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35年前、社名を歌ったのに広告で終わらなかった 「旅の高揚」を看板ごと歌いきった夏ウタ

  • 2026.8.16
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当時のJALのロゴ-1997年4月撮影(C)SANKEI

滑走路の先で、陽炎が空気ごと揺れて見える。エンジンが低く唸りを上げ、翼の下から夏の熱気がそのまま吹きつけてくる。搭乗口の窓越しに見える機体の白と、機首にひとひらの赤。旅立つ者の胸を、その意匠がひとつ弾ませる。

KATSUMI『It's my JAL』(作詞:渡辺克巳/作曲:鈴木キサブロー)ーー1991年6月25日発売

この曲名には、航空会社「JAL」の名前がそのまま入っている。CMソングとして生まれた曲は数あれど、社名をまるごとタイトルに背負ったリリースという発想は、当時としても思い切った選択だった。

企業名がそのままシングルの曲名に

曲名に企業の名前をそのまま持ち込む例が、まったくなかったわけではない。それでも、ブランド名を丸ごと曲名に乗せる形は、当時のポップスの作法としては一線を画していた。KATSUMIの『It's my JAL』は、航空会社の名前そのものを歌のタイトルに据えている。宣伝文句の見出しのようでいて、堂々とひとつの曲として成立してしまう強さを持つ。

ラジオやテレビから流れてくるとき、聴き手はまずタイトルの奇妙さに引っかかる。それでも歌が終わるころには、社名は旋律の一部として耳に残っている。CMソングという枠組みを、そのまま曲名で乗り越えてしまった一曲だ。

普通、企業の名前が曲に入り込むときは、サビの一節や歌詞の片隅にそっと忍ばせるものだ。前面に出しすぎれば宣伝色が強くなりすぎ、一曲の作品としての体裁を崩しかねない。だからこそ、多くのCMソングは企業名を伏せ、テーマや気分だけを歌にする道を選ぶ。タイトルの一番目立つ場所に社名を置いてしまうのは、その常識をあえて外れる決断だったはずだ。

空を旅の高揚感で満たす役目

1991年の夏、海外への旅も国内の空の便も、若い世代の選択肢のひとつとして根づきつつあった。海辺のリゾート、離島の青い水、機内から見下ろす雲の切れ間。旅の予感を歌詞に溶かし込みながら、企業のCMとしての機能もきちんと果たす。そのバランスの上に、この曲は立っている。

夏という季節そのものが、空港という場所と結びついていた時代でもある。機体が滑走路を蹴って浮き上がる瞬間の感覚は、当時の旅の主題歌に共通する高揚だった。その空気を、企業名を看板にしたこの曲は正面から引き受けている。

旅行代理店のパンフレットが分厚さを増し、夏休みの計画に「飛行機に乗る」という一行が当たり前に加わっていく。そんな時期に、航空会社は乗客の目的地としてだけでなく、旅そのものの気分を代弁する存在になろうとしていた。曲のなかで繰り返される軽やかなリフレインは、パンフレットの写真より先に、耳から旅の予感を運んでくる役目を担っていたのだろう。

力まず伸びる声が広告色を歌に変える

作詞を手がけたのは、KATSUMI自身だった。渡辺克巳という本名の表記でクレジットされたその筆致は、企業の依頼で書く歌詞でありながら、借り物の言葉には見えない。自分の声で歌う言葉を、自分の手で選んでいる感触がある。

歌声そのものにも、その姿勢がにじむ。鈴木キサブローによるメロディをKATSUMIの声は無理に力むことなく、まっすぐ空へ抜けていくように伸ばしていく。旅立ちの高揚を歌う曲として、素直に似合う歌い口だ、と感じる。

サビで音域が上がっても、声の芯は崩れない。むしろ、上がるほどに軽さが増していくような感触がある。CMという短い枠のなかで人の耳を捉えるには、この抜けの良さが効いたはずだ。編曲も、その声を邪魔せず、旅立つ足取りを軽くする方向に音を寄せている。

企業の名前を歌のタイトルに掲げるという選択は、歌い手にとっても覚悟のいる仕事だったはずだ。宣伝の言葉に埋もれず、ひとつの歌として立たせるには、声そのものの説得力が要る。KATSUMIの伸びやかな歌唱は、その要求にまっすぐ応えている。

歌い出しは抑えた声量から始まり、サビへ近づくにつれて少しずつ体温が上がっていく。その積み上げ方が丁寧なぶん、頂点で伸びる高音が唐突に感じられない。むしろ、機体がゆっくり滑走路を離れていくときの加速感と、声の上がり方が重なって聴こえてくる。企業名という重い言葉を背負ったタイトルを、歌声のなめらかな上昇が軽やかに押し上げている。

看板の重さを軽さで運び切った夏

曲が生まれてから35年が経った。JALという名前は、その間に幾度となくロゴやイメージを塗り替えながら、それでも路線図の上に残り続けている。企業の依頼で書かれた一曲もまた、CMの枠を離れてなお、夏の滑走路の匂いをそのまま抱えたまま存在している。

社名を丸ごと曲名に背負うという選択は、一歩間違えば宣伝文句で終わっていたかもしれない。それでも、KATSUMIの声とメロディがその名前をひとつの歌として成立させてしまった。看板を背負った重さを、歌声の軽さが最後まで裏切らずに運びきっている。

旅立ちの高揚を、企業の看板ごと歌い切った35年前の夏の一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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