアリティの感覚を合成する」という感覚だ。YouTube時代に培ったこの手触りについて、彼はこう説明する。「YouTubeで一番楽しんでいたのは、“リアリティの感覚を合成すること”です。なにかがあまりに突飛だったり、逆にあまりに特定的すぎたりする作品を観たときに感じる、あの微妙な感覚を呼び起こす方法を見つけること。特定的すぎてキュレーションするのが難しいような、なにか生きた有機体を捉えているような、設計図から何度も作り上げられたものではない自然さです。あらゆる人に普遍的な、非常に見過ごされがちな細部を見つけて、そこに大きな重みを与えるのが好きなんです」。子ども部屋のように、人は自分が生きてきた空間と、口には出さない深い関係を築いている――そう語るパーソンズ監督のもとには、公開後、忘れていた記憶がよみがえったという声が数多く届いているという。「『40年間思い出したこともなかったような空間に、この映画が思考を連れ戻した』と語ってくれた人を、何人も見てきました」。

撮影のために約3万平方フィートに及ぶ“バックルームズ”のセットが作られた [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
撮影のために約3万平方フィートに及ぶ“バックルームズ”のセットが作られた [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

このリアリティへのこだわりは、劇中の心理描写にも及ぶ。潜在意識的な側面を描くにあたり、セラピストや心理学者に相談したのか尋ねると――「土台となる部分で言うと、私の母がセラピストなので、日常的にそこから学んでいる部分があります。加えて、プロデューサーのひとりのパートナーもセラピストで、かなりの頻度で話をしました。劇中では、レナーテ(・レインスヴェ)演じるメアリーが“模範的なセラピスト”というわけではない、という設定を意識しています。セラピーが正しく行われないケースというのもあるわけで、劇中で描いているのは、その時点における特定のバージョンのセラピーです」。

ある夜、クラーク(キウェテル・イジョフォー)は自身が店主を務める家具店の地下で“バックルームズ”への入口を発見する [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
ある夜、クラーク(キウェテル・イジョフォー)は自身が店主を務める家具店の地下で“バックルームズ”への入口を発見する [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

『バックルームズ』自体の“心理学”については、慎重な言い回しが返ってきた。「クラーク(キウェテル・イジョフォー)が劇中で語る“記憶のロジック”には、実際そこまで忠実に基づいているわけではありません。それは人々がこの空間に対して後付けで見出しているものです。バックルームズという空間は、投げかけられたものを何でも吸収してしまう、いわば白紙のキャンバスのようなもの。もし“記憶からできている”と信じるなら、そう思わせるだけの手がかりが用意されている、という程度のことです。すべてを説明できる疑似科学的なシステムは存在しますが、観客にはそれが明かされません。登場人物たちがそれと折り合いをつけようとしているだけなんです。だからこそ、そのあたりをしっかり把握しておく必要がありました。私自身、素人目線ではありますが、心理学について知ることを楽しんでいます。セラピー面での助言も受けましたし、全体としての論理が破綻のない閉じたループになるよう、私自身もかなり調べました」。

「目的は怖がらせることよりも、人と外の世界との関係を問い直すことにある」

心理カウンセラーとしてクラークのセラピーを担当する医師メアリー役にレナーテ・レインスヴェ [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
心理カウンセラーとしてクラークのセラピーを担当する医師メアリー役にレナーテ・レインスヴェ [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

子どもから年配層、普段ホラーを観ない層まで――なぜ『バックルームズ』はこれほど幅広い観客に届いたのか。「制作段階から、年齢層で観客を絞り込むことはしていませんでした。デモグラフィックに対してはできるだけ意識しないようにしています。ある意味、自分自身のために作っている部分もあって、抽象的なSFのギミックや、超自然的な器を通して人生の大きなシステムを処理することに近い興味を持つ人たちが、同じポイントで盛り上がってくれたら、という思いです」。

ホラー映画として括られることについても、パーソンズ監督自身の感覚は少し異なるという。「マーケティング上はホラーとして受け止められるだろうと理解していましたが、自分では単純にホラー映画として作った感覚はありません。目的は怖がらせることよりも、内省を促すこと――人と外の世界との関係を問い直すことにあります。誰もがそこから自分なりになにかを受け取るものですし、確かに怖い瞬間もあります。ただ、根底にあるのはハードSFのロジックで、それが謎めいた、ノスタルジックな核を持つベールに包まれている。若い世代に馴染み深い題材ではありますが、突き詰めれば、ほぼ時代を超越した“建築的な空間”の話なんです。若い観客だからこそ特別な意味を持つ、という要素は本質的にはありません。むしろ、より単純で手触りのあった時代へ立ち返るための、一種のタイムトラベル装置として機能している。なにかに行き詰まりを感じている人にとっては、失ったものを取り戻す可能性を開いてくれる作品だと思います。だから、若い観客を惹きつけたのはこの作品自体の魅力だけではなく、長年インターネットがこのアイデアを扱ってきたことも大きいはずです。それでも、結果としてはそれよりずっと広い層に届いているようです。というのが、私のとりとめのない話です」。

「いつの時代も“アイデアの戦い”なのは同じであって、新しい技術がそのプロセスを加速させているだけ」

プロデューサー陣には、「ソウ」や「死霊館」シリーズを手掛けたジェームズ・ワンらが名を連ねている [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
プロデューサー陣には、「ソウ」や「死霊館」シリーズを手掛けたジェームズ・ワンらが名を連ねている [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

保守的とされてきたハリウッドが、パーソンズ監督や『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』(22)のフィリッポウ兄弟、『オブセッション 災愛』(公開中)のカリー・バーカーのようなYouTube出身の監督たちを積極的に迎え入れていることについて、当事者としての見解を求めた。「自分は“内側”にいる立場ですが、それでもまだどこか“外側”にいる感覚があります。この現象自体がまだ新しいので、駆動している仕組みについて確信を持って語るのは控えたいところですが」と前置きしつつ、パーソンズ監督は次のように分析する。「ほぼ自明な事実として言えるのは、インターネットと共に育った若い世代が、YouTubeを自分のプロジェクトを発表する手段として使っているということです。40年前なら別の経路をたどっていたであろう人たちが、人生を処理しようとする方法自体は同じなのに、出口だけが変わり、観客に直接届くようになった。それによって、特定のアイデアやイメージがどれくらい効果的かを“実地テスト”できるようになり、製作側からしても、なにが伸びているのかを見極めやすくなっています。最初の短編を出したとき、公開から1週間半ほどで、まだ2000万回再生にも届いていない段階で、すでに反響の兆しが立ちのぼりました。結局はいつの時代も同じ“アイデアの戦い”であって、新しい技術がそのプロセスを加速させているだけだと思います」。

パーソンズ監督は17歳で映画化を企画、19歳で撮影を行った [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
パーソンズ監督は17歳で映画化を企画、19歳で撮影を行った [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

同じくYouTube出身監督による低予算作品でありながら、2026年のハリウッドを揺るがした大事件として、しばしば比較されるのが公開中の映画『オブセッション 災愛』だ。 「(2本の作品に)共通点があるとすれば、それはおそらく作品そのものというより、それぞれがどう作られたかという文脈から来るものだと思います。似た映画だとは思っていません。どちらも低予算ではありますが、それでも『オブセッション 災愛』は『バックルームズ』よりさらに小規模です。僕の映画はだいたい1000万ドルほどでしたが、あちらは75万ドルくらいだったはずです。桁が違うので、アプローチもかなり異なっていたはずです。ふたつのYouTube出身、Z世代の監督という物語がリンクして語られる理由は理解できますし、それがちょうど“いま”というタイミングと噛み合っているのでしょう。『オブセッション 災愛』自体はすばらしい映画だと思っています。映画館で本当にオリジナルな作品に飢えている人たちの、微妙な感覚を捉えていると思いました。ただ、両作品を結びつける決定的な要因がひとつだけあるかと言われると、まだ自分のなかでも見つけられていません」。

「すべての登場人物は同じ“空虚”の周りを回りながら、なんとか “答え”を引き出そうとしている」

作品が扱う記憶や喪失、トラウマといったテーマについて、それが監督自身にとって個人的な意味を持つのか、また制作がカタルシスになったのかを問われると、パーソンズ監督はこう答えた。「この作品が自分にとって何だったのか、あまり明確に定義したくないんです。自分なりの解釈はありますが、それは自分のなかにとどめておきたい。“トラウマ映画”と呼ばれることには抵抗があります。そもそもそれを意図して作ってはいませんし、最近はいろいろな作品がそのラベルで括られがちですが」。パーソンズ監督にとって本作は、むしろ社会や文化といった抽象的なシステムのなかで、個人が言い訳をしながら生きていく様を処理する手段だったという。「そうしたシステムに関わる大きなアイデアの多くは、メアリーとクラークが劇中で手掛けている仕事――彼らが作っているコマーシャルや、それが90年代のアメリカ文化のなかで彼らの経済的な立ち位置について語っていること――に表れています。マーク・デュプラス演じるキャラクターに至るまで、すべての登場人物が同じ“空虚”の周りを回りながら、本質的には答えの出ない無限の特異点から、なんとか答えを引き出そうとしています。答えは出ません。それでも彼らは試み、それぞれのやり方でそれと折り合いをつけたり、そこから抜け出して自分にとって生産的な人生へ飛び出したりする。つまりこれは、私たちが自分の属するシステムになにを差し出し、なにを諦めているのかについての瞑想なんです」。

『バックルームズ』は全国の映画館で絶賛公開中 [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.
『バックルームズ』は全国の映画館で絶賛公開中 [c]2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

次になにを手掛けるのかと問われると、パーソンズ監督は含みを持たせながらもこう締め括った。「いくつかのプロジェクトにまたがって、仮想的な構想はたくさんあります。ただいま、優先順位のトップに来ているのは、『バックルームズ』で経験した長編映画のパイプラインについて、もっと理解を深めることです。それに、YouTubeでの活動がなくなることはないと思います。おそらく今後も、実験的なテストの場として使い続けるでしょう」。

YouTubeという場から始まったパーソンズ監督の旅は、A24製作の映画という舞台で新たな一章を迎えた。次にどんな枝が伸びていくのか、その動向から目が離せない。

取材・文/平井伊都子

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