1. トップ
  2. エンタメ
  3. 35年前、伝説の少女が歌った2枚目 B面は伝説の名バラードを生み出したあのコンビだった

35年前、伝説の少女が歌った2枚目 B面は伝説の名バラードを生み出したあのコンビだった

  • 2026.8.17
undefined
観月ありさ-1990年12月撮影(C)SANKEI

ロックバンドの熱がテレビの向こうから茶の間に届き、ギターの音が歌謡曲のあいだに割り込んでくる。ブームの中でヒットを重ねていったバンドマンたちが、外部へ楽曲を提供する動きが増えていた。そんな空気が街を満たしていた頃、まだデビューして間もない一人の少女が、2枚目のシングルを世に送り出そうとしていた。

観月ありさ『エデンの都市』(作詞:田口俊/作曲:奥居香)ーー1991年8月28日発売

女優として顔が知られはじめていた14歳の観月ありさにとって、この曲は1st『伝説の少女』からわずか3か月ほどでの2作目にあたる。デビューしたばかりの歌い手に、次の一枚として託されたのが、意外な書き手による楽曲だった。曲名を見ただけでは気づかれにくいが、クレジットを開いた瞬間に、多くの人がおや、と手を止めることになる。

現役バンドの顔が外へ曲を手渡す

作曲は奥居香。当時プリンセス プリンセスのボーカル・ギターとして最前線に立っていたソングライターその人だ。バンドの顔としていくつも曲を書き、ステージで歌っていた人物が、10代の女優の一枚に曲を書き下ろしている。書き手の名前を伏せて聴かせても、耳の良いリスナーなら気づく。そういう手触りを持つメロディが、この曲には確かにある。

聴けば、なるほどと手が止まる瞬間がある。サビへ向かうメロディの運びに、勢いを溜めてから一気に解き放つような呼吸がある。歌謡曲的な起伏の付け方とは少し違う、バンドの現場で磨かれた節回しの気配が、随所に顔をのぞかせる。イントロからAメロにかけての入り方も、様子見の助走にとどまらず、最初の数小節から芯のある響きで進んでいく。

音の広がり方にも、丁寧に組まれた設計を感じる。声を追いかけるように鳴る伴奏は、控えめに徹するのではなく、きちんと存在感を持って歌を支える。ロックバンドの現場で鍛えられた耳が、アイドル歌謡の枠のなかで新しい呼吸を探っている。そんな手つきが伝わってくる一曲だ。

奥居香という書き手の個性は、激しさだけではない。メロディの端々に、丁寧に整えられた叙情がにじむ。サビに至る手前の一節では、勢いを急いで解き放たず、いったん抑えてから伸びていく。その溜めの作り方に、バンド活動のなかで磨かれてきた計算の細やかさが表れている。バンドの最前線に立つ人間が持つ、もう一つの繊細な顔が、この曲には確かに刻まれている。

アイドル歌謡の枠に収まりながら、どこか一本芯の通った強さを持つ。それは、書き手がロックバンドの現場で培ってきた、聴き手を逃さないメロディの作法が、そのまま持ち込まれているからにほかならない。

受け取ったメロディを声で組み直す

主役は、あくまで観月ありさの声だ。まだ10代半ばの歌声でありながら、サビでは思いきって前へ踏み出す強さがある。かといって力任せに張り上げるのではなく、フレーズの終わりをすっと収める呼吸の良さが、聴き手の耳を離さない。

デビューから半年に満たない時期の歌唱でありながら、音程の運びに迷いが少ない。与えられたメロディの起伏を、自分のものとして歌いこなしている印象を受ける。作り手が用意した曲の骨格に、若い歌い手自身の温度が重なり、一つの完成形になっている。バンドの現場仕込みのメロディを、ロックとは縁の薄い10代の歌い手が受け止め、自分の声の質感でもう一度組み立て直す。その受け渡しの過程こそが、この曲の聴きどころだ。

歌詞は、まだ見ぬ理想郷を思わせる「エデン」という言葉を軸に、若い日の心の揺れを描く。難しい言葉を使わず、まっすぐな言葉づかいで綴られた世界観が、10代の歌い手の声とよく合っている。なお「都市」は「まち」と読む。

背伸びをしすぎない歌詞の温度が、観月ありさという歌い手の等身大の説得力を支えている。声を張るところと、力を抜くところの切り替えが自然で、聴き終えたあとに硬さが残らない。まだキャリアの浅い歌い手の一枚とは思えない落ち着きが、この曲全体に漂っている。

両面に潜んでいたバンドの気配

カップリングの『風は吹いてる』は、奥居香がメロディを書き、作詞を富田京子が手掛けている。プリンセス プリンセスのドラマーとして知られる人物だ。この組み合わせはプリプリの名曲『M』と同じ組み合わせなのだ。表題曲とあわせて見ると、このシングル一枚がバンドのメンバーたちの手によって支えられていたことがわかる。一人の歌い手のために、バンドの側から複数の手が差し伸べられていた。表と裏の両面にバンドの気配が息づく、珍しい一枚といえる。

35年が経ったいま聴き直すと、当時は気づかれにくかった座組の面白さが、はっきりと浮かび上がってくる。バンドの現場で鍛えられたメロディが、10代の歌い手の声を通して、まったく別の輪郭を持って響いている。派手な仕掛けではなく、書き手と歌い手それぞれの誠実な仕事が重なった結果として、この曲はいまも静かに聴く者を引き寄せる。クレジットを知ってから聴き直すと、一つの曲のなかに二つの現場の呼吸が同居していたことに、あらためて気づかされる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

の記事をもっとみる

注目コンテンツ