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「あーさーくーらー!」誕生から30年。ドジ看護師コメディを変えた演技の工夫とは?

  • 2026.8.29
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2000年2月、フジテレビ「ナースのお仕事」シリーズで会見に応じる松下由樹(左)と観月ありさ(C)SANKEI

「朝倉」という苗字を見ただけで、少し低く、たっぷり間を取った「あーさーくーらー!」が聞こえてくる。『ナースのお仕事』が放送から30年を経ても愛される理由は、ドジな新米ナースを叱る先輩という構図だけにあるのではない。同じ叱責を単調さへ向かわせず、観月ありさと松下由樹が毎回違う掛け合いへ変えた。その演技の工夫が、ひと声で作品全体を呼び戻すほど強い記憶を作ったのだ。

失敗の向こうに育った信頼

フジテレビ系で1996年7月から放送された第1シリーズは、全13話のコメディー作品だった。観月ありさが演じたのは新米ナースの朝倉いずみ、松下由樹が演じたのは先輩ナースの尾崎翔子。朝倉は初日から遅刻し、その後も不注意による失敗を重ねていく。

病院という緊張感のある場所で次々と騒動を起こす朝倉に、尾崎が声を上げる。今あらためて見ると、朝倉の危なっかしさに「それはまずい」とはらはらする場面もあるだろう。けれど、そこで現在の感覚から作品を断罪するだけでは、あの頃、朝倉を心配しながらも笑って見ていた気持ちはこぼれ落ちてしまう。

失敗して叱られ、それでもまた前を向く。そんな朝倉を尾崎は放っておけない。失敗の連続の向こうでは、2人の間に少しずつ信頼関係が育っていく。視聴者が笑っていたのは、失敗そのものよりも、ぶつかるたびに距離を縮めていく2人の関係だったのだ。

叱責を笑いに変えた2人の呼吸

あの名ぜりふは、最初から台本に完成形が書かれていたわけではない。台本上は通常の「朝倉!」。繰り返される叱責がただ怖いだけの場面にならないよう、松下由樹が言い方を変化させる中から「あーさーくーらー!」は生まれた。

毎回同じ調子で怒れば、尾崎は怖い先輩になり、場面も単調になってしまう。そこで松下は、怒り方に複数のパターンを持たせた。名前を長く伸ばす言い方は、その工夫の中で磨かれたものだった。

もちろん、松下の声だけで掛け合いは完成しない。叱られた観月がどう驚き、どう受け止め、どう返すか。そのリアクションがあったから、尾崎の怒りは恐怖ではなく、次に何が返ってくるのかを待ちたくなるコメディーの合図になった。片方が発し、もう片方が受ける。その呼吸が、2人にしか作れない場面へ変えたのだ。

同じ名前を呼んでいるのに、そこには呆れも焦りも、「またやったのね」という親しみもにじむ。視聴者は尾崎が怒鳴ることを知っていて、それでも今度はどんな「朝倉!」が飛び出すのかを待つことができた。反復を飽きさせない仕掛けが、そのまま2人の信頼を感じ取る手がかりにもなっていたのである。

時を重ねても鮮やかな名コンビ

『ナースのお仕事』は第1シリーズだけで終わらず、4シーズンに広がり、映画も制作された。朝倉と尾崎の関係は、2014年の「離島編」「再会編」にも続いた。観月ありさが朝倉いずみを、松下由樹が尾崎翔子を再び演じたことは、この2人の掛け合いこそ作品の核だったとあらためて感じさせる。

そして2026年、観月は歌手デビュー35周年を迎えた。8月には、1991年の富士フイルム「フジカラー SUPER HG400」CMのオフショットをInstagramで公開している。一方の松下は、9月に新橋演舞場で上演予定の舞台『リア王』にゴネリル役で出演する。2人がそれぞれ歩みを重ねる現在から振り返るほど、あの若い朝倉と厳しくも温かい尾崎の時間は鮮やかになるのだ。

苗字だけで声がよみがえる

SNSに寄せられた「ナースのお仕事懐かしい」という声には、作品名以上の記憶が詰まっている。そこへ「看護師は「あさくらー!?」じゃないの?」という声が重なると、ドジを重ねる朝倉の表情に続いて尾崎の声まで聞こえてくる。なかでも「あーさーくーらー!」は、説明を添えなくても2人の立ち位置と場面の温度まで運んでくる。

それは流行した言葉を覚えているというだけではない。松下が叱り方を工夫し、観月が全身で受け止めた、その往復ごと記憶されているということだ。30年後も「朝倉」の二文字から声が再生される。ひと声を思い出すたび、2人の掛け合いまで鮮やかに戻ってくる。『ナースのお仕事』の懐かしさは、2人が作った呼吸の中に今も生きているのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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