1. トップ
  2. エピソード
  3. 「香典は全部、うちが預かっておくから」10年の介護を私ひとりに任せた兄夫婦。だが、叔母の質問に空気が固まった瞬間

「香典は全部、うちが預かっておくから」10年の介護を私ひとりに任せた兄夫婦。だが、叔母の質問に空気が固まった瞬間

  • 2026.7.26

徒歩1分の距離にいた兄夫婦

父が自分で立てなくなってから見送るまで、通い続けた10年でした。

出勤前に寄って様子を見て、帰りにもう一度寄る。

そういう日の積み重ねです。

兄の家は、父の家から徒歩1分でした。

角をひとつ曲がれば玄関の明かりが見える距離です。

それでも兄夫婦が父の部屋に上がった回数は、両手で数えられるほどでした。

兄の妻は、私の同級生です。

兄と結婚するまで、こういう距離の取り方をする人だとは知りませんでした。

「うちは共働きだから、そっちで見てもらえると助かる」

「何かあったら、すぐ呼んでね」

呼んでも来ないことのほうが多かったのですが、父は最後まで、そのことを口にしませんでした。

受付の机で、箱に手がかかった

父の葬儀の日、受付の机を任されたのは私と、父の妹にあたる叔母でした。

参列された方のお名前を帳面に書き留めて、香典袋を箱に入れていきます。

片づけに入ったころ、兄がその箱ごと持ち上げました。

「香典は全部、うちが預かっておくから」

「返礼の手配もあるし、こっちでまとめたほうが早い」

義姉が横から袱紗を抜き取って、鞄に入れました。

「細かいことは私たちでやっておくから、大丈夫」

叔母が帳面を閉じずに、顔を上げました。

「その帳面、金額まで全部つけてあるのよ。写しはどちらにお渡しする?」

兄が箱を持ったまま止まりました。

義姉が兄の顔を見て、それから叔母の手元へ目を移します。

斎場の担当の方が書類を持って近づいてきました。

「ご香典のお預かりは、喪主様のお名前でお願いしております」

箱が机に戻された

喪主の欄には、私の名前が入っていました。

兄が何か言いかけて、そのまま口を閉じます。

義姉は袱紗を鞄から出して、机の上に戻しました。

「…立て替えるのも大変でしょ、って思っただけよ」

「ありがとう。でも入院のぶんも立て替えているので、私がやります」

叔母が帳面を私に寄せて、親戚のほうを向きました。

「この子が10年通ってたのは、みんな知ってるからね」

何人かが、小さくうなずいていました。義姉は目を伏せたまま、しばらく机の角を見ています。

兄は箱を机に戻して、控室のほうへ歩いていきました。

返礼の手配は、私がひとりで済ませました。四十九日の席でも、香典の話は最後まで出ません。

義姉と一度だけ目が合って、先にそらしたのは向こうのほうでした。徒歩1分の距離は、あの日から縮んでいません。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、50代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ