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台風で隣家の瓦が直撃、車に約40万円の損害…→誰にも賠償責任がない“宙に浮いた事故”で30代男性を救ったもの

  • 2026.9.23
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

ある年の9月下旬、勢力の強い台風が通過した日のことでした。特に風が強く、周辺一帯で風雨による被害が出ていました。

契約者のAさん(30代・男性)の車も、その一台です。ボンネットには傷とへこみ、フロントガラスにはヒビ、サイドミラーも壊れていました。

原因は、隣に住むBさん(60代・男性)宅から落ちた屋根瓦です。瓦は落下の衝撃で割れて飛散し、損傷は車の広い範囲に及んでいました。

損害保険会社で事故対応を担当していた私は、この件でAさんから相談を受けました。ただ、最初に出てきたのは修理費の話ではありません。

「隣の人が、自分が支払うと言ってくれているんです」

Aさんは、それを断りたいのだと話しました。

今回は誰の過失でもない災害で車が壊れたとき、損害を誰がどう引き受けることになるのかというお話です。

隣人は頼まれる前に動いていた

隣の家から飛んできたものである以上、隣人に直してもらえるのではないか。そう考える人は多いはずです。

Bさん自身も、そう考えて動いていたそうです。Aさんから何かを求められたわけではなくても自分の保険会社に連絡し、Aさんの車の損害を賠償できないかを確認しています。

しかしBさんの保険会社から返ってきたのは、「対象外」という回答でした。

「誰の責任でもない」は「支払う義務がない」ということ

隣家の瓦が落ちて他人の物を壊した。

こうした損害に対応できるのは、自動車保険ではなく個人賠償責任保険です。火災保険や自動車保険に特約として付いていることが多く、日常生活での事故に加えて、住宅の所有・使用・管理に起因する事故を補償の対象としています。屋根瓦が原因の損害は、まさにこの範囲に入りそうに見えます。

それでも、支払いには至りませんでした。Bさんは自身の保険会社に食い下がったものの、結論は変わらなかったそうです。

個人賠償責任保険は、その名のとおり賠償責任保険です。支払いの条件になるのは「法律上の損害賠償責任」を負うことであって、住宅に起因する事故であれば何でも支払う保険ではありません。

台風のような災害では、瓦が飛ばされたこと自体に、基本的に誰の過失もありません。過失がなければ、法律上の賠償責任という義務が発生しない。義務がなければ、その義務を肩代わりする保険は使用できません。

Bさんの側に支払う手立てがなかったのは、Bさんが渋ったからではありませんでした。

仮に、Bさんに過失があれば話は別でした。たとえば手入れを怠り、瓦が剥がれたままの状態を長く放置していたような場合には、住宅の管理上の過失があったと判断されたかもしれません。しかし今回、そうした事情はありませんでした。

宙に浮いた約40万円

誰も悪くない。それは言い換えれば、Bさんは責任を問われずに済んだということでもありました。

一方で、Aさんの車の傷が消えるわけではありません。修理費は約40万円かかる見込みでした。責任の所在がないというのは、その約40万円を引き受ける人もいないということです。

しかし、保険で支払えないと分かったあとでも、Bさんはその約40万円を「自分で支払う」とAさんに申し出ました。Aさんは、それを断ったそうです。

「あんなに動いてくれたのに、そのうえ支払わせるなんてできないですよ」

そう話すAさんに、Bさんは引き下がらなかったといいます。隣同士で、押し付け合いではなく“譲り合い”が起きていたのです。その状態のまま、Aさんは自分の保険会社である私に電話をかけてきたのでした。

Aさん自身も諦めていた

Aさんが口にしたのは、こんな一言です。

「多分、対象外ですよね」

そう考えたのは、加入していた車両保険がエコノミー型だったからだそうです。補償の範囲を絞って保険料を抑えた商品なのだから、こういう損害までは入っていないだろう。

隣人の保険で直せないと分かった直後だっただけに、その思いは強かったそうです。

エコノミー型は何を外している保険なのか

エコノミー型の車両保険は、補償を一律に薄くした商品ではありません。

対象から外れるのは、単独事故や当て逃げが中心です。一方で、火災、爆発、盗難、台風、落雷、洪水、飛び石といった損害については、対象としている商品が多くあります。保険会社や商品によって扱いは異なるため確認は欠かせませんが、エコノミー型だから車との事故以外はすべて対象外と決まっているわけではないのです。

Aさんの契約も、台風による飛来物の損害を補償の対象としていました。

「使えるんですか。助かった」

Aさんの車の損害額約40万円から、1回目の事故に設定されていた免責金額5万円を差し引いた約35万円が、保険金として支払われることになりました。

車両保険を使ったので等級は下がります。ただし台風や飛来物による損害は、車同士の事故で使う場合と異なり、翌年の等級が1つ下がる1等級ダウンの事故です。翌年からの保険料が上がることに変わりはありませんが、割増が続く期間も含めて、3等級ダウンに比べれば負担は小さく収まります。

何が対象で何が対象外かは、保険証券の記載を見るか、保険会社や代理店に問い合わせれば分かることです。台風が近づいてから調べるより、シーズンの前に一度目を通しておくと落ち着いて動けます。

保険が引き受けたもの、Bさんが守ったもの

車両保険が使えたことで、約40万円の大半は宙に浮いたままにならずに済み、Bさんが自腹を切る必要もなくなりました。

法律上は、確かにBさんに賠償の責任はありません。それでもBさんは、頼まれる前に動き、保険会社に断られたあとには自分が支払うとまで言いました。賠償責任を負う人と、まったく同じ動き方でした。

台風は毎年やってくるものです。隣の家から何かが飛んでくることも、自分の家から何かが飛んでいくことも、どちらの可能性もあります。

Aさんの車を直したのは、車両保険です。しかし、隣人としての関係を守ったのは、Bさんの行動のほうだったのかもしれません。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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