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内田鋼一さん、一体どうやって“もの選び”をしてきたのですか?

  • 2026.9.7

一流たちに信頼される内田鋼一の感性を育んできたものとはなんだろう?まずは、半世紀以上にわたるもの選びの背景に迫る。その言葉には、私たちの生活を豊かにするための自分らしいもの選びのヒントが溢れている。

本記事は、BRUTUS「陶芸家・内田鋼一が選ぶ、人生をともにする日用品。」(2026年9月1日発売)から特別公開中。詳しくはこちら。

illustration: Yoriko Hoshi / text: Kosuke Ide

内田鋼一さんがもの選びをする様子
BRUTUS

──内田さんのもの選びのルーツを探ると、やっぱり幼少期に辿り着きますか。

生まれたところが愛知の海の近くの工業地帯で、実家も鉄工所で。製錬所とか町工場、倉庫が並んでいて、トラックがバンバン走ってる、という。いわゆる“風光明媚”な場所ではない。その代わりに、錆(さ)びた鉄くずとか積み上げられたスクラップ、廃棄された大きなコンクリートブロックや下水道に使われていた配水管なんかがいっぱいあって。

そういうところで遊んでたんですけど、そのへんに落ちているもので気に入ったのを持ち帰って、自分の部屋に飾ってたんです。錆びて朽ちたパーツとか破片とか。

──どこに惹かれていたんですか。

何ていうか、質感みたいなものかな。部品のボルトが固着して、雨風にさらされてグズグズになったようなやつとか……当時、一緒にヤンチャしてた友達が、今、自分の選んだり作ったりしているものを見ると、「お前ぜんぜん変わってないな」と言うんですよね。そういうのが原風景になっているんで。

──窯業高校の陶芸専攻に進まれました。陶芸家になろうと?

いや、たまたま薦められた高校がそうだっただけで。「やきもの趣味」とかはまったくなかった。

ただ、家族もみんなものを作る仕事の人ばかりで、ネクタイをして勤めに行く人は誰もいなかったから。自分も何かものを作って生きていくんだろうなとは思ってた。車やバイクの改造とか、友達と内装の仕事のバイトしたりとかしてました。

──卒業後には海外を放浪された。

東南アジア、欧米、アフリカ、南米とかの窯場を知人に紹介してもらい、住み込みで雇ってもらって、作業させてもらうんです。やきものと言っても各地で作り方も技術もぜんぜん違うので、それが面白かった。

そんなことをしながら旅をして、現地の遺跡を訪ねたりして、古いものを見ることが増えていった。あと蚤(のみ)の市に通って買ったり、物々交換したり。若くて好奇心があったから、異文化というだけで新鮮だった。

これは一体何に使うものだろうとか、何だかわからないけど、かっこいい、かわいい、面白いな、とか……モノの質感とか風景とか、そういうのを旅しながら体で経験していったんだと思う。

──ものについての情報は、本で読んだり調べたりしましたか。

自分はもともとそういう知識がまったくなかったんで。だからこそ余計にガツンときたというか。後から、時代とか背景とかを知っていった、穴埋め問題みたいに。一つわかると、ほかとの関連とか、時代や様式を比較したりできるし。

──まず体験があって、後から得た知識で比較検討していった。

そうですね。選ぶのは本能的な感覚なんだけど、また別のマインドで「どうしてこれに惹かれるんだろう」と考える。それは自分がものを作るときも同じで、衝動的に作るんだけど、同時に「作る意味」も自分の中で組み立てていく。

その意味では、旅をしてものを買っていた頃から、「これとこれを一緒に並べたら面白いぞ」「これを現代美術の展示空間に置いたらどうなるのかな」とか、頭の中でキュレーションして、空想の展覧会を開いていた。自分の中で物語を作って、意味づけしていくんですね。

──選んでからの作業が重要だと。

語弊があるといけないけど、俺はやっぱりいわゆる「骨董」ってあんまり好きじゃないんです。骨董って情報の集積、いつの時代に誰が作って……というような来歴の塊だから。

それはそれでもちろんいいけれど、自分はクリエイティブであることを優先したいから。情報的なものは二の次で。だからすでにセレクトされたお店より、自分で探して買うのが好き。自分にとっての宝探しをしている感覚なので。

──今では何がどこで買えるかまで、あらゆる情報が一瞬でわかる。

すぐ辿り着いてしまうから、考える時間がないですよね。昔は一つ調べるのにも本のページを片っ端から手繰って、余計なページも大量に見て、そのうちに嗅覚がついてきた。だから俺、今、骨董市行ってもめっちゃ速いですよ。じっくり見たりはあんまりしないんです。

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出会い、関わることで、物語を自分で作っていく

──内田さんが選ぶものは、時代も地域もバラバラで、用途も一見、何に使うものだかわからないようなものが多いですね。ただ、アノニマスな道具であっても、何とも言えない個性が感じられる。

誰が作ったかわからないけれど、作り手の個性や気持ちみたいなものが、意識しなくてもものに滲(にじ)み出てくる。やっぱりそういう“温度”みたいなものがあるというか。自分もやっぱり意識しているわけじゃないけど、そういうものを選んじゃうんです。

──無意識に手が伸びるものの中に、大事な何かがあると。

自分が本質的に好きなものはそう簡単に変えられないですから。だけど、いわゆる「お洒落」な人は、どんどん世の中の価値の流れに合わせて移っていっちゃう。しつこさがないですよね。

それは情報をキャッチするのが速いだけでしょう。もっと自分の好きなものとか心地よさに正直でいることが大切だと思う。「私は何でもいい」と言う人でも、人は何かは選んでいるんです。そのとき、自分が心地よいものを探していけばいい。情報集めじゃなくて、出会いに行く。関わることで、物語を自分で作っていく。

──出会いによって、自分の感覚が鍛えられていくんですね。

それを楽しむのが豊かなことだと思う。家に客を呼んだら、前に呼んだときに掛けてた絵を今日はちょっと涼しげなものに替えてみよう、とかね。

人目に触れるってすごいことだから。自分の考え方、価値観を表明しているわけで。恥部まで見せるみたいなもんでしょう。自分で作ったもの、選んだものの展覧会なんて冷静になったらできない(笑)。

──その意味で、内田さんの選んだものには、いつどんなときも内田さんの人柄を感じます。

自分が生きて考えてきたこととまったく違うことはしちゃいけない、というのがあるんです。あそこで生まれたから今の俺があるんだ、と。

だからこそ、大都会も大自然もすごいなと思う。巨大なビルを見ると、これを人が造ったんだ、人間ってすごいなと。サバンナみたいな過酷なところで家を造って生きている人もいる。彼らが造れたんなら、自分だって不可能じゃないんだって。どこかで、そういう人の力を信じているんですよね。


内田鋼一のもの選び3ヵ条

1. 頭の中でキュレーション。自分で物語を作り、意味づけする。

2.「お洒落」な人は情報のキャッチが速いだけ。自分の心地よさに正直でいること。

3. 関わること、人目に触れることで変化していく豊かさを楽しむ。

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