1. トップ
  2. エピソード
  3. 人混みで彼女の異変に気づいた俺が、何も言わずに手を引いてしまった話

人混みで彼女の異変に気づいた俺が、何も言わずに手を引いてしまった話

  • 2026.8.6
ハウコレ

ベンチに座った彼女の呼吸が整うまでの間、俺は水を買うことしかできませんでした。

怒らせた理由を打ち明けるのは、それからです。打ち上げの音に歓声が重なるたび、隣にいる彼女の相づちが少しずつ短くなっていきました。

先に気づいてしまった異変

半年前から彼女が楽しみにしていた花火大会でした。会場に着いた頃は、屋台を回る足取りも軽かったはずです。肩がぶつかるたびに顔をしかめていた自覚はあります。人混みが苦手なのは本当です。ただ、この日気になっていたのは自分のことではありませんでした。

屋台の明かりに照らされるたび、彼女の顔は来たときと別人のように白く見えます。「どうしたの」と聞かれて、「いや、なんでもない」と返したのは俺の方でした。確信のないまま騒がせたくなかったからです。

説明より先に体が動いた

周りは肩がぶつかるほどの人でした。何度も人波を目で追っていたのは、嫌気が差していたからではなく、彼女を連れて抜けられる道を探していたからです。ここで理由を伝えれば、彼女は大丈夫だと笑って残ろうとする。そう思った瞬間、説明より先に体が動きました。

「帰るぞ」返事を待たずに手首を引いて、人の少ない方へ抜けました。「人混みが嫌なら、最初から来なければよかったじゃない」背中にぶつかる声はもっともでした。それでも、あの場に立ち止まる方が怖かったのです。

ベンチで打ち明けた理由

救護所の近くのベンチに座らせて、自販機まで走りました。水を持って戻ると、彼女は自分の手のひらに視線を落として、呼吸を整えている途中でした。隣にしゃがんで、ようやく言えました。

「ごめん。顔、真っ青だったから」

彼女は目を丸くして、それから小さく息を吐きました。

そして...

「先に言ってよ」と言われて、「言っても、我慢して残るだろ」と返すのが精一杯でした。強引だった自覚はあります。翌年は土手の上から、2人で最後まで花火を見ました。隣の横顔を、今度は確かめるように見る必要がありませんでした。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ