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「失敗しちゃいましたね」9月連休中、帰省中の20代息子に車を貸した60代父親の末路

  • 2026.9.21
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「そんなはずはないです」

契約者のAさん(60代・男性)は電話口で私に言いました。

9月のシルバーウィークをレジャーではなく、実家への帰省にあてる人も多いのではないでしょうか。遠方に住んでいる家族が、乗り慣れていない実家の車を足として使う。親に代わって車を運転する。そんな場面も増えます。

「車両保険に入っていれば、万が一事故を起こしても大抵の事故には対応できる」と考える人もいるかもしれません。確かに一般型(フルカバータイプ)の車両保険は、自動車同士の事故から単独事故まで対応できます。

しかし、補償対象となるかどうかは、保険の種類だけでは決まりません。

今回は、損害保険会社で私が担当した、帰省中の家族が起こした単独事故のお話です。

帰省中に借りた車で縁石に接触

ある年の9月の連休を利用して、Aさんの息子さん(20代・男性)が帰省することになりました。Aさんは息子さんと仲も良く、久しぶりに会うことが楽しみだったそうです。

息子さんが家に到着。その後、買い出しに行きたいというので、移動手段がないと困るだろうとAさんは車を貸しました。そして、その買い出し中に息子さんは単独事故を起こしてしまいます。

接触したのは縁石。大きな事故とは言えないものの、貸していたAさんの車のバンパー、左フロントフェンダー周りが損傷し、修理費の概算は20万円ほどでした。

また、強めに接触していたことから、縁石にも損傷があるかもしれないとして、警察を通じて縁石の補修が必要かを確認しているとのこと。

事故を起こしてしまった息子さんでしたが、幸いケガはありません。

「それで息子には『気にするな、車両保険にも入っているから』と声をかけて、事故受付をしました」

Aさんは事故状況の説明をそう締めくくりました。

一般型でも使えなかった理由

Aさんの契約内容を確認します。車両保険は一般型。フルカバー型とも言われる、多くの事故に対応できる車両保険で、単独事故も対象になる型です。

ただ、私の目は別の項目に留まりました。運転者の範囲が、本人・配偶者限定になっていたのです。つまり、息子さんは含まれません。

「大変申し訳ありませんが」

そう前置きをして、私はAさんに説明をしました。

「限定なしで入っているはずですよ。息子が乗ることだってあるんですから」

Aさんは、そう繰り返していました。しばらくして、Aさんの言葉が止まります。

「そういえば……」

そう言ってAさんが話し出したのは、数年前の保険の見直しのことでした。

息子さんは大学を卒業したあと、そのまま就職して家を出ています。子どもが独立し、夫婦二人暮らしになったのを機に、Aさんは加入していた保険を一通り見直したそうです。自動車保険についても、保険料を少しでも抑えるため、運転者の範囲を限定なしから本人・配偶者限定へ変更していました。

変更そのものは、合理的な判断です。実際に運転するのが夫婦二人だけなら、範囲を広く取っておく理由はありません。ただ、Aさんはその変更を覚えていませんでした。

「じゃあ車両保険は使えないってことですね。それは仕方ないです」

Aさんはそう言いました。しかし担当者として、私にはもう一つ伝えなければならないことがありました。

息子さんの運転中は“補償がない時間”だった

運転者の範囲から外れているということは、車両保険に限った話ではありません。息子さんが運転している間は、Aさんの任意保険はどの補償も使えない状態でした。

ここで問題になるのが、確認中だった縁石です。縁石に損傷があり補修が必要だと判断された場合、その費用は相手の所有物に対する賠償にあたります。本来であれば、対物賠償責任保険で対応する金額です。

しかし今回は、その対物賠償責任保険も対象外。補修が必要になれば、全額がAさんの自己負担となります。

縁石の補修は、工事費だけで見当をつけられるものではありません。交通量の多い場所などでは、作業中に交通整理の要員を手配する必要が生じ、人件費は損害額に上乗せされます。場合によっては数十万円の損害額になることもあります。そう伝えると、Aさんはしばらく黙っていました。

「わかりました。せめて縁石の損害がないといいのですが……」

「補修が必要になった場合には、また相談させてほしい」。Aさんからそう言われた私は、道路管理者から連絡が入るまで相談窓口として担当を続けることになりました。

警察からの電話

事故から3週間ほど経った頃、Aさんから電話が入りました。

「補修は不要だそうです」

縁石に補修を要する損傷はなかった、という連絡でした。

「少しほっとしました。補償の見直しは大事ですけど、今回はその見直しで失敗しちゃいましたね」

Aさんは、最後にそう話していました。

証券は「範囲」から先に見る

連休や帰省で、家族が運転を代わる予定があるときには加入している自動車保険の契約内容を必ず確認しましょう。

まず、確認するのは運転者の範囲です。年齢条件の確認はそのあとでかまいません。運転者の範囲に入っていなければ、年齢がいくつであっても対象にはなりません。今回のAさんの契約が、まさにそれでした。息子さんが何歳であっても、結論は変わっていません。

逆のことも起こります。たとえば、運転者を限定していない契約で、年齢条件を30歳以上に設定しているとします。ここに、別居している子ども(22歳)が帰省し、その車を運転して事故を起こした場合は補償の対象です。

年齢条件が適用されるのは、記名被保険者、その配偶者、それらの同居の親族などに限られます。別居している子どもには、年齢条件が及びません。運転者の範囲に入ってさえいれば、年齢は問われないということになります。

なお、運転者の範囲から外れていた場合でも、運転した息子さんの契約に他車運転特約が付いていれば、相手の所有物への賠償は対象になる可能性があります。今回は、息子さんの側にその契約はありませんでした。

詳細な条件は保険会社によって異なる場合があるため、ご自身の契約内容や約款をご確認ください。

車だけでなく自動車保険も

保険料が上がり続けるなか、使わない補償を外して負担を抑えることは必要な判断です。Aさんの見直しも、その時点では理にかなっていました。ただし、外した補償がなんであったか覚えていなければ、より大きな損失を招く可能性があります。

物価の高騰が続くいま、保険を見直す重要性はこれまで以上に高まっています。だからこそ、自分の契約がどこまで補償しているのか確認するまでを含めて「見直し」だと考えておきたいところです。

車だけでなく、自動車保険の手入れも欠かさないようにしましょう。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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