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「お弁当食べよっか」美容室で堂々と食事を始めた親子に、私が言葉を失った瞬間

  • 2026.8.4

施術中に広がったお弁当

美容師として働いていた頃の話です。

その日は、小さなお子さんを二人連れたお母さんが、カットのご予約でいらっしゃいました。

お子さんたちは待つのに飽きたのか、店内をうろうろと落ち着きません。

お母さんは席に着き、鏡の前でケープを掛けたところでした。

「ママ、おなかすいた」

「はいはい、いま準備するからね」

そう言って、お母さんは足元の大きな鞄を、ごそごそと探り始めました。

取り出したのは、家庭でよく使うような、大きなお弁当箱です。

ふたを開けると、卵焼きやおにぎりが、ぎっしりと詰まっていました。

彩りも良く、朝から手をかけて作ってきたことがうかがえます。

「お弁当食べよっか」

そう言うと、お母さんは弁当箱を広げ、お子さんたちにも箸を手渡していきます。

「ほら、こぼさないように食べなさい」

「わたし、おにぎりがいい」

お子さんが食べるだけなら、まだ分かります。小さな子は待つのが辛いものですし、ご家庭それぞれの事情もあるでしょう。

けれど私が言葉を失ったのは、その後のことでした。

注意できずに固まった私

お子さんに続いて、お母さん自身も箸を取り、鏡の前で堂々とおかずをつまみ始めたのです。

髪を切る私のすぐ手元で、ごはんの匂いがふわりと立ちのぼります。

切った髪がお弁当に落ちてしまわないか、私は気が気ではありませんでした。

「すみません、少しだけ手を止めましょうか」

私にできたのは、せいぜいそう声をかけることくらいでした。

うちの店では、お客様にドリンクや小さなお菓子をお出ししています。

だからこそ「店内でのお召し上がりはご遠慮ください」とは、どうしても言い出せなかったのです。

「大丈夫、気にしないで続けて」

そう言われてしまうと、もう二の句が継げません。

私は曖昧にうなずき、鏡の中のお客様から視線を外して、また手元の髪に集中するふりをしました。

お母さんはこちらを見上げて、にっこりと笑います。悪気はまるでなく、むしろ気をつかわせて悪いとでも言いたげな様子でした。

「ごちそうさま。おいしかったね」

食べ終えたお子さんたちの声を聞きながら、私はただ、はさみを動かし続けました。

弁当箱が鞄にしまわれるまで、その気まずさはずっと胸の底に残っていたのです。

美容室で、お弁当を広げて食事をする。その光景を、私はあの日初めて目にしました。

いけないと言葉にできないまま手だけを動かしていた自分を、今でもふと思い出すのです。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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