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【ニューオープン連載】広尾で早くも話題に! 町中華店をDIYした「すず」で味わう、イタリアンベースの家庭料理

  • 2026.8.4
SHINTARO OKI

常に進化を続けている東京のレストランシーンの“今”をフードジャーナリストの佐々木ケイさんと高山裕美子さんが独自の視点で紹介する連載。個性派ぞろいのスペイン料理に続き、今回、ふたりが注目したのは居抜き物件をそれぞれのセンスで素敵に生まれ変わらせたレストラン。

1軒目は広尾に誕生した「すず」。ほっこりした雰囲気からは想像できない、本気の一皿とは?

Photo : SHINTARO OKI Editor : SATOKO UDA

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乾杯のおともは自家製ハムとぬか漬けから

「ほとんどのお客様がオーダーして下さる、『すず』のハッピーセットのような二皿です」

矢花すずさんがそう話すのは、自家製の「『すず』のぬか漬け」(¥900)と「『すず』のハム」(¥2,000)のことだ。ごく薄切りのぬか漬けは、塩気ひかえめのオリーブオイル仕上げで、サラダ感覚で食べられる。同席したパンのスペシャリストでもある編集者が、「これ、きっとパンにも合うよね」と話すのに大いに納得した。

見た目も美しく、りんごに新生姜を重ねるなど、ちょっとしたひと技にワインが進む。自家製ハムは、しっとりとした食感で、スライサーでの薄切りも食べ心地よくスターターに好適。粗挽きの黒胡椒の鮮烈な香りに、食欲も刺激される。

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町中華の面影を残す、ワンオペイタリア食堂

広尾商店街に馴染みがある人でも「こんなところに?」と驚く、細い路地の先の、また先。筆者も“広尾寄りの恵比寿”に10年暮らした元界隈住民だが、「すず」を訪れるまで踏み入れることがなかった住宅地だ。

真っ赤なテントが目印の店は、昭和の時代に地域で愛された大衆中華の建物をそのまま受け継いでいる。看板代わりの黒板には「自然派ワインと家庭料理」とだけ、店内でメニューを見て、料理の柱はイタリア料理だとわかる。季節野菜のアラビアータやクロスティーニ、イタリア産チーズを使ったマリネやサラダ、パスタ料理などなど。

カウンターわずか6席の店内に対してやたらと厨房が広い造り、高火力の厨房設備もそのまま、中華料理店の名残を感じる空間と料理のギャップが面白い。

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旬の食材を生かし、進化し続けるメニュー

2025年10月にオープンした頃は、予約不可、ウォークインのみで15時から店を開けていた。ロケーションの意外性やハコと料理のギャップに加え、独自の営業スタイルも話題を呼び、店はすぐに知る人ぞ知る、食通たちが「気になる」とウワサする話題店になった。

そんな話題性だけで消費されることなく、二度三度、足を運ぶファンの心をつかむのが、矢花さんの料理だ。冒頭のぬか漬けやハム、パスタ料理の定番に加え、旬の食材を生かした季節の一品のバリエーションも、どんどん豊かになっている。例えば「すだち鮎のコンフィ」(¥4,000)。徳島県産すだち鮎の豊かな香りに合わせ、定番のきゅうりに酸味のあるキウイを合わせたソースが秀逸。きゅうりとキウイって、ダジャレのようだが、完熟手前のキウイの青い香りがきゅうりの香りと層を成し、夏に嬉しい酸味もプラス。色彩と味わいのグラデーションが、丸ごと食せる鮎の香ばしいほろ苦さをいっそう味わい深くする。

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流されず、自分のペースで。令和の“細腕繁盛記”

人に教えたくなる“ネタ”が満載(東京の食いしん坊は“ネタ”が大好きなのだ)の「すず」だけれど、本当の強さは、この矢花さんの料理にある。

基礎がきちんとしていて、手間暇を惜しまず、でも余計なことはしない。シンプルで潔く、味がビシッ決まっている。上質な素材の、“いい顔”をきちんと引き出している。

話を聞けば、高校時代から料理の仕事を、店を持つことを志し、これまでの年月を重ねてきたという。銀座の老舗「三笠会館」のイタリアンで厨房仕事と技術の土台を学び、日本橋「ラ・ボンヌ・ターブル」でワインや接客の奥深さに触れ、食材の産地を知るべく宮崎に移住し、短期間だがブランド牛の生産者の下で働いたことも。小さな店に、考え抜かれた品書きに、これまでのすべてが詰まっている。

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潔い盛り付けまで“隙のない”味づくり

「ステークフリット」(¥5,500)は、開業時からの定番の一品。使用するのは、高知県産の土佐あか牛や、岩手県「柿木畜産」の短角牛など、トップシェフたちも指名買いするブランド牛で、火入れも美しい。

付け合わせのフリットも、じゃがいも(写真はキタアカリ)を店でねかせて甘みを引き出し、オーブンでローストしてから揚げているそう。ちなみにこの付け合わせは、メインまでの料理のチョイスに応じ、アレンジしてくれる(でもこのフリットを、食べないわけにはいかない……となるのだが)。

パスタの“スタメン”は「余市トマトのカレティエッラ」(¥3,000)。糖度の高い余市産のミニトマトを使用、フレッシュな甘みとソースの凝縮感の好バランスがワインによく合う。

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家族とのDIYが基本、“手仕事”の店づくり

店づくりは、残せるものは残し、家族の手を借りてDIYしたという。真っ赤なテントやサッシの引き戸は、中華料理店のときのまま。厨房にあった小窓を活用し、作家に依頼して半円のテーブルをつけ、立ち飲みのカウンターをしつらえた。

赤いテントとともに店の顔になっている白の暖簾や、店内の椅子に置かれたクッションは、洋裁上手なお母様のお手製。蛍光灯の光を遮る布使いは、お父様のアイデアなのだとか! タイルの壁は、店がオープンした暁の景色に胸を躍らせながら、矢花さんが自身の手で仕上げた。

ともすると“ほっこり”としがちな空気をきりっと引き締めるのが、カウンターに並ぶヴィンテージのジノリのコレクション、そして(繰り返しになるが)そこに盛り付けられ、供される料理だ。開業からしばらくして、一度来店したゲストに限り予約を取り始めた。

昼飲み歓迎、15時オープンはそのままに。秋の一周年に向け、料理も空間も少しずつアップデートしているよう。矢花さんという人そのもののような店は、まだまだ知らない魅力が隠れていそうだ。

SHINTARO OKI

すず
住所/東京都渋谷区広尾5-9-2 1F
営業時間/15:00~21:00LO
電話番号/非掲載
定休日/不定
Instagram/@suzu__592

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