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難しい韻を捨てたら、忘れられない歌になった デビュー曲に宿る“引き算の技術”

  • 2026.9.14
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KREVA-2008年3月撮影

歌い出しでいきなり「愛してんぜ 音色」と言い切り、そのあとは、はまってしまって抜け出せない。恋の歌として聴けばそのまま恋の歌で、ラップとして聴けば、それまでの自分のやり方を作り替えた宣言に聴こえる。二つの顔を持つ曲は多いが、両方の顔がここまで素直に一致している曲は少ない。

KREVA『音色』(作詞・作曲:KREVA)ーー2004年9月8日発売

KICK THE CAN CREWで韻の速さと密度を武器にしていたMCが、メジャーデビューのシングルとして出した一枚。作詞も作曲も、トラックの組み立ても本人の手によるもの。この曲では「全部ひとりで決めた」ことが、そのまま曲の性格になっている。

グループの真ん中で鳴っていたひとりの声

時系列を追うと、順番が面白い。録音は2003年7月ごろ、まだKICK THE CAN CREWに在籍していた時期だ。発売の予定もないまま、本人が自分でスタジオを押さえて形にした。ソロとしてのメジャー第一弾として出た曲が、実はグループ時代の真ん中で生まれていた。

この曲の完成が、グループの活動休止へ向かう流れの一部になったと、後に本人が説明している。理由を盛る必要はない。ひとりで組んだトラックの上に、ひとりで書いた言葉を乗せてみたら、そこに自分の全部が入ってしまった。そういう曲が先に存在してしまうと、次に進む道は自然と一本に絞られる。ちなみにメジャーレーベルとしては本作が第一弾だが、その前にインディーズでシングル『希望の炎』をリリースしている。

難しい韻を捨てたら口ずさめる歌になった

ここで少しラップについて。押韻とは、言葉の母音をそろえて次の言葉につなぐこと。「韻を踏む」という言葉の方が馴染みがあるだろうか。たとえば「音色(ねいろ)」と「迷路(めいろ)」は、母音の並びがきれいに一致する。KICK時代のKREVAは、この一致を長く、複雑に、何段にも重ねる技巧で鳴らしていた。ヘッズが唸る種類の技術だ。

『音色』では、その武器をあえて置いた。本人が明かしているのは、すぐに思いつく言葉だけで書くと決め、細かな技巧より「何を言うか」を優先したという方針だ。音色に迷路を重ねる程度の踏み方は、ラッパーなら誰でも一瞬で出せる組み合わせで、KICK時代の水準からすれば拍子抜けするほど単純に映る。しかしその単純さが、この曲の生命線になった。

理由は、言葉の乗せ方にある。フロウ、つまり言葉をビートにどう置くかの呼吸が、ここでは歌のメロディに寄り添っている。韻が単純だと、母音が長く伸ばせる。母音が伸ばせると、そこに音の高低がつけられる。音の高低がつけば、それはもう歌だ。難しい韻を捨てた結果、ラップなのに口ずさめる、という構造がここで完成している。ラップに縁のない人まで口ずさめるのは、この設計の帰結だ。

誰にでも届く言葉を選ぶことは、技巧を落とすことではない。何を残し、何を捨てるかを決める技術だ。この曲の技術は、韻の数ではなく、削った量で測るべきものに映る。

なお発売日の9月8日は「ク・レ・バ」の語呂合わせ。以来、この日付は本人にとって新作や催しの定番の日になり、2013年には日本記念日協会から「クレバの日」として正式に認定された。

生の楽器に乗せ替えても言葉は崩れない

2019年1月15日、ソロ15周年の「9ヶ月連続リリース」の第1弾として『音色 〜2019 Ver.〜』が出た。KREBANDによるバンドサウンドでの再録で、映像はロンドンで撮られた。このバージョンがとびきり良い。まだ聴いたことがない人は公式のYouTubeにもフルバージョンがアップされているのでぜひ聴いてほしい。

原曲は打ち込みのトラックが土台で、おそらくMPCで重ねたフレーズの回り方が言葉の呼吸を決めていた。生の楽器に乗せ替えると、ドラムの粒立ちもベースのうねりも変わるのに、言葉のリズムはそのままに、さらに言葉に温度が加わる感覚がある。

「愛してんぜ」を原点に変えた時間

デビュー曲は、始まりの一曲として記録される。けれど「原点」は、長い道のりを歩いた人が振り返ったとき、ようやく見つけられる場所なのだと思う。

この歌がなければ、今の自分はない。KREVAは後にそう語った。歌い出しの「愛してんぜ 音色」は、恋人への告白のようでいて、自分が選んだ音楽への誓いでもあった。声の年齢が変わり、トラックが打ち込みから生演奏に変わっても、その言葉だけは同じ場所で鳴り続けている。

最初の一曲だったから原点になったのではない。あの日の「愛してんぜ」を裏切らずに歌い続けた時間が、『音色』を原点にしたのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・笄坂かける)

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