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反田恭平が語る「指揮者としての覚悟」|ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団と日本で奏でるモーツァルト

  • 2026.8.21
NAWA MAKIKO

ピアニストとして世界の舞台に立ちながら、近年は指揮者としても活動の幅を広げる反田恭平さん。2025年には、ザルツブルク音楽祭でザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団と弾き振りで共演し、モーツァルトに親しんできた聴衆を魅了しました。

両者の出会いは2024年。初共演のリハーサルから互いに相性のよさを感じ、その後も共演を重ねてきました。

2027年3月、信頼を育んできた両者が満を持して日本ツアーを開催します。今回は、その出会いから現在までの歩み、そしてともに奏でるモーツァルトについて、反田さんに伺いました。

本番を迎える前から始まっていた、次の約束

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反田さんとザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との最初の共演は、2024年5月に行われたザルツブルク公演。

実際に音を合わせると、その関係は驚くほど早く動き始め、共演の本番を迎える前から、次の共演が決まり始めていたといいます。さらにそのオファーは、ピアノのソリストとしてだけではなく、指揮をしながらピアノを弾く「弾き振り」でした。

「それまでソリストとして活動してきた人間を、いきなり弾き振りで起用するというのは、相当覚悟のいる抜擢だったと思うんです。ですから、僕としても、どうしても成功させたいという思いがありました」

その初共演が、さらに大きな舞台へとつながります。2024年のゲネプロ(最終の通し稽古)を、ザルツブルク音楽祭の副総裁が聴いていたのです。反田さんはその機会を逃さず、自らプロフィールやCD、レパートリー表を副総裁に手渡したそう。

「副総裁が来てくださっていたので、自分から売り込みました。バイオグラフィーやCD、レパートリー表をまとめたものを渡して。『自分は小澤征爾さんと同じ誕生日だから、悪い人間ではないですよ』なんて話もしました(笑)」

そのゲネプロが、翌年2025年のザルツブルク音楽祭へとつながったのです。

遠いと思っていた舞台へ。ザルツブルク音楽祭への扉

SF_Marco Borrelli

世界を代表する音楽祭のひとつであるザルツブルク音楽祭。しかし反田さん自身は、当時、すぐに自分が立つ舞台だとは考えていなかったそうです。

「まだ先だと思っていました。ソリストとして出演する可能性はあるかもしれないけれど、まずはピアノに関係するフェスティバルなどを経てからかなと。ザルツブルク音楽祭はオペラやオーケストラが大きな軸にありますから、自分とはまだ少し距離があるように感じていたのです」

だからこそ、出演が決まったときの喜びは格別でした。

「オファーをいただいたときは、本当に飛び跳ねるくらい嬉しかったです」

しかも、音楽祭で反田さんに与えられたのは「ピアニスト」だけではない役割でした。

「過去何十年分かを調べてもらったところ、弾き振りという形は初めてだったようです。名誉ある音楽祭に、指揮者として初めて出演することになりました。パスにもすべて『指揮者』と書かれていたんです」

それは反田さんにとって、想像以上に大きな意味を持っていました。

「30歳で指揮者としてザルツブルク音楽祭に出演できたことは、とても大きかったですね。ソリストとして出るだけでも嬉しい舞台なのに、指揮者として立てたわけですから」

「指揮者と名乗っていいのかわからなかった」

すでに自らジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)を率い、指揮活動を続けていた反田さん。それでも、自分自身を「指揮者」と呼ぶことには、どこか迷いがあったといいます。

NAWA MAKIKO

「2024年のザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団との初共演は、僕にとって大きな成長の一歩でした。それまで、いつ、どこから自分が『指揮者です』と言っていいのかわからなかったんですよね。これは率直な悩みでした。音楽家から指揮者になる人はたくさんいますが、自分にはどこか照れもあって」

その感覚を変えてくれたのが、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団でした。

「このメンバーと一緒に時間を過ごし、ザルツブルク音楽祭にも出演できたことで、『もう少し胸を張って指揮者と言ってもいいのかな』と思えるようになりました。メンタルの部分でも成長しましたし、指揮台に上がることへの怖さも、このオーケストラを通してずいぶんなくなりました」

もちろん、指揮台に立つ緊張がなくなったわけではありません。

「JNOでも緊張はしますし、いまもまったくなくなったわけではありません。ある程度の緊張感はあった方がいいと思います。ただ、その緊張によって身体が固まったり、耳や視野が狭くなったりするのはよくない」

だからこそ、準備を徹底します。

「きちんと勉強して、用意周到に準備をして、自信とリスペクトを持って指揮台に立つ。それがどれだけ大事なのか。ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団は僕を指揮者として育ててくれています」

「わからない」と言えること。それも指揮者の強さ

SF_Marco Borrelli

ピアニストである反田さんにとって、弦楽器の奏法は決して身近な領域ではありません。

「ピアノの人間がボウイング(弦楽器の奏法)について考えるというのは、一番遠いところにあることかもしれません。でも、指揮者としては絶対に避けて通れない道です」

だからこそ、奏者たちと率直に意見を交わします。

「わからないことは、僕は素直にわからないと言います。『これは宿題にさせて』と言って持ち帰ることもあります」

ピアニストとして世界の名指揮者たちと共演してきた経験も、現在の指揮に生きています。

「指揮そのものの勉強ももちろんしてきましたが、現場での実践がとても大きいです。
ソリストとして海外のマエストロと共演するときも、僕にとってリハーサルやゲネプロは勉強の時間です。オーケストラから何か言われたとき、指揮者がどう返答するのか。限られたリハーサルの時間をどう使うのか。普通、ソリストはそこまで考えないかもしれませんが、僕は隣でずっと見ています」

言葉を越えた先に、音楽の会話がある

NAWA MAKIKO

初めて海外のプロオーケストラを本格的に指揮した2024年。長時間のリハーサルを英語で進めることにも苦労しました。それでも最後には、言葉だけではないコミュニケーションが生まれたといいます。

「結局、音で会話できるところがあるんですよね。それが何よりの説得材料にもなる。そういう部分には、とても助けられました」

互いの音を聴き、反応しながら音楽が生まれていく。弾き振りをするときには、ピアノの配置にも気を配ると言います。

「ピアノをオーケストラの中に置いて、お客様に背を向けて弾くスタイルにしています。メンバー全員の顔が見えるように、配置も考えています。物理的に遠い人にも顔を覗き込むようにして弾きます。指揮者が前にいない分、奏者が安心できるようにすることは意識していますね」

そうした小さなやり取りも、オーケストラとの信頼につながっていきました。

「休憩時間に『あのとき見てくれてありがとう』と言ってもらったり、そこから話が始まったりする。本当に一人ひとりのメンバーとうまくコミュニケーションが取れていると思います」

自由さと自然さ。反田恭平が語るモーツァルト

彼らとの共演を重ねるなかで、反田さんのモーツァルトへの理解も深まっています。

「モーツァルトに感じるのは、一番は自由さですね。そこに彼のさまざまな感情があって、愛があって、陽気さがあって、歌がある」

けれども、明るさだけではありません。

「明るい太陽があれば影があるように、モーツァルトの音楽にも二面性があります。それがとても大事だと思います。そして、自然さ、ナチュラルであることがとても大事です」

反田さんは、その「自然さ」を人間の呼吸にたとえます。

「人は呼吸するとき、いちいち意識して息をするわけではありません。手や足を動かすときもそうですよね。譜面から自然に出てくる『ここで呼吸する』というものを、うまく表現できるのがモーツァルトだと思います」

自然に聴こえるからこそ、その背景にある奏法や様式への深い理解が必要です。1841年、モーツァルトの妻コンスタンツェと二人の息子も創設に関わったザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団は、モーツァルトの故郷ザルツブルクで、その系譜と演奏伝統を受け継いできたオーケストラです。

「本当にモーツァルトを勉強して、その奏法までわかっていないとできない。だから初めてザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団と共演したときは、彼らに置いていかれないように勉強しなければと思っていました。でも、今度は僕が引っ張っていく立場ですから。そこはいろいろ考えますね」

名曲だけではない。「本当にいいモーツァルト」を日本へ

SF_Marco Borrelli

今回の日本公演には、よく知られた名曲だけではなく、演奏される機会の少ない作品も選ばれています。

「かなりコアで、ほとんど演奏されない作品も入っています。自分たちが持っている、モーツァルトの本当にいい音楽だけを届けたい。そういう思いから生まれたプログラムです。オーケストラとしては、個々のメンバーのよさが出るものを演奏したいという思いも強かったと思います。

それに加えて、僕がいることで室内楽的な音楽をつくれる。当時、モーツァルト自身がピアノを弾いていたような形を再現したいという意図も、このプログラムにはあります」

プログラムの前半では、若きモーツァルトの劇音楽『エジプトの王タモス』と、彼が最後に残したピアノ協奏曲第27番が組み合わされます。

「『エジプトの王タモス』はオペラではなく劇音楽で、日本ではほとんど聴く機会がない、比較的初期の作品です。そのあとに、あえて最後のピアノ協奏曲を置きました。インパクトのある音楽から、モーツァルトの内面へすっと入っていくような前半のプログラムです」

初期の作品から、晩年の静かな音楽へ。その振幅から、モーツァルトという作曲家の奥行きが浮かび上がります。一方、後半には華やかで軽やかな表情が待っています。

「セレナーデはものすごく楽しい曲なのです。本当に『こんなに楽しい音楽があるんだ』と思うくらい。それを皆さんにお届けしたいですね」

さらに、演奏される機会の少ないピアノと管弦楽のためのロンド、そして交響曲第31番「パリ」へ。

「ピアノのロンドもほとんど演奏されませんが、モーツァルトがわざわざ書き直した作品です。モーツァルトがフランス人に向けて書いた作品でもあり、商業的な側面もあります。でも、その華やかさもすべて意図して書いている。前半は比較的重かったり、激しかったり、内向きなところがありますが、後半はニ長調で華やかに締めていきます」

そして反田さんは、指揮者としての自らの役割を、料理人にたとえました。

「オーケストラは『自分たちはこういうものもつくれるんだ』ということを見せたい。彼らとともに素材をどう調理して、テーブルまで運ぶのか。それが僕の役目だと思っています」

流行には乗らない。ザルツブルクが受け継いできた誇り

NAWA MAKIKO

反田さんは、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団には、ウィーンのオーケストラとも異なる魅力があると話します。その音を言葉にすると、「より古典的」だそう。さらに反田さんが惹かれるのは、オーケストラ自身が受け継いできた音への揺るぎない自信です。

「いまの流行もきちんと把握しているのに、流行にはまったく乗らない。それがすごいんです。いい意味でプライドがある。本当にいいオーケストラだと思います」

2024年の初共演では、「置いていかれないように」と彼らからモーツァルトを学んだ反田さん。その時間はザルツブルク音楽祭へとつながり、指揮者として歩む自信をも与えてくれました。そして2027年、そのオーケストラを率いて日本の聴衆の前に立ちます。

長い伝統を受け継ぎながら、その瞬間に生まれる音を大切にする。反田さんは、両者が奏でるモーツァルトをこう表現します。

「新しくもあるけれど、やはり伝統がある。その両方があるのがいいと思います」

数年にわたり、ともに演奏し、語り、学びながら育んできた音。そのモーツァルトが、いよいよ2027年3月、日本に届けられます。

反田恭平&ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 日本ツアー2027

2027年3月、反田恭平が指揮とピアノを務め、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団とともに全国9都市を巡る日本ツアーを開催。2024年の初共演、2025年のザルツブルク音楽祭での共演を経て関係を深めてきた両者による、待望の日本公演です。

プログラムは、すべてモーツァルト。劇音楽『エジプトの王タモス』K.345より4つの間奏曲、反田さんがピアノを弾く最後の「ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595」、「ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382」、「交響曲第31番 ニ長調 K.297『パリ』」などを演奏。公演地によって、「セレナード第6番 ニ長調 K.239『セレナータ・ノットゥルナ』」を含むプログラムAと、「セレナード第12番 ハ短調 K.388」を含むプログラムBの2種類が用意されています。

公演日程/
2027年3月15日(月)川崎・ミューザ川崎 シンフォニーホール
3月16日(火)岡山・倉敷市民会館
3月17日(水)福岡・福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
3月18日(木)名古屋・愛知県芸術劇場 コンサートホール
3月20日(土)仙台・仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
3月21日(日)新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
3月22日(月・休)京都・京都コンサートホール 大ホール
3月25日(木)東京・東京オペラシティ コンサートホール
3月27日(土)札幌・札幌コンサートホール Kitara 大ホール

出演/反田恭平(指揮/ピアノ)、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団

演奏曲目/オール・モーツァルト・プログラム

【プログラムA】
劇音楽『エジプトの王タモス』K.345より4つの間奏曲
ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595(ピアノ:反田恭平)
セレナード第6番 ニ長調 K.239「セレナータ・ノットゥルナ」
ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382(ピアノ:反田恭平)
交響曲第31番 ニ長調 K.297「パリ」

【プログラムB】
劇音楽『エジプトの王タモス』K.345より4つの間奏曲
ピアノ協奏曲第27番 変ロ長調 K.595(ピアノ:反田恭平)
セレナード第12番 ハ短調 K.388
ピアノと管弦楽のためのロンド ニ長調 K.382(ピアノ:反田恭平)
交響曲第31番 ニ長調 K.297「パリ」

※曲目・曲順は変更となる場合があります。

反田恭平 Kyohei Sorita

NAWA MAKIKO

そりたきょうへい○ピアニスト・指揮者。2021年、第18回ショパン国際ピアノ・コンクールで第2位を受賞。日本人としては半世紀ぶりの最高位となり、世界的な注目を集めた。国内外の主要オーケストラとの共演を重ねる一方、自身が率いるJapan National Orchestra(JNO)を2021年に株式会社化。

現在はウィーンを拠点に、ピアニスト、指揮者として世界各地で活動。2024年にザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団と初共演。2025年にはザルツブルク音楽祭に同楽団との弾き振りで出演し、指揮とピアノの双方で存在感を示した。

ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団 Mozarteumorchester Salzburg

1841年、モーツァルトの妻コンスタンツェと息子たちの支援を受け、ザルツブルクに設立されたオーケストラ。現在は約90名の楽員を擁し、オーストリアを代表する楽団のひとつとして活動する。

ウィーン古典派、とりわけモーツァルト作品の演奏には定評があり、作曲家の故郷ザルツブルクで受け継がれてきた演奏伝統を今日に伝える。2016年には、その功績により「ゴールデン・モーツァルト・メダル」を受賞。ザルツブルク音楽祭をはじめ、国内外の舞台で幅広い活動を続けている。

撮影=名和真紀子 取材・文=田上雅人 編集=井本茜(婦人画報編集部)

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