1. トップ
  2. エンタメ
  3. 帰宅した瞬間、聴きたくなる歌。22年前、大人気アニメ映画主題歌として響いた「素に戻れる場所」

帰宅した瞬間、聴きたくなる歌。22年前、大人気アニメ映画主題歌として響いた「素に戻れる場所」

  • 2026.9.14
undefined
2004年11月、渋谷パルコのクリスマスツリー点灯式に出席したYUKI(C)SANKEI

一日じゅう、誰かの前で少しだけ背筋を伸ばしていた。職場でも、電車でも、スマートフォンの画面の向こうでも、機嫌のいい顔をこしらえて過ごし、玄関の鍵を回した瞬間にようやく肩が落ちる。そんな夜に、そっと差し出したい一曲がある。

YUKI『Home Sweet Home』(作詞:YUKI/作曲:田中ユウスケ)ーー2004年8月18日発売

YUKIの歌には、はしゃいだ声も、跳ねるようなリズムもよく似合う。けれどこの曲は、その明るさをいったん脇に置き、ゆっくり歩く速さで進んでいく。伴奏は急がず、声は聴き手の耳もとに近い距離に置かれる。派手な仕掛けで驚かせるのではなく、疲れた体にそのまま寄り添ってくる音の設計だ。

歌われているのは、帰る場所の話である。ただしそれは、住所のある家のことだけではない。この歌を聴き続けてきた人たちは、そこに「素に戻れる場所」を見つけてきた。

帰る場所を持って歌に戻ってきた声

前作『ハミングバード』から、およそ1年5か月。2003年に出産を経て、YUKIはこの曲で歌の仕事へ戻ってきた。ソロとしては7枚目のシングルにあたる。

1年5か月という時間は、音楽シーンの速さで測れば長い。けれど本人にとっては、「歌う人」であることに、「帰る場所を持つ人」であることが加わった時間だったはずだ。復帰作にありがちな、勢いで押し切る一曲ではない。むしろこの曲は、立ち止まっていた時間そのものを、歌の温度に変えている。

急がない歌い方の芯にあるのは、待たせている人の焦りではなく、迎える側に回った人の落ち着きだと感じる。語尾を伸ばすとき、息が抜けきる手前でふっと言葉を置く。その置き方が、この曲を復帰の宣言ではなく、帰ってきた人のあいさつに変えている。

聴き手が身構えなくて済むのは、そのためだ。久しぶりに会った友人が、近況を語る前にまず「元気だった」と聞いてくれる。この曲の最初の数十秒には、そういう順番のやさしさがある。

建物ではなく名前を呼ばれる場所へ帰る

歩き疲れたところへ雨が降りだす場面が描かれ、濡れたまま、それでも足は前へ出る。詞の中で繰り返されるのは「家へ帰ろう」という呼びかけであり、その先に「名前を呼んで」と願う声が重なる。

ここで言う家が、屋根と壁のある建物のことだけを指していないのは、聴けばすぐにわかる。「家」とは無条件に迎え入れてくれる存在のこと、取り繕いを脱いで素に戻れる場所のことだ。帰り着く先は場所ではなく、自分の名前を呼んでくれる誰かの声なのだ。

仕事や育児に追われる大人ほど、この歌が深く届く。外で使う顔を持てば持つほど、それを脱げる場所の値打ちは上がる。

詞が運んでいるのは、場所の移動ではなく、視線の向きの変化なのだと感じる。歩き疲れた人が顔を上げるまでの短い道のりを、この歌は急がせずに、しかし途中で投げ出させずに歩かせる。

暗がりの客席で子どもと大人に届いた同じ歌

この曲は、アニメ映画『劇場版NARUTO-ナルト-大活劇!雪姫忍法帖だってばよ!!』の主題歌として世に出た。作曲と編曲は田中ユウスケ。ゆっくりと広がる伴奏の上に声を置く作りは、大きなスクリーンと暗い客席によく合う。

客席には二つの層がいた。主役の忍者に夢中の子どもたちと、その隣で付き添う大人たちだ。映画館の暗がりで、子どもは冒険の余韻の中で、大人は一日の疲れの中で、同じ歌を聴いた。同じ音が、まったく違う場所に着地する。

まだ幼かった人には、この曲でYUKIの歌声を覚えた人もいる。その人たちにとって、この歌は最初から「映画館の暗がりの記憶」と一緒に保管されている。アニメ映画に置かれながら、付き添いの大人の疲れにまで届く懐の深さが、この曲の値打ちだ。子どもが忍者の名を口にしながら出口へ向かうとき、隣の大人の頭の中では、まだこの歌が鳴っている。

靴を脱ぐ音と一緒に流れてくる

玄関の灯りをつけ、靴を脱ぐ。その音のあとに、この曲を流してみてほしい。押しつける気はない。ただ、外で使っていた顔をゆっくりほどくのに、これほど向いている歌だと感じる。

歌の中で名前を呼んでくれる声は、実在の誰かでなくてもいい。小さな猫や犬かもしれない。水槽の中の熱帯魚かもしれない。生き物でなくてもいい。お気に入りのぬいぐるみや、大切な誰かの写真。もっと言えば台所の明かりでも、鍋の湯気でも、脱ぎ捨てた上着だっていい。帰り着いたと体が知る瞬間を、この曲は一つひとつ確かめさせてくれる。

帰り着いた夜、最初に鳴らしたい一曲。いや、この曲こそが、誰かにとっての「帰る場所」そのものになっているかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

(文・高輪田マチ)

の記事をもっとみる

注目コンテンツ