1. トップ
  2. にっぽん遺産 奇跡の温泉 第3回

にっぽん遺産 奇跡の温泉 第3回

  • 2026.7.28

歌人、小説家、実業家。加えて宿に精通し、温泉ソムリエの資格も持つ小佐野彈氏は「ライフスタイルの変化、社会の変化とともに、温泉も変化している」という。新たな出湯の楽しみをもたらす進化系温泉の魅力を小佐野氏が説き明かす。


短期湯治が叶う。新しいスタイルの「シン・温泉」誕生(文・小佐野彈)

湯河原温泉「万葉の里 白雲荘」の貸切風呂。

僕たちのライフスタイルは、日々めまぐるしく変化している。コロナ禍以降は、社会の変化も顕著だ。

志賀直哉や島崎藤村の時代は、温泉に2週間や1カ月といった単位で逗留するのが主流だった。いっぽう、現代人の生活はすこぶる忙しい。「肩こりと腰痛につき温泉療養をしたいので2週間休みます」と上司に申し出たら、一笑に付されるのがオチだ。今日の日本で、昔日のような長期の湯治はむずかしい。

ただ、社会の変化とともに、温泉も変化し、進化している。ボーリング等掘削技術の発達や地質学の発展に伴い新しい温泉が多く発見された。都心や首都圏で天然温泉施設を見かけることも珍しくなくなった。旧来の温泉地においても、キャンプ場を併設した湯処やグランピングを楽しめる温泉施設、あるいはコワーキングスペースを設けたワーケーション型の温泉宿など、新しい滞在スタイルを提供する施設が増えている。

環境省は「チーム 新・湯治」という取り組みを実施している。報告によれば都市近郊の温泉への「通い湯治」やウェルネス・プログラムと組み合わせた2泊3日程度の短期湯治でも、心身にさまざまな好影響があることがわかったらしい。

昨今、温泉地に若者や外国人の姿が格段に増えた。マナーが問題視されることもあるが、僕が見ている限り、大多数の若者や外国人は入浴前にしっかり体を洗うし、いきなり浴槽にドボンと飛び込むようなことはない。

いまや日本の温泉は、国籍やジェンダー、あるいは年齢や人種を超えて、あらゆる人々の心身を癒やす、グローバルな公共財(コモンズ)となりつつある。

北軽井沢「かくれの湯」の露天風呂。湯船脇のテラスには源泉直結のシャワーが並ぶ。

万葉の里 白雲荘(神奈川県)

湯河原温泉の渓流沿いに旅館・白雲荘は建つ。

「日本最古の古湯の一つ湯河原にありながらお風呂のスタイルが新しい。大浴場は循環、部屋は掛け流しという珍しいタイプです。

貸切風呂もラグジュアリー」と小佐野氏。

滞在のスタイルも画期的だという。

「特筆すべきは朝ご飯に起こされないこと。11時にチェックアウトした後、朝ご飯をブランチとしていただくこともできます」

客室「漱石」。源泉掛け流しの露天風呂と内湯、窓付サウナ、シャワールームを完備。
大浴場。「湯河原のお湯は傷の修復や細胞の活性、保湿と保温に優れる」と小佐野氏。
総支配人の西岡孝氏は「変化を厭わず、100年後も残る旅館を目指しています」と話す。
客室では日本の伝統美を活かしつつ、シモンズ社製の寝具などを導入し快適さも追求。

温泉グランピング シマブルー(群馬県)

ホテル級の施設やサービスを野外で享受する新たなキャンプスタイル「グランピング」。

コロナ禍以降、注目度を高める宿泊施設だ。

小佐野氏は「ここシマブルーではグランピングをしながら温泉も楽しめる。

それぞれ客室に専用の露天風呂があり名湯を贅沢に掛け流しています」と説く。

国立公園内にあるため野生の趣も深く湯煙の向こうには森の動物も現れるという。

敷地内には離れ形式の客室7棟が点在。部屋や露天風呂の設計は各棟ごとに異なる。
貸切専用「森のサウナ」。本格的なロウリュサウナや外気浴、水風呂を体験できる。

かくれの湯(群馬県)

北軽井沢の林野に佇む「かくれの湯」はキャンプ場を併設する日帰り温泉施設だ。

「併設系の温泉ながら、素晴らしい泉質で非常に成分の濃い炭酸水素塩泉。そのお湯を湯船脇の川まで掛け流し、シャワーも温泉。

秘湯でありつつ、施設は驚くほど充実し内湯もいいです」と小佐野氏は推す。

敷地内では現在、今春のオープンに向け宿泊用コテージの建設が進められている。

2カ所に露天と内風呂をともに設けるほか貸切風呂も。源泉は敷地に湧く御所平温泉。

宮前平源泉 湯けむりの庄(神奈川県)

「温泉は最近、街中にもあります」と小佐野氏。

自らも通うという川崎市の「湯けむりの庄」は駅も至近な高級日帰り天然温泉施設。敷地内に源泉があり掛け流しの露天風呂を始め、多彩な風呂を完備する。

「温泉は湧出量が多く、ものすごく濃厚。お肌に良い成分が全部入っています。アロマセラピーやマッサージの質も高くお食事もおいしい。大人が楽しめる日帰り温泉ですね」

屋外に広がる風呂にも黒褐色の源泉を掛け流す。泉質はナトリウム-炭酸水素塩温泉。
6種類をそろえる岩盤浴施設は関東最大級。他に女性限定の施設も。
駅より徒歩4分という立地にも関わらずリゾートのような趣も漂う。

※初出:文藝春秋 2023年3月号
※記載内容は変更されている場合もあります

冒頭文=小佐野彈
取材=上保雅美
写真=佐藤 亘

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ