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18歳の声がみずみずしい!30年前、のちに時代を代表する「始まりの曲」がいま聴くとまたエモい

  • 2026.8.23
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1999年7月、自身の写真集「buffo」出版記念で初の握手会をおこなった持田香織(C)SANKEI

レンタルCD店の新譜の棚は、週が替わるたびに顔ぶれを変えていた。聴き切れないほどの新曲が次々に届き、気になる一枚をようやく聴き込むころには、もう次の一枚が並んでいる。1990年代後半のJ-POPは、そんな奔流のただなかにあった。その流れのなかで、ひときわ静かに始まった一枚がある。

Every Little Thing『Feel My Heart』(作詞・作曲:五十嵐充)ーー1996年8月7日発売

のちに時代を代表するユニットとなるEvery Little Thingの歴史は、すべてこの8cmCDから始まった。

鳴りもの入りではない船出

1996年8月7日、Every Little Thingはこのデビューシングルで歩み出した。収録曲の作詞・作曲・編曲はすべて五十嵐充。キーボーディストでありプロデューサーである五十嵐が音の設計図を描き、持田香織が歌う。ユニットの骨格は、最初の一枚からすでに出来上がっていた。

デビュー曲でありながら、派手な仕掛けで耳目を集めるのではなく、曲そのものの完成度で静かに勝負する構えが、この一枚には貫かれている。シンセサイザーを軸にした音像は涼しく、ビートは軽やかに前へ進む。熱で押し切るダンスミュージックとは少し違う、風通しのいいデジタルポップだ。

新曲の奔流が季節を塗り替えていた

この曲が世に出た1996年は、CDがもっとも元気だった時代のまっただなかにある。毎週のように強力な新曲が発売され、ヒットチャートの顔ぶれは目まぐるしく入れ替わる。CMやドラマと結びついた曲が次々に生まれ、リスナーは追いかけるだけで精いっぱいだった。

ダンスミュージックが勢いの頂点にあった時代である。デビューしたばかりのユニットの一枚など、油断すればあっという間に埋もれてしまう環境だった。

『Feel My Heart』は、その奔流のなかで慌てなかった。時代の流行に寄りかかるのでもなく、大きな話題で先回りするのでもなく、メロディと声の質感だけで少しずつ聴き手を増やしていくタイプの曲だった。Every Little Thingの名が広く知れわたるのは翌1997年以降のことで、この時点ではまだ、新人ユニットのひとつにすぎない。けれど、だからこそこの曲には、ブレイク前夜にしか鳴らせない音が閉じ込められている。

語尾を手放す声だけが持つ体温

この曲の核心は、当時18歳だった持田香織の声にある。後年の、言葉のすみずみまで表情を行き渡らせる歌い方を知っている耳で聴き直すと、その違いに驚くはずだ。

ここでの持田は、語尾をほとんど伸ばさない。フレーズの終わりで感情を溜めず、すっと音を手放してしまう。声を張り上げる場面はなく、言葉はどこか機械のように等間隔で置かれていく。ハスキーな声質もあいまって、歌というより、耳もとで淡々と話しかけられているような距離感がある。

歌い上げないことは、この曲では未熟さではなく様式に聴こえる。感情を声で説明しない歌だからこそ、聴き手は自分の感情を差し込む余白を与えられる。素っ気ないのに、なぜか何度も再生してしまう理由は、たぶんそこにある。

それなのに、冷たくない。あどけなさと素っ気なさが同居した声がシンセサイザーの硬質な音色のなかに置かれると、体温のない音の風景にたったひとつの体温として浮かび上がってくる。五十嵐が組み上げたデジタルの音像は、この声の質感まで計算に入れて設計されたと言いたくなるほど、声との相性がいい。電子音は声を包み、声は電子音に人肌を与える。

この歌い方は、長くは続かなかったように思える。後年の曲を並べて聴くと、持田の歌はやわらかく、表情豊かに変わっていったと感じる。それは成熟であり、進化でもあるのだろう。ただ、だからこそこの曲に刻まれているのは、後年のEvery Little Thingをどれだけ聴き込んでも二度と出会えない、18歳の一瞬の声なのだ。デビュー曲が最高傑作だと言いたいのではない。ここにしかない質感がある、と言いたいのだ。

原点をいちばん新しい耳で聴き直す

2026年8月7日、デビューからちょうど30年を迎えた当日に、Every Little Thingの公式30周年特設サイトが開設され、「My ELT Memories」と題した企画が始まった。数々のヒット曲を持つユニットが、歴史を振り返る起点に据えるのは、やはりこの『Feel My Heart』である。

30年分の名曲を知ったうえで、あらためて最初の一枚に戻る。すると、荒削りどころか、驚くほど完成された世界がそこにあることに気づく。始まりの曲は、その後の歩みを知った耳で戻ってきたときに、いちばん遠くまで響く。そんな確信めいた感触を、この曲は運んでくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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