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争いを嫌う「いい人」が、実は相手を追い詰めているかもしれない… 罪悪感を巧みに操る静かな攻撃。その恐怖を描いたコミックエッセイ【書評】

  • 2026.8.24

【漫画】本編を読む

自分の意見を強いることなく、いつもニコニコし、争いごとを避ける人。こういうタイプには「いい人」という印象を抱きがちだ。しかしその裏で、相手に罪悪感を抱かせ、じわじわと精神的に追い詰める罠が仕掛けられていたとしたら……。『被害者姫 彼女は受動的攻撃をしている』(水谷緑/竹書房)は、そんな心理的な攻撃をする人の恐ろしさを描いた作品だ。

物語の主人公は、絵に描いたような善人として振る舞うアヤ。彼女は怒鳴ったり、誰かを非難したりはしない。その代わりに、ため息をつく、無言を貫く、あるいは「自分さえ我慢すればいい」とあからさまに被害者のポジションを取ることで、周囲の人間に「自分が悪かったのだろうか」と思わせる。これがタイトルにある「受動的攻撃」の正体だ。

たとえば、ある日のアヤと夫のやり取りが象徴的だ。仕事で遅くなり、夫の帰宅までに夕飯の支度が間に合わなかったアヤに、夫はアヤの仕事を軽く見ながら家事の遅さを指摘し、ひとりで外食に出かけてしまう。アヤは言い返すどころか、自分が悪かったかのように謝り、笑顔で夫を見送る。翌日、夫が冷蔵庫を開けると、アヤが夜通し作った料理がびっしりと詰まっていた。

加えてアヤは睡眠不足から体調を崩し、寝込んだ様子を夫に見せつける。彼女は言葉ではなく、体調不良で怒りを表現するのだ。直接文句を言われたわけではないが、夫に「自分が妻を追い詰めた悪者」と思わせるのだ。この「かわいそうな私」という盾は、夫婦関係にとどまらず、職場にまで及び、あらゆる人間関係を徐々に侵食していく。

そして物語はなぜ彼女は自分の意見を言わず、傷ついた側に立とうとするのか、なぜ被害者として振る舞うことで周囲を動かそうとするのかの背景にも少しずつ触れていく。

柔和な態度の奥に、相手を動かすための圧力が潜んでいる。読み進めていくほど、アヤの笑顔の裏にある不穏さから目が離せなくなっていくだろう。

文=ちゃむ

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