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「退職金に約1,000万円の割増」会社から条件提示され早期退職を決意→しかし、50代男性が見落としていた“想定外の落とし穴”

  • 2026.8.24
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。FPで退職金の受け取り方や早期退職の相談を数多く受けてきた柴田です。

「割増退職金1,000万円」という数字を目の前に置かれて、冷静でいられる人はそう多くありません。

今回は、早期退職の募集に飛びついた夫と、電卓を叩いた妻・Aさんご夫婦のお話です。

「今なら1,000万円の上乗せ。辞めない手はない」

Aさん(50代・女性)の夫の会社で、早期退職の募集が始まりました。

提示された条件は、通常の退職金に約1,000万円の割増。夫はすっかりその気で、「1,000万だぞ。定年まで働いてもこんなチャンスはない」「60歳まで働かなくても自由な生活を送れる」と夕食のたびに熱弁をふるいます。

一方、家計簿を預かるAさんは、どうにも不安を拭えずに電卓を手に取りました。毎月の生活費は約30万円。1,000万円を割ってみると33か月。「え、3年もたないの?」と青ざめたAさんは、私のところへ相談に来られました。

私が試算してみると「上乗せ」は心許ない数字だった

ご夫婦の資料を預かって、私が定年まで働いた場合と比べる形で試算しました。

まず、辞めた後も出ていくお金が続きます。健康保険は任意継続か国民健康保険で全額自己負担。国民年金の保険料も夫婦2人分。そして住民税は「前年の所得」にかかるため、収入が途絶えた翌年に現役時代の税額の請求が来ます。ここだけで、ざっくり初年度は100万円規模です。

次に、入ってこなくなるお金。定年までの給与数年分はもちろん、退職金の税優遇である退職所得控除にも落とし穴があります。控除の枠は勤続年数で決まり、勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えた分は1年あたり70万円ずつ積み上がる仕組みです。

つまり、勤続の後半こそ1年あたりの枠が大きいのに、早く辞めるとその「おいしい年数」を自分から手放すことになります。割増で退職金の総額が膨らむのに枠は小さくなるので、課税される部分はダブルで増えるわけです。

さらに厚生年金の加入期間が短くなるぶん、65歳からの年金額は生涯にわたって減り続けます。月数千円の差でも、20年、30年と受け取り続ければ100万円単位です。割増1,000万円から、これらを差し引いた「本当の上乗せ」は、生活費の何年分にもなりませんでした。数字を並べた紙を見て、ご主人はしばらく無言だったそうです。

比べるべきは「割増の額」ではなく「生涯収支」

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

誤解のないように言うと、早期退職が常に損というわけではありません。再就職のあてがある、独立の計画がある、住宅ローンの返済が終わっているなど、条件次第では合理的な選択になります。

問題は、「割増◯◯万円」という一点だけを見て決めてしまうことです。比べるべきは、定年まで働いた場合との生涯収支です。給与、退職金の税、社会保険、年金。これらの情報を精査して、はじめて本当に合理的な判断なのかがわかります。

そして、ご主人を責めるのも少し違います。人間は、桁の大きい数字を目の前に置かれると判断力が鈍る生き物です。しかも早期退職の募集には応募期限があり、「今決めないと」という空気が判断をさらに急がせます。

特に、ここ数年は早期リタイアして自由な生活を送る「FIREムーブメント」も話題です。おそらく、この点もご主人に影響を与えたのでしょう。

意思決定に大きな数字と締め切りの組み合わせは、冷静さを奪います。正しい意思決定ができるかどうかは、家庭内に「電卓を叩いてくれる人」がいるかどうかが効いてくるのです。

まとめ

まとまった金額は、判断力を奪います。だからこそ、募集の紙を持ち帰ったら、返事の前にシミュレーションを行いましょう。会社の人事に退職金の試算資料を求め、年金はねんきん定期便で確認し、ライフプラン表も作成してみてください。

Aさんの夫は結局、今回の募集は見送りました。「1,000万円の魅力より、妻のシミュレーションのほうが強かった」とは、ご主人の弁です。大きな決断ほど、守ってくれるのは気分や感情ではなく、分析に基づく数字なのです。


執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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