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1日最大8時間の猛特訓、ほぼゼロから“プロのダンサー役”に挑んだ女優。日本アカデミー賞4冠作の舞台裏

  • 2026.10.5
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2006年1月、映画『フラガール』で取材に応じる松雪泰子(C)SANKEI

20年前の2006年9月、映画『フラガール』の公開を直前に控え、松雪泰子は自分の役づくりを語っていた。彼女が演じたのは、東京から福島・いわきの斜陽化した炭鉱町へ仕方なしにやって来て、やがて町を背負って立つ娘たちを育て上げていくダンス教師・平山まどかだ。

劇中、まどか先生が生徒たちにダンスを手ほどきするシーンは決して多くはない。にもかかわらず、松雪は生徒役たちが踊る振り付けを、細かいステップに至るまで頭と身体に叩き込んでいた。

しかも、向かい合って教えるときに備えて、逆方向の振りまで覚えていた。なぜ彼女はそこまでの情熱を注いだのか。

1日6時間の猛特訓とプロを演じる重圧

出演のオファーが届いたのは2005年の夏。同年11月に共演陣との合同レッスンが始まると、その日常は過酷を極めた。午前中はバレエを2時間、午後はフラとタヒチアンダンスを各2時間。実に1日6時間におよぶハードな練習を、ほぼ毎日重ねた。クランクイン直前の2カ月間に至っては、少ない日でも6時間、多い日には8時間をダンスに捧げた。

当時の松雪にとって、ダンスの経験といえば小学1年生のときに1年ほどバレエを習った程度。ほぼゼロからのスタートだった。

さらに、まどか先生が劇中で披露するのは激しいタヒチアンダンスだ。深く膝を折り、腰を落とした姿勢のまま、下半身を激しく回転させ、震わせる。求められるのは単なる振りの再現ではなく、かつて花形だったプロのダンサーとしての高度な技術と表現力だった。ある程度踊れるようになっても、その先の表現の壁に何度もぶつかり、挫折も味わった。

鏡の向こう側の振り付け

インタビューで完璧に覚えた振りは何曲あるかと問われた松雪は、6曲か7曲と答えている。どんなときでも生徒たちの動きを把握しておき、現場で動きの付け方を相談されたときには、それならこういうやり方がある、と具体的な引き出しを示せるようにするための準備だったのだろう。

実際、まどか先生自身の本格的なダンスシーンの撮影は、福島・古殿町のロケで行われたわずか1日のみ。朝から晩まで角度を変えて踊り続け、監督からOKが出たあとも、もう1度やらせてほしいと自ら申し出たほどだった。

そんな松雪がいちばん難しかったと振り返るのが、蒼井優演じる紀美子をレッスン場で叱咤する場面だ。感情をただぶつけるのではなく、厳しさの奥にある深い愛情を、佇まいと微細な表情の変化だけで伝えなければならなかった。

生徒たちの振りを鏡の逆向きまで体現できる先生が、本気で生徒と向き合い、叱る。その役作りの裏側を知ったあとで見返すと、あの場面の熱量はまったく違って見えてくるはずだ。

舞台挨拶で共演者と踊ったフラと公開後の熱狂

公開に先駆けて2006年6月に行われた完成披露試写会では、キャスト陣が舞台上で実際にフラを披露した。

劇中、まどか先生が生徒たちと一緒に並んで踊るシーンはない。だからこそ、舞台挨拶でフラガールズの面々と踊った松雪は、「ドキドキした」と口にした。同じ舞台で蒼井優もまた、過酷だった練習を振り返りながら、松雪をはじめとするフラガールズに色々と教わったと感謝を口にしている。

作品は、公開前から米アカデミー賞外国語映画賞の日本代表に選出されるなど注目を集め、9月に封切られると、メイン館のシネカノン有楽町で初日動員の劇場記録を更新した。

翌2007年2月の第30回日本アカデミー賞では、最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、そして蒼井優の最優秀助演女優賞と、主要部門で4冠を達成。松雪自身も優秀主演女優賞に輝き、授賞式で「応援していただいて感謝しています」と大喜びだった。

20年後に通底するリーダーの姿

20年後の2026年、松雪泰子は2月から『北方謙三 水滸伝』に特別出演し、間者・馬桂を演じた。3月から4月にかけては岩松了の新作舞台『危険なワルツ』で、東京・大阪・富山・宮城を巡演。そして7月クールのテレビ朝日系木曜ドラマ『大空港〜GATE24〜』では、内閣官房参事官・杉原美都里を演じている。

縦割り行政の壁を打ち破るべく空港特別チーム「GATE24」を立ち上げ、周囲の無理解や他部署からの軋轢に晒されながらも、メンバーを信じ抜いてチームにすべてを賭ける女性だ。

出演発表時、松雪はこの役を「こういう人が一人いるだけで組織が変わる」と評した。外からやって来て、炭鉱の娘たちを一人前の踊り手へと導き、町そのものを変えていったあのまどか先生の姿が、脳裏をよぎる。

教える側でありながら、相手の目線に立ち、鏡の向こう側の振り付けまで自らの身体に刻み込んでいた松雪泰子。『フラガール』を見返すなら、娘たちの前に立つ先生の、見えない準備に改めて思いを馳せたくなる。


※記事は執筆時点の情報です

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