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同級生に「もったいない」と言い放った私の手は、3年前からピアノに触れていなかった

  • 2026.5.8
ハウコレ

同窓会で再会した同級生に、つい口から出た一言。あの言葉は彼女ではなく、自分自身に向けたものだったのかもしれません。

鍵盤から離れた日

音大を卒業して、私は演奏の道に進みませんでした。在学中から薄々気づいていたのです。技術はあっても、舞台に立つたびに手が震える自分に、演奏家は務まらないと。卒業後は一般企業に就職し、ピアノは趣味で続けるつもりでした。でも忙しさを言い訳にしているうちに、気づけば3年以上鍵盤に触れていませんでした。部屋の隅に置いたピアノには、畳んだ洗濯物が積まれていました。

口をついた本音

卒業から8年後の同窓会で、同じゼミだった彼女がピアノ教室を開いていると聞きました。在学中、彼女の演奏は私より高く評価される場面が何度もありました。あの腕で、ピアノ教室。

「音大出たのにピアノ教室?もったいないね」。

「子どもたちに教えるの、楽しいよ」と穏やかに返す彼女に、「でもさ、あれだけ弾けたのに」と重ねてしまったのは、彼女を評価していたからではなく、自分を正当化したかったからだと思います。あれだけ弾ける人でも教室なのだから、ピアノをやめた自分の判断は間違っていなかった。そう思いたかったのです。

全国大会の知らせ

3カ月後、共通の知人のSNSで彼女の教え子が全国コンクールで入賞したと知りました。指導者として彼女の名前が添えられていて、教え子と並んで笑う写真がありました。目を逸らしたくなりました。彼女は音楽の中にいる。形は変わっても、ピアノとともに生きている。「生徒さんが全国大会で入賞したんだって?」とメッセージを送りました。そして「すごいじゃん。ちゃんと育ててるんだね」と続けたのは、本心でした。

そして...

あの日「もったいない」と言ったのは、彼女のことではありませんでした。本当にもったいないことをしたのは、音楽と生きる道がいくつもあったはずなのに、全部手放してしまった私のほうです。メッセージを送った夜、押し入れから古い楽譜を引っ張り出しました。埃を払って開いた1ページ目。指はもう覚えていないかもしれません。それでも、ここからならまだ始められるのかもしれないと、そっとページをめくりました。

(30代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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