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「今はまだ走れるので」15万km走行した車から焦げた臭い…60代男性が直面した“40万円”の痛手、なぜ?

  • 2026.9.1
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

「ATFは無交換でも大丈夫」という情報を信じて、長年メンテナンスをしなかった結果、オートマチックトランスミッションの修理が高額になってしまうことがあります。

今回は、私が以前勤務していた整備工場に修理で来られたお客様、60代男性のFさんの事例です。初期段階で異変は見つかっていたものの、修理を見送ったことで症状が進行し、最終的に約40万円の修理へ発展しました。

「最近、変速するときのショックが大きくて」

Fさんが来店されたのは、走行距離約15万kmの車でした。

「最近、変速するときのショックが大きくなったんです。それと、発進するときに少し滑るような感じがして」

そこで試運転を行うと、2速から3速へ変速する際に強いショックが発生。発進時には、車速が上がる前にエンジン回転だけが先に上昇するような「滑り」も確認できました。さらにATFを点検すると、本来は赤みのあることが多いフルードが黒く変色し、焦げたような臭いもします。

「ATFは今まで交換されていますか?」

そう尋ねると、Fさんは、

「一度も交換していません。ネットで『ATFは無交換でも大丈夫』と書いてあったので」

と話されました。点検の結果、ATFの劣化だけでなく、オートマチックトランスミッション内部にも何らかの不具合が発生している可能性が考えられました。

危険性を説明したものの、修理は見送ることに

私はFさんに、確認できた症状と今後のリスクを説明しました。

「変速ショックや発進時の滑りが出ているので、内部のクラッチや油圧を制御する部分などに異常がある可能性があります。今すぐ走行不能になるとまでは言えませんが、このまま乗り続けると症状が悪化して、最終的に走れなくなる可能性もあります」

さらに、ATFがかなり劣化していることから、

「フルードを交換すれば必ず直るという状態とも限りません。内部の状態を詳しく診断したうえで、修理が必要になる可能性があります」

と伝えました。

しかし、修理費用が大きくなる可能性を聞いたFさんは、

「今はまだ走れるので、できればもう少し様子を見たいです」

と修理を見送る判断をされました。その際、症状が悪化した場合は無理に乗り続けず、早めに再度点検を受けることや、長距離走行などはできるだけ控えるよう説明しました。ところが、その後もFさんは日常の足として車を使用。変速ショックや滑りは徐々に悪化していきました。

そして後日、ついに車が前進できなくなり、レッカー搬送されることになったのです。ミッションを分解すると、内部クラッチは焼き付き、摩耗粉が各部へ広がっていました。さらにバルブボディにも損傷が確認され、部分的な修理では再発するリスクが高い状態でした。結果としてリビルドミッションへの載せ替えとなり、工賃やATF、関連部品などを含めて修理費用は約40万円に。

「まだ走れると思っていたんですが、こんなことになるとは」

Fさんはそう肩を落としていました。

「無交換」という言葉だけを信じないこと

今回のケースで注意したいのは、「ATFは必ず交換すべき」という単純な話ではありません。ATFの交換時期や交換方法、交換そのものに対するメーカーの考え方は、車種や構造によって異なります。そのため、「無交換で大丈夫」「○万kmごとに必ず交換」といったネット上の情報だけで判断せず、取扱説明書やメーカーの整備方針を確認することが大切です。

一方で、すでに「変速ショックが大きくなった」「発進時に滑る感じがする」「変速タイミングがおかしい」といった症状が出ている場合は、単なるメンテナンス時期の問題ではない可能性があります。こうした違和感を覚えたら、「まだ走れるから大丈夫」と考えず、早めに整備工場で診断してもらいましょう。ATFは色や臭いなどから劣化の目安を確認できる場合もありますが、それだけで内部の故障状態まで判断できるわけではありません。点検の際には、フルードの状態だけでなく、変速ショックや滑りなどの症状も具体的に伝えることが重要です。

また、走行距離が多く、ATFが著しく劣化している車では、単純にフルードを交換すれば解決するとは限りません。交換方法や整備の可否を慎重に判断する必要があるケースもあります。だからこそ、自分で判断して交換するのではなく、車種や走行距離、症状を伝えたうえで、整備工場に「今どのような状態なのか」「交換だけで済む可能性があるのか」「内部修理が必要なのか」を確認してもらうことが大切です。そして、すでに滑りや大きな変速ショックが出ている場合は、症状が悪化する前に点検を受けることをおすすめします。

オートマチックトランスミッションは、修理内容によっては数十万円単位の出費になることもあります。「まだ動くから大丈夫」ではなく、「違和感がある段階で確認する」。その早めの判断が、結果的に大きな修理費用を防ぐことにつながるかもしれません。


ライター:松尾佑人(二級ガソリン自動車整備士・二級ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り、約8年間整備に従事したのち、現役メカニックに向けた故障診断アドバイザーや各種講習の講師として活動。年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路や配線図の読み解きを基盤とした電子制御システムの解説を得意としている。


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