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「降りる人が通れない」電車のドアの前でつり革を両手で握る乗客。微動だにしない姿に感じた本音

  • 2026.7.29
「降りる人が通れない」電車のドアの前でつり革を両手で握る乗客。微動だにしない姿に感じた本音

扉が開いても動かない背中

その朝も、いつもの時間の電車に乗りました。

扉が開いて車内に入ると、すぐ目の前に、大きなリュックを背負った女性の背中がありました。

両腕を高く上げて、つり革を2つとも握っています。

体操の吊り輪にぶら下がる選手のような格好でした。

おかしいのは、立っている場所が乗り降りする扉の真ん前だということです。

背中のすぐ後ろで扉が開き、人が出たり入ったりしているのに、彼女はまったく動きません。

降りる人は、彼女の左右の脇をすり抜けるようにして、体を横にしてホームへ出ていきます。

「すみません」

そう言って通り抜けた人もいましたが、彼女は振り返りもしませんでした。

ホームで二列に並んでいた乗る側の人たちは、彼女を分かれ道にして、Yの字に左右へ散っていきます。

誰も声を荒げません。文句も出ません。みんな黙って、彼女を避けて流れていくだけでした。

私は三つ先の駅で降りました。扉が閉まるとき、もう一度だけ振り返ります。

同じ姿勢のままの彼女を乗せて、電車は走り去っていきました。

数日後、また同じ扉の前に

その人のことは、その日のうちに忘れるつもりでいたのです。

数日後の朝、乗り込んだ車両で、また同じ背中を見ました。

同じリュック、同じ位置、両手でつり革を握った同じ格好です。人違いではありません。

その日は降りる人の流れがつかえて、扉のところで人が固まりました。

後ろに立っていた男性が、静かに声をかけます。

「降りる人が通れない」

怒鳴ってはいませんでした。むしろ、こちらが申し訳なくなるくらい穏やかな声でした。

彼女は答えませんでした。首も動かしません。男性はそれ以上何も言わず、次の駅で降りていきました。

何か月経っても、答えは出ない

またしばらくして、彼女を見かけました。

その日は反対側の扉に背中をつけて、寄りかかるように立っていたのです。そして、上目づかいでこちらを見ていました。

目が合ったのは、ほんの一秒ほどだったと思います。家に帰ってから、娘に話してみました。

「毎朝じゃないのよ。忘れた頃に、必ずいるの」

「気にしすぎじゃないの」

娘はそう言って笑いましたが、私は笑えませんでした。

そして今朝、また会ったのです。

両腕を上げてつり革を握り、扉の真ん中で、まっすぐ前を向いて立っていました。

何か月も前と、少しも変わらない格好で。

私は乗るのをやめました。扉が閉まり、その背中はまた、同じ姿勢のまま運ばれていきます。

次の電車が来るまで、白い線の内側から足が動きませんでした。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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