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20年前、“60キロ”散歩を提案→共演者に“恨まれた”…【透明感女優】の現在地

  • 2026.10.7
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2006年、映画『夜のピクニック』舞台挨拶に登壇した多部未華子(C)SANKEI

20年前の2006年9月、東京・九段会館で映画『夜のピクニック』の試写イベントが開かれた。暗闇に包まれた会場にプラネタリウムの星空が映し出されると、ペンライトを手にした8人のキャストたちが姿を現した。衣装の白いスクールジャージに身を包み、長澤雅彦監督とともに並んだ中に、当時17歳で主演を務めた多部未華子がいた。

「こうやって試写会を迎えられて幸せです」と口火を切った彼女の口からあふれ出たのは、ロケ地となった茨城・水戸での1か月間でキャストのみんなと仲良くなれた喜び、そして現役高校生として改めて「残りの高校生活を楽しまなきゃ」と感じた思いだった。

映画のプロモーションでありながら、語られるのは高校生活と仲間たちのことばかり。スクリーンのヒロインと壇上の17歳の少女が、まったく同じ温度で溶け合っているように見える。

まだ1回しか会っていない仲間と

恩田陸の同名小説を映画化した『夜のピクニック』は、作者の母校・茨城県立水戸第一高校の名物行事「歩行祭」をモデルにしている。全校生徒が夜を徹し、24時間かけて80キロを歩き抜く。高校生活のすべてを凝縮したような過酷な一日を描いた物語だ。

それなら実際に歩いてみよう。そう提案したのが、ほかならぬ多部だった。クランクインを前に、主要キャストや監督、スタッフら総勢30人が参加して、60キロを歩く「ミニ歩行祭」が決行されることになる。

だが、そのとき共演者たちとは、まだ1回しか会っていなかった。試写イベントで多部は、並んで歩いた西原亜希との時間を振り返っている。

最初は当たり障りのない会話しか交わしていなかったふたり。けれど夜になると、話題は少しずつお互いの仕事や学校、家族のことへと移り変わっていった。本当に1日一緒に歩くと仲良くなれるのが「不思議でした」とも口にした。一緒に歩いた道のりが、初対面同然だった彼女たちの心の垣根を、静かに溶かしていったのだ。

「途中で恨みました」相手役がこぼした笑い話

この60キロの舞台裏は、試写イベントに先立つ2006年6月、書店関係者向けの試写会でも明かされている。原作者の恩田陸や長澤監督とともに多部も登壇し、彼女の提案でキャストが60キロを実際に歩いたことが紹介された。歩く大変さを知り、キャスト同士の友情が生まれたことが、いちばんの収穫になった。

相手役・西脇融を演じた石田卓也は、「あまりのハードさにその提案を途中で恨みました」と打ち明けた。

会場の笑いを誘ったその告白には、実際の気持ちを感じられてよかった、という続きがあった。言い出しっぺの主演の熱意と、それに巻き込まれながらも最後には笑い合える仲間たち。彼らの距離がどれほど縮まったのかは、その一言で十分に伝わってくる。

本物の高校生だからこそ宿ったリアリティ

思えば、撮影が始まったのは試写会の1年以上前、2005年の夏のことだ。試写会のころの多部は、映画『HINOKIO』や『青空のゆくえ』でブルーリボン賞新人賞を受け、映画界の新たなヒロインとして、大きな期待を背負っていた。

けれど、彼女が演じたのは特別な誰かではなく、ただ歩行祭の1日を精一杯生きるひとりの高校生だ。そして演じる多部自身もまた、学校へ通う本物の高校生だった。試写会の壇上で彼女が漏らしたあの言葉は、用意された宣伝文句などではなく、同じ季節を生きる少女としての切実な実感だったと思う。映画は2006年9月に劇場公開を迎えた。

引っ張る側からついて行く側へ

それから2年後の2008年夏、多部は1500人以上の中からオーディションで選ばれ、翌年春から放送された朝ドラ『つばさ』のヒロインの座を射止める。

そして2026年春の朝ドラ『風、薫る』で、彼女は「鹿鳴館の華」と称された大山捨松役として、『つばさ』以来となる朝ドラの舞台へと帰ってきた。物語を牽引するふたりの主人公、りんと直美の人生に大きな影響を与えるキーパーソンとしての出演だ。確固たるキャリアを築いた今、彼女は20歳でヒロインを背負った当時をこう述懐している。

あの頃は、役の感情を一番理解しているのは自分だと思っていた。誰よりもその役の目線で台本を読んでいるのだからと、自信を持つようにしていた。けれど今回は、主人公の周りにいる人間として、「2人について行く感覚がとても楽しいです」と語っている。

かつて16歳だった多部未華子は、自ら歩こうと声を上げ、出会ったばかりの仲間たちと夜の道を切り拓いていった。そして20年の歳月が流れた今、彼女は後輩たちの背中をそっと見守り、ついて行くことの面白さを味わっている。

先頭に立って引っ張る側になっても、後ろから寄り添う側になっても、誰かと並んで同じ道を歩く時間を心から愛おしむ彼女の姿は、あの夏の夜から少しも変わっていないように思う。


※記事は執筆時点の情報です

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