1. トップ
  2. エンタメ
  3. 宮澤エマにとって“記憶”とは

宮澤エマにとって“記憶”とは

  • 2026.8.8

ある日、事故に逢った伊川正樹(玉森裕太)が目覚めると、他人が自分になりすまし、妻や同僚からも忘れ去れられていたーー。1話ごとに予想外の展開が待ち受ける衝撃のサスペンス・ラブストーリー『マイ・フィクション』(毎週日曜よる10時15分〜、ABCテレビ・テレビ朝日系全国ネット)で、伊川の妻・真弓を演じている宮澤エマさんにインタビュー。前半では、一筋縄ではいかない構造の作品と役について、重要なテーマになっている“記憶”について聞きました。

©️ABCテレビ

――脚本を読んだ感想からお願いします。

キャストの皆さんおっしゃっているかと思いますが、とても複雑かつ洗練されたつくりなので、1話を読み終わった時点では全体像を把握することができませんでした。展開がとても面白いので、「どういうことなんだろう?」と読み進めていくと、記憶やそこにまつわる愛情といったキーワードがとても面白く感じられてきて、「ただサスペンスフルなだけではなくて、興味深いテーマを扱っているな」という印象を受けました。オリジナル脚本で挑んでいる素敵な作品に参加できて光栄です。

――1話では幸せな夫婦生活から一転、正樹が孤立無援状態になります。真弓の正樹に対する態度も豹変しました。

第1話は正樹目線で描かれているので、彼にとっての“天国と地獄”のような落差を出せたらいいなという意図はありました。当然、回を重ねるごとに「なぜそうなったのか」が徐々に明かされていき、伊川夫婦の関係性も話ごとに形を変えていきます。なので、1話では理想的な夫婦であるという印象をつけることを大事にしつつ、正樹が地獄に行ってからは「あんなにイチャイチャラブラブ幸せそうだったのに!」と全ツッコミされるような芝居を心がけました。

©️ABCテレビ

――真弓をどのようなキャラクターとして分析し、演じていますか?

いままでに演じたことのないキャラクターなので、現在進行形でとても難しいです。といいますのも、キャラクターをつくるときは、ある程度その人のバックグラウンドをいただいて、描かれていないところは自分で想像して演じます。ですが今回は冒頭から4話まで、彼女の本当の経歴というのがわからないんです。「幸せな結婚生活を送っている専業主婦の女性」ということ以外、台本上でキャラクターがないんですよね。なので、特に1話では敢えて、見ていて気持ち悪いくらいの幸せを演じられたら面白いのかなと思いました。そこから先の展開で、1話の冒頭からは想像できないような表情や喋り方、彼女の持っている芯の強さが出てきたらいいなと思っています。

――撮影も大変なのでは?

キャスト全員がそうだと思うのですが、「今、私のキャラクターは何をどれくらい知っているんだっけ?」ということを、常に確認し合いながらやっています。他の作品だったら、「こんなにわかっていないって、本を読めてない人みたいに思われるんじゃないかな」と、ちょっと躊躇しちゃうと思います(笑)。でもこの作品に関しては、描かれていない部分もあるので自分の中の解釈だけで進むのは危ないですし、先々の台本が最初は手元に来てなかったこともあるので、「私たちがわかっている範囲ではこういうことですよね」ということを、逐一確認しながらやっています。

私のキャラクターに特化して言うと、真弓はある“芝居”をしているキャラクターなので、真弓が周りに「こう見せたい」からしているお芝居の言動と、真弓の本当の感情や意思を確認することを、自分の中で怠らないようにして、何度も何度も台本を読み返しています。「展開上ではこう見えていて不自然だけれど、それがなぜかというと、真弓にはこういう事情があるからなんだよね」ということを、自分の中で整理をつけながら芝居をしています。

©️ABCテレビ

――最終話を読んで、どう思われましたか?

7話まで台本をいただいていた段階では、「すべての点と点が最終話だけで回収できるの?」と思っていたので、最終話を読んだときは「回収された!」と驚きました。ものすごい情報量ではあるんです。「普通、最終話でそんな新たな真実の発覚とかある?」というくらい、「そういうことだったんだ!」ということが次々とわかっていきます。それを踏まえた上で1話に立ち返ると、「ああ〜、なるほど!」となりました。

真弓に関しては、すごく強いキャラクターだったんだなと思いました。自分で決断を下し、迷うことなく前に進んでいく部分に潔さも感じます。でも、愛の形や、何が人にとって幸せなのかは、月並みですが人それぞれだなということを改めて実感するようなエンディングでした。それぞれが違う決断を下して現実と向き合っていくので、キャラクターによっては、「私はそれを幸せだとは思わないな」「そうじゃなくてもよかったんじゃないかな」と思うような結末も正直あります。でもそれも含めてリアルなんですよね。サイエンスフィクション的な「こんなことありえるの?」ということの連続の中に、現実味があるエンディングだなと思いました。

©️ABCテレビ

――今回は記憶が物語において重要な鍵になっています。宮澤さんにとって記憶とはどのようなものですか?

この作品に臨むにあたり、記憶を扱った作品として、『エターナル・サンシャイン』という映画を見返しました。「記憶を失ってもその人が求めるものや人は同じなのか」という問いかけや、「愛しているからこそ深く傷つけられるし、傷つけることができるけれど、その傷をもってして相手を愛せることほど尊いことはない」というメッセージを受け取りました。

『マイ・フィクション』で、あるキャラクターが他人の記憶を操作することが、神々の悪戯じゃないですが、私はとてもじゃないけれど許せないんです。記憶というものはその人にしか持ち得ないパーソナルなものですし、それをいじられてしまうことはアイデンティティーの喪失でもある。未来にそんな技術が誕生しないことを願いながらも、例えばPTSDのようなネガティブな記憶を消すことによってクオリティー・オブ・ライフを上げられるのであれば、それは素晴らしいことだなとも思います。

私自身は記憶が曖昧なことが多くて。同級生で、「あの時あの先生がああでさあ」みたいなことをなんでも覚えている人がいますが、私はそういうことを本当に覚えていないんです。記憶を保持できない側の人間として、忘れてしまうことを悲しいなと思いながらも、その分「今を色濃く生きていると思おう」と自分を慰めています(笑)。そんな中でも、「失いたくないな」と思うような、自己形成にとって大切な記憶は、繰り返しリプレイされるからこそ、強く脳に刻まれていくとも思うんですよね。記憶自体はその人のアイデンティティーにとって大事ですが、忘れられることも人間として大事な才能だなとも思います。忘れてしまうことそれ自体は悲しいけれど、忘れられるからこそ、悲しいことも乗り越えていける。この作品を通して、自分の記憶との向き合い方みたいなものは、考える時間が増えました。

©️ABCテレビ

(後編へ続く)

ドラマ『マイ・フィクション』は、ABCテレビ・テレビ朝日系列で毎週日曜夜10時15分放送。放送終了後、TVerで見逃し配信。

取材・文/須永貴子

撮影/土屋哲朗

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ