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お盆明けの交差点で右折車と接触した60代男性→「信号は青でした」の証明にドライブレコーダーが使えなかった“理由”

  • 2026.8.21
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「信号は青でした。間違いありません」

お盆の帰省ラッシュも過ぎ、夏の暑さが和らぎ始めた頃の夕方でした。信号機のある交差点で、直進していた契約者のAさん(60代・男性)の車に、対向車線から右折してきたBさん(40代・男性)の車が接触しました。

Aさんの車には、ドライブレコーダーが取り付けられていました。

「信号の色で言い分が食い違っても、映像を確認すれば済む話」

そう思われる方も多いのではないでしょうか。Aさんも、そう考えていたといいます。しかしAさんの車には、事故の映像が残っていませんでした。

今回ご紹介するのは、損害保険会社で私が担当した事故のお話です。

青か、黄色か

Aさんの言い分は、はっきりしていました。

「信号は青でした。間違いありません」

一方、Bさんの説明は違います。

「交差点に入ったときには、もう黄色に変わっていました」

Bさんは交差点の中央で待っていたわけではなく、進入してそのまま右折していました。

この交差点は、時差式でも、右折の矢印があるわけでもありません。双方の信号が同時に変わる方式です。片方が青で、もう片方が黄色ということは起こりません。

つまり、二人のどちらかが間違っているということになります。争点は、Aさんが進入した時点の信号が青だったのか、黄色だったのか。その一点に絞られました。

Aさんの過失は、2割か4割か

争点が絞られたところで、Aさんに一つ、お伝えしなければならないことがありました。信号の色によって、Aさんの負担そのものが変わるということです。

交差点で右折する車は、直進しようとする車の進行を妨げてはならないと定められています(道路交通法第37条)。そのため右直事故では、右折車の過失が大きくなるのが基本的な考え方です。

双方が青信号で進入した場合、基本の割合は直進車2:右折車8(Aさん:Bさん)とされています。

一方、双方が黄信号で進入した場合は、直進車4:右折車6(Aさん:Bさん)が基本となります。黄信号では停止することが原則とされているため、あえて進入した直進車の側の責任も大きくなる、という考え方によるものです。

いずれの場合も、右折車の過失が大きい点は変わりません。しかしAさんからすれば、青か黄色かで、負担が2割になるか4割になるかが分かれることになります。

「フォルダの中が空なんです」

Aさんに、ドライブレコーダーの映像を確認していただくことにしました。数日後、Aさんから連絡が入ります。

「パソコンにカードを差してみたのですが、フォルダの中が空なんです。事故の日どころか、ファイルが一つもありません」

1日分も残っていない、ということです。私はAさんに、本体のランプが点いているかを確認していただきました。

「消えています。ボタンを押しても、何も反応がありません」

電源が入っていないことになります。続けて、取り付けたときの状況を伺いました。

Aさんはドライブレコーダーを自身で取り付けており、電源はシガーソケットから取っていたそうです。そこを見ていただくと、ソケットが外れていました。

「ずっと録れているものだと思っていました」

Aさんは、そう話します。

多くの機種では、電源が入れば動作ランプが点灯します。裏を返せば、電源が入っているかどうかは見れば分かるということです。Aさんの車も、フロントガラスの上部に目を向ければ、確認できる状態にありました。

Aさんに確認したところ、取り付けてから一度も本体に目を向けたことはなかったそうです。

「付けたのだから録れている。そう思っていました」

「録れている」は、Aさんの思い込みでした。そしてその思い込みが崩れたのは、映像が必要になったあとです。必要だったのは事故の数秒間だけでしたが、その数秒を撮り直すことは誰にもできません。

取り付けてはいた。しかし結果的に、「備えていた」とはいえない状態だったのです。

立証できないまま、協議は長引いた

一方、Bさんの側にも記録は残っていませんでした。周囲に目撃者もおらず、信号の色を確認できる材料は、どこからも見つかりません。

Aさんは2:8を主張しきれず、Bさんも4:6を主張しきれない。

基本の過失割合は、事故の状況が確定していることを前提に用いられるものです。信号の色が確定しない以上、今回のケースでは、どちらの基準を適用するか決められません。

結果として、2:8と4:6のいずれかを当てはめるのではなく、その間で折り合いをつける形で協議を進めることになります。双方とも譲れない主張があるため、合意に至るまでには相応の時間を要しました。

「録れていると思っていたので、まさかこんなことになるとは思いませんでした」

Aさんは、そう話しました。記録さえ残っていれば、早い段階で決着していた可能性があります。

記録を絶やさないために、できること

同じことを避けるために、できることが2つあります。

1つ目は、取り付けた後に、実際に録画されているかを確認することです。

ドライブレコーダーは、取り付けただけで役割を果たすものではありません。特に自身で取り付けた場合は、電源の差し込み部分に緩みがないかを見たうえで、映像を再生するところまで済ませておきたいところです。取り付けに不安があれば、販売店や専門店に相談する方法もあります。

2つ目は、定期的に映像を再生する習慣を持つことです。

本体のランプが点いていても、記録が正常に残っているとは限りません。SDカードの劣化やエラーによって記録されないこともあるため、給油や洗車のタイミングなど、区切りを決めて再生してみることで、異常に早く気づくことができます。

「付けていること」は、「記録されていること」ではない

ドライブレコーダーを付けていること。記録が残っていること。この2つは、同じではありません。

Aさんが満たしていたのは、前者だけでした。そしてAさんに起きたのは、特別なことではありません。

「付けたのだから動いている」

そう思い込むこと自体は、誰にでもあることです。思い込みを正せるのは、確認だけです。Aさんの場合も、フロントガラスの上部へ目線を上げていれば、少なくとも電源が入っていないことには気づけました。

車に乗り込んでから走り出すまでの間に、私たちはいくつもの確認をしています。ミラーの角度を直し、シートベルトを締める。その並びに、ドライブレコーダーを加えてみてください。

確認するまでが、設置です。そこまで済ませて初めて、「信号は青でした」という言葉を支えるものが、車に残ります。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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