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「箱根の方が“凄そう”に見えてしまう」マツダ陸上部・臼井健太氏が感じた『ニューイヤー駅伝』との差

  • 2026.8.30

高校時代に二度都大路に出場し、進学した國學院大學では、主力として強豪校へ変貌を遂げるつなぎ役を担った臼井健太さん。

現在は故郷・鳥取に近いマツダ陸上部で競技を続けているが、競技活動の傍ら、社業にも勤しんでいる。

先輩からの誘いを受けて

「一度でも箱根に出られたら」の結果、想定以上の結果を残した國學院大學を経て、次なる進路に選んだのが、故郷に近い広島県にある自動車メーカー「マツダ」だ。

「(地元と)近いっていうのが一つあるんですが、私が大学一年生の時にキャプテンだった向さん(向晃平)の存在もあります。今もマツダにおられるんですけど、國學院ではすごく明るく、センスがあって、みんなをグイグイ引っ張るっていうよりは、『楽しんでやろうぜ!』なキャプテンでした。

そんな向さんが、『マツダめっちゃいいよ。臼井も来いよ!』と1年生の時に声をかけてくれていたのもあって、地元で続けるならマツダがいいなっていうのが一番でしたね」

大学1年と4年というと、なかなか絡みがなさそうに思えるが、臼井さんが1年次から全日本と箱根メンバーに選ばれるなどレギュラー陣に食い込んでいたこともあり、気にかけてもらっていたそうだ。

箱根路と対照的な上州路

マツダ陸上部では、臼井さん(國學院大學)の他にも「東洋大学」「大東文化大学」「山梨学院大学」「法政大学」「神奈川大学」など、箱根駅伝常連校である大学出身者が多く所属しており、臼井さんのように、在学時に出場した部員もいる。

実業団において、最も注目をあびるのは毎年1月1日に開催される「ニューイヤー駅伝」。マツダはこれまでに63回に出場し、1970年前後に2度の優勝と1度の準優勝を記録し、近年も入賞圏内に食い込み、「中国電力」と並んで中国地方を代表する存在だ。

ところで、「箱根駅伝」は毎年1月2日と3日に往路・復路で実施される。つまり正月三箇日が駅伝三昧なわけだが、箱根路の2日間に比べ、元旦開催の上州路は、イマイチ盛り上げに欠けている面が否めない。以前小説家池井戸潤氏の「陸王」がドラマ化された際は、放送局が同じだったこともあり、いつもと違う盛り上がりだったこともあったが、それも“一過性”だ。

純粋な競技レベルでいうなら、間違いなくニューイヤーに軍配が上がるだろう。新旧の箱根スターの共演はもちろんのこと、インターナショナル区間では、オリンピックや世界陸上でメダルを獲得したランナーも出走し、まさに“頂”を感じることができる大会だ。

「おそらく実業団選手の多くが、同じように苦しんでるというか悩んでるというか。自分が走っていても、箱根の方が注目度が大きかったなとか、景色に感動したというのは正直あります。実業団の方がレベルは高いはずで、やってることは一段も二段も高い。厳しい環境の中でやっています。それでも箱根の方が”凄そう”に見えてしまうし、そう“見られてしまう”っていうか。働きながら、家族との時間を大切にしながらが実業団選手なので、 ほんとすごいなって思うんですけど、でも注目度は低いっていう現状が、今の陸上界における課題の一つでもあるのかなと」

「広報素材」兼「広報マン」

新年早々華やかなスポットライトを浴びる箱根駅伝だが、4年生をもって競技活動にピリオドを打つものも多く存在。2024年の國學院の三冠を阻むなど、現在絶対王者に君臨する青山学院大学でさえ、出場メンバーの一部が就職を選んでいる。

競技活動を続ける場合は、多くのランナーは全国各地にある企業に就職し、陸上部などに所属する。いわゆる「実業団選手」だが、大部分を競技活動に費やすケースもあれば、社業との二足の草鞋で過ごすケースもある。マツダの場合は後者で、臼井さんは、コーポレートコミュニケーション本部 コミュニケーション統括部 コミュニケーション推進グループ」に所属している。端的にいえば「広報マン」。

マツダでは、陸上部の他にラグビー部や女子バレー部も擁しているが、経営目線でいえば、企業の社会的責任(CSR)に関わってくる部分。部員は競技者であると同時に、対外的な“マツダの顔”としての役割も担う。つまり臼井さんは、「広報素材兼広報マン」という、珍しい立ち位置でもあるのだ。

「入社後はまず、公式SNS運用を任せていただきました。2年目からは、社内広報担当として、取材や記事の製作などを3年間行いました。現在は、1年目とは別の公式SNS担当に加えて、マツダの企業サイトの運用を担当しています。企業サイトは、企業理念や採用情報、IRやサステナビリティ、ストーリーメディアなど、コーポレートな情報を揃えています」

「スポーツ推薦」だからこその温度差

内定が決まったタイミングで、広報部門への配属を希望したという臼井さん。なお、現役陸上部員が所属したのはマツダ史上初だそう。

「でも正直、『働く』ってことがあまりわかっていなかったんで、響きというか、イメージで選んだところもありました。『華やかそう』という印象でしたね」

実際、華やかな舞台に立っている存在。地元が近いということも加味すれば、妥当な配置ともいえる。しかし、分かりやすい素材だからこその「折り合い」も必要になってくる。

「最初は、もっともっと陸上のPRをしていきたいし、していくべきだと強く思っていました。でも、そこからいち広報として仕事をしていく中で、自分の思いだけでやるのは“違うな”と。まずは個人や陸上部の影響力、社会的意義みたいなところを、もっと会社内で確立させて、『マツダって陸上部あるからいいよね』『陸上部いいことしてるよな』とか、『陸上っていいよね』『もっと取り上げた方が会社としても好感度上がるよね』とか、そういう風になってから、認知を広げファンを増やす活動をしていくべきなんだと考えるようになりました。そこが陸上部としての課題かなと感じていて、ただ走るだけでは、社会的意義というか、社会の人にいい影響って与えられないので。陸上部の存在意義をもっともっと上げていくことをしてから、会社にメリットのあるような存在になっていきたいなとは思っています」

画像1: (C)向山純平
(C)向山純平

日本でも有数の自動車メーカーが「マツダ」だ。名だたる名車を世に送り出してきたこともあり、それを背景に入社を決めた人も多いだろう。

「みんなとは違う、面接で自分の力が認められたわけじゃないっていうのがあります。バイトもしたことなかったんで、『社会人として働くって何だろう』みたいなところもわからないまま入ったので。最初は自分に全く自信がなく、どう働くのかも、車って何なのかもわかんない。免許も取ったばっかりだし、そんな人間が広報で働いていいのかっていう『不安』がすごくありました。

でも広報の人たちって、社内・社外両方に軸足があって、お客様・会社としての目線をどちらも大切にしています。全員が全員車好きっていうわけでもないですし、全員が全員“マツダヲタク”っていうわけでもありません。私みたいな車にあまり関わってこないような人の意見っていうのも、逆に知りたがっていただいています。そういった意味で、むしろ自分の強みになれるんだって思ったところから、少しずつ馴染んでいったのかなと思います」

画像2: (C)向山純平
(C)向山純平

自分だからこそのやり方

現在、陸上部員と広報マンの二足の草鞋を履く臼井さんは、ビジネスパーソン向けSNS「LinkedIn」で、個人アカウントから発信を行っている。近年アスリートも積極的な発信を行うようになっているが、多くの場合はInstagram、X、YouTubeなどで、ビジネス系SNSを“主戦場”にしているのは珍しい。

画像: 2025年からアカウント開設したLinkedInでは、競技生活に加えてプライベートも発信
2025年からアカウント開設したLinkedInでは、競技生活に加えてプライベートも発信

「競技のことについて発信する方はいらっしゃっていて、陸上に特化した投稿が多いのかなとは思うんですけど、僕のように陸上だけでもなく仕事と合わせてってなると、いらっしゃらないかもしれないですね。LinkedInは(テキストが)長くなりがちではあるんですけど、長くなっても『軸』は一つにして、タイトルに沿った内容として、メインメッセージは一つにして、あまりそこから横道それすぎずにしてます。そういう投稿にしたいなというのと、自分の思いを伝えるだけじゃなくて、読んだ人がためになったというか、気づきがあった学びになったって思ってもらえるような投稿ができたらなといつも思っています。 事実を伝えるだけじゃなくて、感情的な部分、想いがより伝わればいいのかなと」

実際の反応はどうだろうか。

「広報内ですけど社内でも取り上げてくださって、『臼井さんすごいいいこと言われてるから見てみて』みたいなことを、上司からいろんな人に言ってくださってるっていうのが嬉しいですね。

社外に関しては、陸上部について発信することで知ってもらえるっていうのがありますし、これだけ反応ももらえて、陸上部そして実業団ランナーたちの『価値』が伝わってきているのかなっていうところで、そこはすごく発信してよかった。社内へ言ってるだけだと、 同じことを言っても伝わり方が違っていたと思うんですが、社内だけでなく、社外にも発信することで、外からの反応を社内で見てもらえるというのが一つ大きい成果なのかなと。あとは個人でもいろんな人とつながりを持たせてもらっています。LinkedIn内では『箱根駅伝コミュニティ』があるんですが、私も昨年入れてもらい、今年は一緒に箱根駅伝を見ながら、『この区間は』『この選手は』みたいな解説を交えたりもしました」

そういった取り組みも、箱根路で感じた部分があるという。

「箱根も、選手のバックボーンとか、かける想いとか、これまでの努力が、実況や監督の声かけから伝わってくるところがあるから、感動が生まれて、人の心が熱くなって、すごい巨大コンテンツになっていると思います。そこと比較してニューイヤーが『なかなか盛り上がらないよね』って言われているのは、そういった『ストーリー』が伝わってないからなのかなというところもあって、自分に何ができると考えたら、こうした発信やコミュニティに入っていくことだと思っています」

なお、今回の取材では、同じコミュニケーション推進グループに所属する波多野さんも同席。同僚そして後輩から見た臼井さんについても聞いている。

画像: 臼井さんと同じ部署に所属する波多野 実優さん(C)向山純平
臼井さんと同じ部署に所属する波多野 実優さん(C)向山純平

「すごく頼りになる先輩です。私にとって一番年が近い先輩が臼井さんで、ちょっとした質問でも時間を作って丁寧に聞いてくださるし、私が業務に行き詰っている時には察知してよく声をかけてくださるので心強いです。

臼井さんのLinkedInでの投稿も、自分のことを発信をするのはなかなか勇気がいる中で、陸上の大会で感じたことや、素直な気持ちを発信されているのは、マツダにも良いイメージを持ってもらえるきっかけになっているのではないかなと思います。いつも積極的に活動されているので、先輩として尊敬しています」

取材・執筆:向山純平

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