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現代アーティストのライアン・ガンダーに聞く、おもちゃとアートの境界線

  • 2026.8.29
アーティスト ライアン・ガンダー個展「Subjective and emotive playmaking, 2016」プレイモービル人形

現代のイギリスを代表するアーティスト、ライアン・ガンダー。日本でも、国立国際美術館、東京オペラシティ アートギャラリー、ポーラ美術館で開催された大規模な個展などで、つとに知られている。

その表現手段は、絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど広範囲に及ぶが、おびただしい数のグリコのおまけのような小さなおもちゃを並べた作品や、プレイモービルの人形を並べた作品などを見ると、ガンダーはおもちゃに並々ならぬ関心があるのではないかと思えてくる。そこで、ガンダーにとっておもちゃとは何か、話を聞いた。

おもちゃとは、想像力を使い遊びを生み出す媒介である

小さい頃、よく遊んだおもちゃの記憶はありますか。

私は子供時代の多くを病院のベッドで過ごしました。だから、ほかの同年代の子供たちと遊ぶことはほとんどなく、遊びもほかの子たちとはだいぶ違ったものだったと思います。私の遊びというのは、与えられた最小限のおもちゃから、想像力を使って、できる限り多くの遊びを生み出すことでした。つまり、私にとってのおもちゃとは、私のイマジネーションによる遊びを生み出すための媒介にすぎないものだったんです。

大人になった今、興味があるのはどんなおもちゃでしょうか。

いわゆる伝統的なおもちゃは、私は2つのカテゴリーに分けられると思っています。一つは、パズルとかテレビゲームとか、子供たちが時間を過ごすため、というより消費するためのツールとしてのおもちゃですね。私が興味があるのは、もう一つのカテゴリーのおもちゃで、それは現実から離れて新たな仮想現実を生み出すためのツールとなり得るようなものなんです。ままごとなんかはそうかもしれません。

プレイモービルを使った「Subjective and emotive playmaking」には、どのような意味が込められているのでしょうか。

プレイモービルの人形というのは、それぞれの職業や人物像がしっかり設定されていますよね。そういう意味では、子供たちが社会のルールやあり方を学ぶのにはいいものなのかもしれませんが、子供の想像性を伸ばすのには不向きです。そこで一度バラバラに分解して、そのパーツを新たに組み合わせて全く違うものを作ります。いわば、社会の規範を壊すような。おもちゃのルールを壊すことで、より開かれたものにする。この作品は、娘の遊ぶ様子からヒントを得ました。

アーティスト ライアン・ガンダー個展「Subjective and emotive playmaking, 2016」プレイモービル人形
2016年のTARO NASUギャラリーでの『In practice simplicity has never been a problem』展での、500体の解体し組み合わせ直されたプレイモービルの人形などを並べた作品。
アーティスト ライアン・ガンダー個展「Subjective and emotive playmaking, 2016」プレイモービル人形

何百もの小さなおもちゃを並べた「Closed systems」についてはいかがですか?

私には自閉スペクトラム症の息子がいるんですが、彼の遊びはとてもユニークで、彼なりの豊かな想像力の中でいろんな遊びを生み出しています。その一つが、小さなおもちゃを直線上に並べて部屋を1周させることです。私は車椅子なので、ドアのところを塞がれると、彼がせっかく並べたおもちゃをどかさなければならなくなるんですね。そのたびに悲しい気持ちになります。ですので、この作品は、彼のそうしたユニークな遊びへのトリビュートのような気持ちで作りました。

2025年にポーラ美術館でも展示されていた機械仕掛けのアニマトロニクスのシリーズもおもちゃのように見えなくもないですよね。

あのシリーズは、遊ぶことができるわけではないので、私としては、おもちゃだとは考えていないのですが、その作品が仮想現実を作るという意味では、おもちゃと共通する部分があるかもしれませんね。私がコントロールして、面と向かってははばかられるような話を動物にさせているところとか、一種の操り人形というか。

ポーラ美術館での個展で展示された、無数の小さなおもちゃやおもちゃのパーツを、直線上に並べた作品。自閉スペクトラム症の息子の遊び方からヒントを得た、トリビュート的作品。

では、最後にあなたにとって、理想の、究極のおもちゃとはどのようなものだと思いますか。

段ボール箱かもしれません。最も想像力を楽しめるのは、一番シンプルなものじゃないかと思うんです。与えられたすでに形あるおもちゃというのは、決まったルール、使い方、遊び方がくっついていて、使う人のイマジネーションが制限されてしまいますよね。片や段ボール箱なら、カッターとテープ、そして想像力さえあれば、お城だって車だってロボットだって何でも作れる。無限のアイデアを生むことができるわけですから。

子供とアートをつなぐ「アニマトロニクス」シリーズ

アーティスト ライアン・ガンダー作「アニマトロニクス」シリーズ
壁の穴から顔を出す2匹のネズミ。自分たちがどこから来たのか、その存在理由などを人の声で語り合う。ガンダーは、これらはおもちゃだとは考えていないと言う。ポーラ美術館では、ほかに鳩時計が展示されていた。
アーティスト ライアン・ガンダー作「アニマトロニクス」シリーズ
ポーラ美術館の『ユー・コンプリート・ミー』展でも展示されていた、アニマトロニクス技術で、まるで生きているように動き、人間の声で、意識的でいることの難しさを語るカエル。声を担当したのはガンダーの実娘。

ガンダーが作った遊べるアート

2018年のリヴァプールのビエンナーレで行われた、メトロポリタン大聖堂をコンピューター上で解体し、そのパーツから子供たちが別のものを再構築するワークショップ『Time moves quickly』から生まれた積み木。

profile

Ryan Gander(現代アーティスト)

ライアン・ガンダー/1976年イギリス・チェスター生まれ。2011年のヴェネチアビエンナーレに参加。それ以降、世界で注目される。日本でも、17年に国立国際美術館、25年にはポーラ美術館などで個展を開催。17年に大英帝国勲章を授与される。

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